第351話これも凱旋?きっと凱旋?
「はぁ…………」
「どうしたのリブ。溜息ばっかりつくと幸せが――――」
「はぁっ!?」
「って、今度は溜息じゃないみたいよ? スミ姉」
ラブナと二人でさっきから情緒がおかしいリブを見やる。
「そりゃそうでしょっ! あなたたちといると色々と常識がおかしくなるのよっ!」
「リブ。あまり常識に拘ってると自分の可能性を――――」
「そんな話聞きたくないわっ!」
「リブさん。いちいちスミ姉のやる事に――――」
「それも聞き飽きたわっ!」
「リブ。人の話を聞かない人は、いざって時自分の話も――――」
「ああもうっ! 何で私が説教されるのさっ!」
もの凄い剣幕で叫びだすリブ。
一体何が気にくわないのだろうか?
もしかして女性特有の日?
「違うわよっ!」
「あれ? また声に出して――――」
「――――たわよ、スミ姉。あと小言が多過ぎだわ」
「そ、そうなんだ教えてくれてありがとうラブナ。あ、お替りは?」
「ちょうだいスミ姉っ! コクコク」
お替りを所望だったので、ラブナのグラスに果実水を注ぐ。
朝から天気もいいし、日差しも近いから余計喉が渇いちゃうよね。
「そうだ。ケーキもあるけど、紅茶も出す?」
「う~ん、アタシはこのまま冷たいので良いわ、スミ姉」
「じゃ、私はいただこうかな?」
「それよっ! それがおかしいのよっ!」
「え?」
「へ?」
紅茶を注ごうとした瞬間、私を指さし金切り声を上げるリブ。
何だろう。今度は反抗期かな?
「あのさ、リブ。あまり人のことを指さすのは――――」
さっきからマナーの悪いリブに注意しようと口を開くが、
「ほんっとうにっ、何やってるのさっ! 何で空を飛びながらテーブルセットでお茶してるのさっ!」
それさえも遮られ、更にヒステリーを起こすリブ。
まぁ、今の状況は、大体はリブの説明口調の言う通りなんだけど。
だって街の流通に影響を与えていた元凶は退治したんだもん。
後はシクロ湿原の景色を満喫しながらのんびり帰りたいよね?
そんな訳で、帰りは透明壁スキルに乗って、上空からお茶をしながら帰るところだ。
「何でって………… 一仕事終わったから?」
「それでいいんじゃない? スミ姉も帰りくらいはゆっくりしたいわよね?」
「~~~~~~っ!!!!」 ぷるぷる
「そうだね。それにここからだとシクロ湿原も見渡せるし、きれいで可愛いキューちゃんたちの花も見れるからね」
空中から壮大で広大な湿原を見渡し、そして水の中にいるだろうキュートードを想って心を休ませる。ラブナの言う通り、アバターの私だって精神は休息を取りたいのだ。
「だからリブも帰りはのんびりしなよ。お替りならいくらでもあるから」
ずっと立ったままのリブの前に紅茶を注ぐ。
ついでにレーションのケーキも添えてあげる。
「はぁ~~、もうどうでも良くなってきたわ…… でも帰ったら色々聞かせてもらうからねっ! スミカの魔法の事もラブナちゃんの属性魔法の事もっ! ゴクゴクッ」
長い溜息の後で出された紅茶を一気に煽る。
「ブブ~っ! 色々聞くのは禁則事項よ、リブさんっ!」
「ブホゥッ~~!! ゲホゲホッ! もう、本当に色々と納得できないわっ!」
いつものラブナの警告に、口に含んだ紅茶を吹き出し不満爆発のリブ。
その光景はたった半日でもう恒例になりつつあった。
私たちはそんなやり取りをしながら、数時間ぶりにノトリの街の外門に戻ってきた。
散歩よりも短い時間だけど、これも凱旋って言うのかなって疑問に思いながら。
――――――――
「あれ? お前たち帰ってきたのか…… ああ、それも正解だな。じきに国への要請で討伐隊が来るだろうからな。だからって別に恥じる事はないぞ? 誰だって命は惜しいからな」
門に着いた途端、出る時にも会ったノトリの街の門兵さんに、励ましなのか、慰めなのか、良く分からない気遣いをされる私たち。
「え? あ、ありがとう」
「「………………」」
まぁ、勘違いしているのはわかるけどね。
通常であれば往復だけで半日を使う距離のはず。
