第239話懐かしいウザがらみの冒険者




「スミカお姉ちゃ~んっ!」


 ある意味取り残された感のあるユーアが輪の外から私を呼んでいる。


「ちっ! またガキかよっ! ここのギルドはガキばっか集まんなっ!」


 それを見てCランクの男の一人が文句を言い出す。


 「…………」 ピクッ


「ああ全くだっ! この前の蝶の格好した子供といい、みすぼらしい汚ねぇ格好したガキといい、本当に嫌な事を思い出させるっ!」


「…………」 ピクピクッ

 

 触発されたように続けてもう一人も愚痴り始める。


「そうだぜっ! ちょうどあのガキと同じくらいだったか?」

「こっちの子供もあの蝶と同じぐらいだぜっ!」


「………………何が?」


 男ども4人が、私とユーアを見て口々に話し出す。

 その内容は詳しく分からないが、凡その検討はつく。


「そう言えばお前もいきなり来て商ば、憂さ晴らしの邪魔してんじゃねぇっ!」


「憂さ晴らし?」


 の前に何か聞こえたけど?



「スミカお姉ちゃ~んっ!」


 ユーアが私をもう一度呼ぶ。

 ここまで呼ぶからには何かあるのだろう。


「今行くから待っててっ!」


 私は手を上げてユーアにそう返事を返す。


「お前俺たちを無視してっ!」

「うるさいな。今それどころじゃないから」


 私は来た時と同じように男たちの間をすり抜け移動する。


「んなっ!?」

「はぁっ!?」



「お待たせユーアはどうしたの、何かあった?」

「あ、スミカお姉ちゃん」


 直ぐにユーアの元に駆け付け用件を聞いてみる。


「あ、あのね、あの人たちね?」

「ああ、知ってる。前に絡んできたやつでしょ?」

「う、うん、それとね、さっき食い逃げした人もそうなんだよっ?」

「え? さっきの串焼きの?」

「そうっ! あの人もこの前いたんだよっ。ボク思い出したんだ」

「ああっ! ナイフ使いのっ!」


 私はそこまで聞いて「ポン」と手の平を叩く。

 ユーアの話で全て思い出した。


 確かにおかしいと思ってた。


 普通の食い逃げ犯が建屋の屋根の上を逃走する異常な身体能力に。

 それと服装も冒険者が好んで着る軽装の防具に似ていた。


「にしても、何で食い逃げ何かしてんだろう? 本職は冒険者だよね?」

「そうですね。何でだろう?」

「それと残りの男たちも憂さ晴らしとかどうとかいってたし」

「そ、そうなのですかっ? お仕事してないんですか?」



「それは俺が説明するぜッ!」


「ルーギル?」


「あ、わたしもいますよ?」


「クレハンさん?」


 私とユーアの話にルーギルとクレハンが加わってきた。

 見たところ商店街の方から歩いてきた。


 こいつら仕事サボってお茶してたんだろうか?


 ルーギルは分かるけど、クレハンもなのは珍しい。

 仕事が怠慢なルーギルにどんどん染まらなきゃいいけど。


「それでどういう事? アイツら冒険者の仕事どうしてんの?」

「ああ、アイツらは依頼を受けられねえんだッ」

「依頼が? なんで?」

「あ、ああ。それよりも――――」


 そう言ってルーギルは一歩引いてジロジロと私を眺める。

 クレハンも同じように私を見ている。


「それにしてもお前は誰だッ?」

「は? またなの」

「ユーアさんと一緒にいたから声を掛けてしまいましたが」

「え? クレハンまで」


「スミカお姉ちゃん……」

「ううっ」


 それを見てユーアがまた残念そうな顔になる。


「ちょっとルーギル、クレハンっ! 本当にわからないのっ!」


 私はユーアの視線に堪え切れずに二人に詰め寄る。


 その際に、ヒラヒラと左右に手の平を広げる。

 私なりの精一杯のアピールだ。


「あん?」

「う~ん、見覚えないですね? もう少しで思い出せそうな気も」

「くっ」


 そんな二人はこれでも分からないらしく

 しきりに首を傾げている。


「な、ならこれだったらっ!」


 私は二人が見た事あるポーズをする。


 ヒラヒラと。


「………………」

 

