第102話人外の嫁さん疑惑と賢いオオカミさんと



 クレハンは、私たちに微妙に睨まれ――――

 じゃなくて、注目されながら話しを再開する。



「あ、あの決して、絶対とか、確実とか、必ずとかの確証はないんですよ? そ、それでもいいんですか?」


 そうクレハンは切り出す。

 微妙にドもって、微かに怯えながら。



「ああ、構わねえッ。クレハンの考えでもダメなら、それこそ誰が考えても一緒だッ。そん時は、俺も嬢ちゃんたちと一緒に街を出て行くッ!」


「それはギルド長っ! いくら何でもっ!」


「そうだよ、ルーギル。あなたはギルド長でしょ? 大好きな冒険者たちを残して、街を出て行くの? そんな事をしたって、誰も歓迎しないし、喜ばないよ?」



 突然のルーギルのカミングアウトに、一同は騒然とする。

 だけど、それはおかしいと私は意見を述べる。

 


 更に続けて姉妹の二人も、思いの丈を述べ始める。が、


「ルーギル、あ、あなた、そこまでの覚悟でスミカお姉さまを―――― そ、それってやっぱり、求婚なのですかっ!」


「んなっ! ちょっとナゴタ、何言ってんのっ!」

「そ、そうだぜッ! 何で俺がこんな幼女をっ!」


「ルーギルっ! なんかスミカ姉の見る目が嫌らしいと思ってたんだっ! お、お前はやっぱり、ロリコンなんだなっ!」


「ロリっ!? 私はそんなに幼くないよっ!」

「はぁ!? ゴナタ、お前は俺の事一体どういう目で見てんだよッ!」


 全くの濡れ衣&勘違いする姉妹に、二人して突っ込む。


 何をどう曲解したらそんな考えに至るのだろう。


 それにルーギルを幼女好きみたく言ってるけど、私は十分立派な大人だ。

 ほら、この大人の女性の立派な象徴を見てよっ! て感じ。本来のだけど。



「ちょっと待ってくれよォ! なんで俺が出て行くことになってんだァ! ってか、なんで俺が、子供好きになってんだァ? いくらなんでもそれは無えだろうッ! 俺には嫁がいるんだぜッ!」


 勘違いされたままが、余程嫌だったのだろう。

 更にルーギルは、姉妹の二人に食って掛かる。



『……………』


 まぁ、その気持ちはわかる。

 私だって、正直困るって言うか、めちゃくちゃ嫌だし。



 それにしても、気になる単語が……



「ルーギルって結婚してたのっ!」


 今の話の内容を聞いて、すかさず突っ込む。



 まさか、こんな野蛮で粗暴な、見た目山賊か海賊みたいな男に、

 恋をした女性がいるなんて驚きだ。



 私以外の女性陣を見ると、みな驚きの表情で言葉を失っている。

 クレハンは知っていたのか、特に表情の変化はなかった。


 ただ出て行く事を聞いた時は、さすがに驚いてはいたようだけど。



『う~ん、……』


 ルーギルの結婚相手って、ルーギルと一緒で戦闘狂のアマゾネスみたいな女性ではないだろうか? それか、何でも許せる慈悲深く寛容な女神のような女性なのだろうか?



 それか、もしかしたら――



『人間じゃないかも――――』



 そう。

 これが一番しっくりくる。


 そもそも結婚できるのだろうか? 人外の存在と。


 もしこの世界では出来るのだとしても、

 戦うだけの嫁だなんて、いくら人間じゃなくても可哀想すぎる。



 だから、どこか間違った事をしているルーギルに、一言注意をしようと、


「あのさ、ルーギル。いくら何でも――――」

「いや、人間だから。スミカ嬢ッ」


 言おうと思ったら、ルーギルに先に話された。


「……………………?」


 なんだろう。

 また考えている事を言葉に出してしまったんだろうか?

 最近は大丈夫だったのに。


 いやそれはない。

 気を付けているんだもん、最近は。



「スミカお姉ちゃん、それはないと思いますよ?」


「スミカお姉さまの言いたい事はわかりますが、それはないかと思います」

「うん、うんっ!」


「う、うん、そうだよねっ!」


 やっぱり言葉に出ていたらしい。

 ルーギル以外にも聞こえたみたいだから。



「いや、俺はクレハンが言うんだったら、間違えねえと思ったから言っただけだァ! まぁ、また冒険者をしたいって気持ちも、少しはあると思うがァ…… んッ? 少しじゃ無えなァ、もっとかァ? 嬢ちゃんたちとの冒険は楽しかったし――――」


