第321話身なりも心機一転




「はぁ、はぁ、はぁ ――――」

「ふぅ、ふぅ、ふぅ ――――」

『わう?』


『はぁ、はぁ、って、何でハラミに乗って来たのに疲れてんのっ!』


 二人の胸囲の挟撃から逃れてハラミから降りたはいいが、私もナゴタもゴナタも息を乱したまま歩いている。そして姉妹は少し上気した顔で、フラフラと後を付いてきている。


『そ、それにしても…………』


 あの三人乗りは一体何だったんだろう……

 数分で、絶望と失意と敗北と天国と地獄を一度に味わったあの時間は。


 何か私のパーティーって、年齢が上に行く程、変な行動と言動が多いような……



 そんなBシスターズの年齢はというと、


――――――


 ナジメ 106歳(AAA)

 ナゴタ  16歳(G)

 ゴナタ  16歳(G)

 私    15歳(D)

 ラブナ  13歳(C)

 ユーア  12歳(AA)

 ハラミ   ?歳(?)


(  )内は澄香の推定胸部サイズ。


――――――



 そう、こんな感じ。


 ナジメが一番の年長者だけど、一番手が掛かってる気がする。

 中身が見た目通りに幼児化する事があるから。


 ナゴタとゴナタは―――― 意外と常識人だとは思う。

 でも時折突飛な行動をする。

 毎回それに私が関わっている気もするけど……


 ラブナはあれだ。

 手は掛からないけど、何を言い出すのかわからない。

 その気質と性格上、厄介ごとを持ち込みそうな危なっかしい雰囲気がある。

 ただ今のところは大丈夫だ。


 ユーアは手のかからないって言うか、こっちから手をかけたくなる存在。

 見た目もそうだけど、ラブナよりも危うい思考の時がある。

 特に自分に無頓着なのが――――



「お姉ぇっ! あれスラムの人たちじゃないか?」

「ん? どれ?」


 ゴナタの呼びかけに思考を止め短く返事をする。

 その視線の先には、数人の男の人が荷車に何かを乗せて運んでいる。


「うん、そう。だよね?」


 その男の人たちを見て、何故か疑問形になってしまう。


「いや、私は会った事ないので、お姉さましか知らないと思うのですが……」

「なんか想像と違って結構裕福そうだなぁ?」


「あれ? 知ってる顔ばかりなんだけど、ゴナタの言う通りに雰囲気が違うんだよね。いったい一晩で何があったんだろう?」


 連日会っていたスラムの人たちを見て、軽く首を傾げる。

 そんなみんなは私たちに気付き、声を上げてこちらに向かってくる。



 タタタ――



「あねさ~~んっ! 昨日はありがとうございましたっ! それとおはようございますっ!」


「「「ありがとうございましたっ~~!!」」」


 一番先頭で声を上げるのは、この街の責任者(仮)の息子のカイ。

 その後ろからは5,6人の男の人たちも荷車を押して走ってくる。



「おはようみんな。ってお礼言われる事したっけ、昨日?」

 

 挨拶より先に、お礼を言われた事を不思議に思い聞いてみる。


「えっ? これだけ仕立ての良い服を用意してくれたのに?」

「服?」


 そう言ってみんなは「クルリ」と回り衣服を披露してくれる。


『ふむ、これは』


 私はみんなを見て、雰囲気が違うと思った理由。


 それはみんなが身なりの良い、ごく普通の服装に変わっているからだった。

 街でよく見かける一般的な服装だった。



「いや~、昨日の夕方に、背の高いゴツイ男たち4人が来た時には焦りましたよ。ここから俺たちを締め出すのかとハラハラしましたから」


「ゴツイ4人組?」


「そうですよ。姐さんとナジメさまが帰ってから、夕刻の遅い時間にやってきて『注文の品、お届けに参りましたわぁ~』と、街の人たちの分の服を置いて行ったんです」


「う~ん、なんかその口調に聞き覚えが……」


 しかもつい昨日に会ったような……


「あ、その方は『ニスマジ』て言ってました。何だかナジメさんに姐さんが頼んでくれてたそうで、みんなもキレイな服を着られて喜んでましたよっ!」


「持ってきたのは、やっぱりニスマジかぁ…………」


 って事は残りの三人は、あの店の看板男かな?