 ワンピースの裾を摘まんで


「くっ…………」


 ヒラヒラと羽ばたくようにスカートを捲る。

 もうポーズっていうか振り付けみたいだけど。


「ス、スミカお姉ちゃん……」

「う、うぐぅ」


 更にユーアの表情が痛い子を見る目にシフトするが我慢する。

 これだったら一度シスターズのお披露目で見せている。

 これを見たら思い出さない訳が無い。


 ヒラヒラヒラヒラ


「くっ!」


「は、ははっ」

「ぷっ、くくっ」


「ま、まさかっ?」


「わははははははッ!!」

「ぷっ、ギ、ギルド長、スミカさんに悪いですよっ!」


 そんな二人は抑えきれない様子で笑い出す。

 特にルーギルは大口を開けて爆笑していた。


「あ、あんたらいい加減に!――――」

「や、やめてくださいっ! スミカお姉ちゃん今日は可哀想なんですからねっ!」

「えっ?」

「スミカお姉ちゃん今日はみんなに気付かれなくて、からかわれてっ!」

「ユ、ユーア? ど、どうしたのっ? なんか――――」


「だ、だからもうそっとしておいてくださいっ!」


 珍しくユーアが大声を張り上げる。

 何やら随分と激おこの様子だった。


「おわッ!」

「ユ、ユーアさんっ!?」


 ユーアの小さい体ながらも、その憤りがみんなに鋭く突き刺さる。

 ルーギルもクレハンも目を剥いて驚いている。


 それよりも今日の私って……


『ううっ……そんなに不幸で不憫に見られてたんだぁ。ユーアに……』


 そう考えてちょっと落ち込む。



「す、すまねぇなユーアッ。いつもやられてっからたまにはだなッ」

「そ、そうですよユーアさんっ! わたしたち悪気はないですっ!」

「ほ、ほらねっ! 二人も意地悪でやったわけじゃないからねっ!」


「そ、そうですか? すいません、ボク本気だと勘違いして……」


 私たちに諭されて、いつもの無邪気なユーアに戻る。

 少しだけまだ顔が赤いけど。


「で、それでアイツらの事だがよぉッ。クレハン頼まぁッ」

「はい承りましたギルド長。それではわたしから説明しますね」


「うん、手短にお願いするよ」

「は、はいお願いしますっ!クレハンさん」


 クレハンは佇まいを正して話し出す。


「あの方たちは昨日もここに来たんです。依頼を受けに」


「うん。それで?」

「はい」


「それはスミカさんに負けた後、傷を癒し復帰したはいいのですが、彼らは無一文になってました。治療費がかなりかかったみたいで、借金もあるそうです。それを稼ぐためですね」


「ああ、あん時は俺もスミカ嬢もやり過ぎちまったんだろッ」


 ここでルーギルが相槌を打つように入ってくる。


「だってそれは私のせいじゃないし」

「ああ、俺もそう思うんだがッ、それでも結果的に金が無くなったと」


「はい、それで彼らは治療費を稼ぐために、高額の依頼を探すのですが、そういった高ランクの依頼をこちらで全て断ってます」


「断るって、何で?」


「彼らの元々の素行が悪かったのもあるのですが、あの戦いの後。様々な依頼主が、あのパーティーを名指しで受けさせないでくれとの内容の報告が多数上がってきました」


「それでギルドでも受けさせない? て事?」


「はいそうです。それは彼らの信用がなくなったからです。ですからこの街では恐らく彼らは仕事は出来ないでしょう。今後も」


「そんなに信用がなくなるって、何した……ああ、分かったよっ」


 私はあの時を思い出す。

 Cランクの男たち4人と私が戦う前に、ルーギルが宣言したことを。


 それは勝っても負けても男たちに居場所がなくなるような、

 そんな条件だった。


 『Cランクの冒険者が、小さな新人美少女冒険者に4人がかりで勝利する』

 『Cランクの冒険者4人が、小さな新人巨乳冒険者に素手でボコられる』


 勝敗に関わらず、自慢にも名声にもならないそんな戦いだった。

 ルーギルはそう誘導してあの宣言をしていたのだ。


 確かにそんな冒険者に依頼を任せたくなないだろう。

 しかも自分から吹っ掛けて、少女一人に圧勝された冒険者なんて。


 でも私にとっては「誇りユーア」を馬鹿にされた。

 そんな意趣返しの意味の戦いだったけど。



「それでアイツらは今日も懲りずに依頼を受けに来たってわけだッ!で、受けられねえからああやってストレス発散してんだよッ。適当にイチャもん付けてなッ」


「……ふ~ん、なるほどね。良く分かったよ」


 ルーギルとクレハンの説明を聞いて納得する。

 それがもう1人が食い逃げしてる理由に直結してるって事も。


『まぁ、それでも私が悪い訳じゃないけどね。因果応報だし、そんなの』


 私はそう思い一人納得する。

 実際は巻き込まれたようなものだし。



「う、うるさいなっ!俺は女だって言ってんだろっ!いい加減にしろよっ!何だってしつこく構ってくるんだっ!金なんか持ってないぞっ!」


「ゴマチもういい。俺もいい加減ガマンの限界だ。ここのギルド長のルーギルに悪いが、この冒険者の4人を潰す事にした」


「ん?」


 甲高いゴマチの怒気を含んだ大声。

 そしてアマジの低音のドスの利いた声が聞こえてくる。


 どうやら向こうは揉めに揉めてるみたいだ。

 あの4馬鹿のお陰で。


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