なのに、午前中に出て、ケロッとした顔でお昼前に帰ってきたのだから、途中で引き返したと思うのは普通だろう。
どこもケガしてないし、疲労もあるようには見えないし。
そして、まだ言い足りないのか門兵さんの話は続く。
その内容は勘違いしたままだけど。
「まぁ、それは仕方のない事だ。俺もかなり期待してしまったが、あれは忘れてくれ。いくら強い冒険者だといっても、子供だけに任せるのは間違ってたと思うからな。ははは」
「「「………………」」」
口ではそう言っているが、何となく肩を落としている様にも見える。
最後の笑顔も無理しているのだとわかる。
「ああ、それとこの街では有名な食い物があってな、特にシクロ湿原で採れる『あしばり帰る亭』で絶品のキ………… うおっ!? な、なんだそれはっ!!」
話を続ける門兵さんの前にドスンと白リザードマンのボスの半身を置く。
半分でも全長は30メートルを超えるから驚くのも無理はない。
「これは――――」
「論より証拠ってね。おじさん、スミ姉が一撃で倒した湿原の魔物よっ!」
何故か私の代わりにラブナが前に出て指さし説明をする。
いつもの仁王立ち姿で。
「だから俺はおじさんって歳じゃ…… にしても、コイツはなんなんだっ!?」
その大きさと異形さに驚愕する門兵さん。
「うん、あのね――――」
「これは湿原に現れた謎の敵の親玉みたいなものよ。小さいのはスミカが捕まえて、私とラブナちゃんで爆発させちゃったから残っていないけどさ。だから暫く湿原は安全らしいわよ。スミカが言うにはさ」
今度はリブが事細かく門兵さんに事情を説明をする。
ただし、謎の襲撃者のアヤの存在は伏せたままだ。
って言うか、何で私のセリフを全部横取りするの?
「こ、これを一撃で倒したっ!? それと安全っ!? 本当かスミカっ!」
二人の説明を聞いて、更に仰天して私に詰め寄る門兵さん。
「うん、確実とは言えないけど私はそう判断してる。理由は事情があって言えないんだけどね…… まぁ、また出たら退治に来るから心配しないでいいよ。その時は依頼して?」
目の前の門兵さんに冒険者証を渡す。
って言っても、これ見せないと中に入れないんだけど。通行証の代わりだし。
「あ、ああ、もう名前もパーティー名も覚えているっ! お前のところはリーダーも含めてメンバーは異常だからなっ!」
「異常って…… まぁいいけど」
すぐさま突っ返され微妙にディスられる。
「で、俺はこれから報告に行って来るっ! 一応事実の確認の手配をしなくてはならないからなっ! お前たち…… じゃなかった、英雄さまは宿でゆっくりしててくれっ! それじゃ後でなっ!」
「え? あ、ちょっと――――」
一気に捲し立てて全力で駆けだす門兵さん。
そうするとここの門の守りはどうするんだろうか?
それとラブナとリブは通行証見せなくても入っていいのだろうか?
「なんだか随分な慌てようだったわね、あのおじさん。仕事ほったらかして」
「いや、ラブナちゃんあれが普通だから。あんな報告とあんな巨大な魔物見たら」
後ろ姿を見送って、呆れ顔で感想を言い合う二人。
十分にあなたたちもおかしいからね。
「多分交代を寄越すと思うよ? あの人だけじゃないし。だから私たちは宿に帰ろうよ。マハチたちもエーイさんたちも待たせているんだから」
二人の背中に声を掛け先に歩き出す。
「いや、待ってるって言っても数時間だけだわっ! しかも早く帰っても、もう終わったなんて信じてくれないわよっ!」
「うん、確かにリブさんの言う通りだわ。なら少し街を見てから戻る? やっている露店とかも結構あったわよ」
「う~ん、でも心配してるだろうから、早く顔見せて安心させたいよね。特にマハチとサワラは直接あいつらと対峙してるから、余計に心配してそうだし。ね? リブ」
「そうね、冗談はここまでにして、早く宿に帰りましょう。遅い方が良いって事はないからさ」
リブもラブナもお互いの顔を見合わせ、私の隣に並んで歩き出す。
さぁ、これから宿に戻ったら居残り組への報告と祝勝会だ。
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