第240話男たちの処遇とアマジの暴走




「ゴマチもういい。俺がコイツらを黙らせる。全て」

「お、親父?」


「はっは――っ! 黙らせるだぁっ? だったら賭けにしようぜっ! お前が勝ったら俺たちは頭を下げて通してやる。で、俺たちが勝ったらお前は迷惑料として金を置いていけ。財布の半分をなっ!」


「ふん、くだらん。そのような賭けなど無意味だ」


 アマジはそれを聞いて男たちを鋭く睨む。


「ああんっ? 逃げるってのかぁ?」

「俺らがCランクって知ってビビってんだよっ!」

「ならさっさと有り金おいて逃げ出せやっ!」




「……何あのおかしな生物。どこの世界のジャイア〇なの?」


 そんなアマジたちのやり取りを聞いて呆れる。


 あの男たちのあまりにもの自己中な考え方に。

 ああいうのを我田引水とかいうのだろう。


 本来の稼ぎのはずの依頼が出来ないからと知って、あの男たちは新たな稼ぎ方を考えたのだろう。ゆすりもしくは、恐喝っていうこすい稼ぎ方を。


「それでもう一人は窃盗っと。もうダメだね、アイツらは」


 それにしてもこの状況って放置してもいいものだろうか?

 冒険者と一般人の争いを。


『できればアマジの好きにさせたいね。あんなに愛娘を馬鹿にされてるし』


 静かな怒りを見せるアマジ。

 それと少し怯えているゴマチを見てそう思った。




「おらぁっ! こっちでやってやるぜっ!」


 そうこう考えてるうちに、アマジを含めた6人はギルド脇に移動を開始する。

 Cランクの男たちが先導していることから、どうやら練習場に向かうみたいだ。



「ねぇ、そう言えばあの男たちの一人を街で見たんだけど?」


 近くのルーギルにそう伝えてみる。

 それがどういった意味になるのかを。


「一人? ああそう言やぁ5人組だったなッ!それでどこにいたんだァ?」

「屋台の商品盗んでユーアに撃ち抜かれたけど」

「盗みかァ? それは確かかッ?」

「うん、被害に合った人は顔見知りだし、ユーアも知ってる人だから」

「なら、間違えねぇかァ」

「うん、それで冒険者が依頼以外で犯罪紛いの事したらどうなるの?」

「あ~ん、そういったのは、クレハン頼まぁ」


 ここで面倒臭くなったのか、はたまた知らなかったのか

 頭脳担当のクレハンに話を振る。


「そういった場合ですと、ギルドの方は関知しません。わたしたちは身元の証明はできますが、引受人ではないのでこの国の法で裁かれる事でしょう」


「ふ~ん、なるほどね」


 クレハンの話だとギルド以外の事は関係ないという。

 確かに荒くれ者の多いこの稼業で、その全ての面倒なんて見られないだろう。


「ならアイツらは他で犯罪をしても冒険者でいられるって事?」


「そうですね。お尋ね者とか、極刑にならなければその通りです。それでも信用に関わる話ですから、続けられるかどうかは別ですが。それに冒険者カードにも犯罪記録が残ってしまうので。そちらは程度にもよりますが」


「ふむふむ、なるほどね」


 クレハンの説明を聞いて頷く。

 元の世界だと前科〇犯みたいな犯罪歴みたいなものだろう。

 食い逃げくらいでは関係ないのかな? この場合は。



「ですが、ギルドの方で判断して冒険者を辞めていただく場合もあります」

「うん? それって――」

「ああ、その場合は俺の出番だなッ。俺の裁量で決定するって事だァ」

「ルーギルが? 何で?」

「そりゃスミカ嬢。俺は曲がりなりにもギルド長だかんなァ」

「え、誰が?」

「俺がッ」

「………………あ、なるほどね」

 

 「あ、そうかっ」とルーギルを見ながら手を叩く。


「そうかって、スミカ嬢、お前忘れて――」

「で、アイツらはどうなの? ルーギル的に」


 私はルーギルが文句を言う前に話を戻す。


「んあ? そうだなァ。正直奴らが自暴自棄になるのはわかる。冒険者稼業なんかやってるとよくある事だかんなァ」


「うん。それで」


「が、それでもある程度のミスなんかは面倒見られるッ。やらかした奴ら全員の冒険者証を剥奪してたら冒険者がいなくなっちまうからなァッ」


「ああ、確かにそうだね」


「だがそれは冒険者ギルド内の話であって、今回のスミカ嬢やユーアの知り合いにも、ていうか依頼以外の一般人への迷惑を掛けるのはマズい。とばっちりがこっちにも来るかんなッ」