 今度は勝手に自問自答して、頭を抱えて悩み始める。

 一体何がしたいのだろう。



「まぁ、この戦闘狂のルーギルはほっといて、先に話を進めてよ。クレハン」


「ああんッ! 俺は戦闘狂じゃねぇッ! ただ冒険がだなァッ!」


「わかりました。それでは先に進みましょうか? ギルド長は置いておいて」

「そうですね。一々話の腰を折るルーギルは必要ないでしょう?」

「おう、そうだなっ! クレハン続けてくれよっ!」

「ルーギルさんは、このままでもいいです。先をお願いしますクレハンさん」


「お、お前らなァ―――― もういいやッ! はぁ」」



 クレハン、そして、ユーアまでにも愛想をつかされたルーギルは、

 今度は膝を抱いて蹲ってしまった。



「わかりました。それではお話をさせていただきましょう。まず、姉妹たちを街で住めるようにするのには必要な事があります。それは――――」


 クレハンは佇まいを直して「キリッ」とメガネを直す。


 そして「ビシッ」と私を指差し、



「それは、スミカさん本人の宣言と、圧倒的な実力を示すことですっ!」

「ええっ~! わ、私っ!?」



 どういう事っ!?



◆ ◆ ◆ ◆



 ここからはユーアが冒険者になった直後のお話です。



 前回のあらすじです。


 ボクは冒険者になって初めてのお仕事に、ビワの森にきました。


 地図を見ても初めての場所で、迷ってしまったボクは、

 森の奥から聞こえる、鳴き声のする方に行きました。


 そこには罠にかかったオオカミの魔物が倒れていました。


 ※ユーア視点でのお話になります。

 (2/3)





 ケガをして弱っている、オオカミの魔物の子供の前に座りました。



 罠を外すのと、ケガを治したいと思ったからです。


 多分この罠は、冒険者の人たちが、危険な魔物を間引いているって言っていたから、この魔物は関係ないと思って。きっと危なくない魔物だから。



『このオオカミさんは、嫌な感じがしない。だから逃がしてあげたい。まだ、ボクと一緒で子供みたいだし――――』


『くう~~ん』 


「待っててね、オオカミさん。今すぐ罠を外してあげるから」



 ガチャッ、ガチャガチャッ



 弱っているオオカミさんに声を掛けて、罠を外します。


 持ってきたナイフと近くの枝を拾ってなんとか外せました。

 それでもオオカミさんは立ち上がる事もできませんでした。



「まだ待っててね? 先に傷を治療しちゃうから」



 ボクは、オオカミさんを撫でながら、薬草と布切れを出します。

 いい傷薬とか回復薬は、まだボクには買えません。包帯も持っていません。



「ふうっ。これで大丈夫かな? 後はお腹減ってるよね」



 治療が終わっても、まだ起きれないオオカミさんに、お水を飲ませて、食べ物を出します。


 傷の痛みよりも、きっと長い間罠にかかってて、お水や食べ物を食べられなかったのが原因かなと思ったからです。



「うううっ、こ、これも、あげるね……」



 お水を飲ませ終わったボクは、今度は貰った干し肉を出します。

 これは孤児院のラブナちゃんからお別れの時に貰ったものです。


 ボクのお口で、二口分しかなく少ないけど、お肉はこれしか持ってません。


「はい」

『わうっ!』 


 くんくんと、匂いを嗅いだ後、オオカミさんは一口で食べてしまいました。



 もっと味わって欲しかったけど、大きなお口だからしょうがないよね?

 それにそんなに大きな体だったら、これだけじゃ足りないし。



「オオカミさん、パ、パンも食べる?」



 ボクは他にも固いパンを準備してきたのでそれもあげました。

 全然足りなさそうなので。ボクのお昼ご飯ですが……



『くぅ~~ん、パクっ!』



 それもお肉と同じように、一口で食べてしまいました。

 それと、なんか元気が出てきたみたいでした。


 ヨロヨロとだけど、起き上がりました。

 ボクは少し安心しました。


 もう大丈夫かな?



「それじゃ、ボクは行くね。もう罠には掛からないでね。ボクはまだお仕事の途中なんだ。だから行くね。一体どこにあるんだろう? ○○の葉っぱは――――」


 オオカミさんにお別れを言って、お仕事に戻ります。



『くぅ~~ん、くぅ~~んっ』


「ん、何? どこに行くの? ボクも?」



 オオカミさんは、ゆっくりだけどボクの前を歩いて行きます。

 その後ろを不思議に思いながら付いて行きます。



 このオオカミさんが『こっちだよ』って言ってる気がして。



『くぅ~~ん、くぅ~~んっ』



 ちょっと歩いて、オオカミさんは森の茂みの中の大きな木の前で止まります。

 今度も『ここだよ』って、聞こえた気がしたので。


 そこには、


「え、これって? ――――」



 そこにはボクが欲しかった、お仕事で探していた素材がありました。


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