 お使いに駆り出されたって感じで。


 それとニスマジに注文したのは、きっと私が昨日渡した封書だろう。

 ナジメからニスマジに渡してと、私に頼んだ。

 

『う~ん、ナジメにも気を遣わせちゃったね? さっきは年長者で一番手が掛かるって思ってゴメンさない。それとありがとねっ!』


 カイの話を聞いて経緯が分かり心の中で謝罪と感謝をする。

 


「―――― そんな訳で、みんなで姐さんに…… ってどうしたんですか?」


 ナジメの心遣いに感動していると、カイが私を覗き込んでくる。


「う、ううん、何でもないよ。それよりもその胸のマークは何?」

「これは黒アゲハ蝶のマークですよっ!」


 そう言ってみんながそれを強調するかのように身を乗り出してくる。


「うん、それは見てわかる。ワッペン?みたいなのに印刷してるの? じゃなくて、なんでそんなのが付いてるって話だよ」


 今までの話の通り、服装は色々と種類があるが、全てに共通しているのが胸に貼ってあるワッペンのマークだった。しかも蝶のシルエットでデザインはみんな同じだ。



「それは俺にはわかりませんよ。貰った衣服全てにこのマークが入ってるんですから。姐さんの方で頼んだんじゃないんですか?」


「わ、私が――――」


 て、この場合はこちらが気を使う番だろう。

 きっとナジメかニスマジが付けたんだろうから。


「そ、そうだよっ! 私が頼んだんだったっ! あ、あははっ!」


 そう、これが正解。

 ここで余計な事を言って、二人の好意を無駄にすることは出来ないからね。



「ですよねぇっ! これ姐さんのシンボルマークみたいで気に入ってるんですよっ! この街を救ってくれた蝶の英雄さまの街みたいでっ!」


 カイもみんなも胸を張っているように見える。

 一昨日までの悲壮感もなく、自信に溢れているようにも見える。


 きちんとした身なりは、きっと内面まで変えてしまうのだろう。

 そして蝶のマークは少なからず、希望にも繋がるんだろう。


 これからはその新しい服と蝶のマークで、生活が発展していくのだから。



「ふわぁ、んん~、あれ? スミカ姉ちゃんっ?」

「ううん? あっ! スミカお姉さん、お、おはようございますっ!」


「え?」


 カイの後ろの荷車から声が聞こえる。

 その声は知ってはいるが、まるで寝起きのような声だった。 


「ボウと、ホウもいたんだ。で、そこで何してんの?」


「うん、朝の手伝いしてたら荷台で寝ちゃったんだよ。ふわぁ~」

「はい、荷台で運ばれている内に寝てしまいました~」


 そう言って若干まだ眠たそうな目で体を起こす。


「あ、二人とも服が新しいね。中々似合ってるねっ!」


「うんっ! ありがとうな、スミカ姉ちゃんっ!」

「この蝶の意匠も素敵ですっ!」


 私が二人を褒めると顔を輝かせて笑顔で答える。

 ホウは黒蝶のマークもお気に入りみたいだ。


「ああ、本当だ。男物も女物もあるんだ、そのマーク」

「でもさ、あ、ちょっとこっち来てくれるかい? スミカ姉ちゃん」


 ボウが荷車の端に寄りながら私を呼ぶ。

 ナゴタとゴナタも何事かと付いてくる。



「で、どうしたの、ボウ?」

「う、うん、わたしもこの蝶は気に入ってるんだけどさ――――」


 そう言って後ろを向き、おもむろにスカートをめくる。


「えっ!」

「あらっ?」

「おおっ!」


 ボウの真っ白い背中と小さなお尻、そして真っ白なパンツが目に入る。

 ただそのパンツのお尻の部分に――――


「あっ! ここにもっ!?」

「そ、そうなんだよっ! まさかここにもあって驚いたんだよっ!」


 首だけで後ろを向き、少しだけ戸惑っているボウがいる。

 ボウだけって訳はないから、きっと持ってきた衣装全てに黒蝶がいるだろう。



「も、もしかして、胸の下着もでしょうかっ!」

「ワ、ワタシも欲しいよそれっ! まだあるかい?」


 その事実に気付き、食い気味にボウとホウに迫るナゴタとゴナタ。

 そんなに蝶が好きなのだろうか?


「ナゴタっ! ボウはまだ上の下着ないからねっ! それとゴナタ、あなたが着れるサイズじゃないからねっ! お尻のサイズが全然違うからっ!」


 二人の姉妹から、今にも剥ぎ取りそうな程興奮している姉妹を注意する。

 そんな興奮状態の姉妹を見て、抱き合い後ずさりをする幼い姉妹。


『………………』


 ああ、良かった。

 ナゴタもゴナタも、私以外でもおかしくなるところを見れて。

 私の被害妄想や自意識過剰じゃなくて、本当に良かったよ。


 そんな事知れたら、恥ずかしかったからね。


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