「それって風評被害みたいなものって事?」


「ああそうだ。事の騒動によっては冒険者全体に影響しちまうからなァ。で、結論から言うとアイツらは今もアマジ親子にちょっかい出そうとしているなァ」


 アマジたちがギルド建屋脇に消えて行ったのを見てそう話す。


「うん、それじゃアイツラはルーギルの判断でアウトって事?」


 私もルーギルの目線の先を追ってそう続ける。


「それが、そうもいかねえんだッ。まだ報告と話を聞いてるだけで確認が取れてねえ。今のアマジにしても実害を俺が見てねぇかんなァ。だからよォ――――」


 一旦話を止めて、何か嫌らしい笑みを浮かべるルーギル。

 その目は気色悪いくらいニヤニヤと私を見ている。


「…………何?」


 私は嫌な予感がしながらもルーギルに問い掛ける。


「だからよォ、アマジが被害を受ければいいんだろッ?簡単に言やァ」

「…………それってアマジがわざと先にやられるって事?」

「さァ? どうだかなァッ? 俺の口からは言えねえなァッ」

「はぁ、わかったよ。そうアマジに伝えればいいんでしょ?」

「さあなァ? でも嬢ちゃんならコッソリ行けんだろ?姿を消してなッ」

「…………まぁ、そうだね。なら教えてくるよ。ユーア行こう?」

「は、はいスミカお姉ちゃん」


 私はルーギルより別れてユーアを連れ、建屋脇の訓練場に向け歩く。


『何だかんだ言って、ルーギルもクレハンもアイツらを煙たく思ってるって事だ。むしろアマジを利用して追い出したいとか考えてるっぽいよね』


 二人の事をそう思っても、実際私もその考えに賛成だ。


 あんなのがいたら、昔のナゴタとゴナタじゃないけど、被害に合う者も出てくるだろうし、アマジみたいに憎しみを抱かれても仕方ない。


 それとユーアやラブナみたいな、新人冒険者にもちょっかい出してくるだろう。実際私とユーアは初日から絡まれてる。



「それじゃ私はちょっとアマジに教えてくるから」

「気を付けてね、スミカお姉ちゃんっ」


 ユーアから離れて訓練所中央に向かう。


 アマジとCランクの男たちは、今は中央に集まっている。

 そして各々が模擬専用の武器を手にし、睨み合っている。


 まだ始まってはいないけど、一触即発の状況みたいだ。

 ゴマチは広場脇からそれを心配そうに眺めている。


「よし、間に合ったね。それじゃ早速教えてくるか」


 私は背中の羽を操作して透明鱗粉を散布する。


 そしてすぐさま気付く。


「あ、羽がないっ!?」


 今の格好はユーアとお揃いの私服だった事に。


『や、やばいっ! 今は【M.Swallowtail butterfly(ゴスロリ風)】を装備してないじゃんっ!これじゃ透明にもなれないじゃんっ!?』


「えっ? どうしたのスミカお姉ちゃんっ?」


 オタオタとしている私に気付くユーア。


「ど、どうって? あ、そうだっ!ユーアゴマチ連れてきてっ!」

「えっ!? あっ はいっ!」


 ユーアも私の動揺に気付いたのだろう。

 タタタっと手を引っ張り、急いでゴマチを連れて戻ってくる。


「つ、連れてきたよっ! スミカお姉ちゃんっ!」

「いきなりどうしたんだスミカ姉ちゃんっ!?」

「あ、あのねっ! ごにょごにょ」


 わたしは簡単にゴマチに訳を話す。


「わ、わかった親父に教えてくるっ!」

「悪いねっ!急いでっ!」


 そう言ってゴマチはアマジ目掛けて急いで駆けていく。


「ようッ! それでどうなったんだッ?」

「あれ? まだ始めっていないようですね」


 そこへルーギルとクレハンが建屋の陰から顔を出す。

 恐らく隠れながら様子を伺いに来たのだろう。


「あ、それがね――――」


 私は二人に説明しようと後ろを振り返る。


 その瞬間


 ボゴォォ――――ンッッ!!


「「「ぐはあぁぁぁぁっっっっ!!!!」」」


 男たち4人の絶叫が響き渡った。


「お、親父?」


 どうやらゴマチは間に合わなかったようだ。

 手を伸ばしたままプルプルしている。


「あ、あ、あ、ス、スミカお姉ちゃん……」

「~~~~~~っ」


 こ、この場合ってアマジが犯罪者って事?



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