第238話がっつくお父さん




「何なんだお前らはイチイチ突っかかって来て。娘のゴマチが怯えるからそこをどけ。それとも全員叩きのめさないと理解できないのか? その実力差に」


「お、親父、もういいから行こうぜっ!用事も済んだんだし。それにコイツら馬鹿そうに見えてもCランクって噂だぜっ」 


「あ"あ"ックソガキィッ、オレたちが馬鹿だって?」

「あっ!ごめんっ!だって俺たち何もしてないじゃんっ!なのに」

「俺だと? 何だこのガキ、男だったのか? そんなヒラヒラした格好してよぉ」

「う、うるせえっ! 俺は女だっ!」

「がははっ! 尚更似合わねえなぁっ! お前みたいな男女によぉっ!」

「こ、これは親父が選んでくれたんだっ! 馬鹿にするなっ!」

「ゴマチ、もういい。俺がコイツらを黙らせる」


 冒険者ギルドに着いて、いきなりそんな光景を目の当たりにする。


 絡まれている親子はもちろん、アマジとその娘ゴマチ。

 そして体格のいい冒険者の男4人。


 どう見ても険悪な状況だった。

 アマジもゴマチも表情を固くしている。


 どうやら途中から、服装と見た目を馬鹿にされて

 二人とも頭に来ているらしい。


 確かに今日のゴマチは男たちが言う通りに、いつもの軽装な冒険者風の服装ではなく、薄い緑色のフレアスカートに近い服装をしていた。そしてアマジの肩の上から男たちを見下ろしている。ゴマチは気分よく肩車されていた。


 私が知っているアマジだったら、こんな挑発に乗る事はなかった筈。

 どちらか言うと一度噛み締めてから態度に出るそんな感じだった。


 だけど今は、自分の大切な物を貶されて沸点が低くなっているみたいだ。

 私で言う、ユーアを馬鹿にされたように。



「スミカお姉ちゃん、あの人たち見た覚えないですか?」

「うん? どれどれ」


 ユーアの言う、あの人たちとはアマジ親子に絡んでいる4人の男たちの事。


「そう言われれば見た事あるような……でも、どうでもいいか」


 私は一瞬だけ思い出そうと頑張ったけどすぐやめた。

 どうせ思い出しても碌な輩でないのは間違いないし。


「ユーアは一応ここでちょっと待ってて」

「はいっ!」


 私はユーアを置いてアマジ親子に近づいていく。


 その際に男たちが道を塞いでいたので透明鱗粉で……


『って、今は装備してないんだっけ』


 私はそう思いだし、男たちの間をする抜ける様に移動して、アマジと男たち4人の間に割って入る。


「「うおっ! な、何だお前っ!」」


「……スミカか」

「えっ?スミカ姉ちゃんっ!?」


「うん」


 4人の男たちとゴマチは突如現れた私に驚いた様子だったけど、アマジにはそんな様子は見られない。歩いてくるときには感知していたようだ。


「何やってるの? 


 私はにやにやしながらアマジを見上げる。

 なんか私に娘は甘やかさないとか言ってたよね?


 そんな視線に気付いたのだろう

 アマジはバツが悪そうにそっぽを向き話始める。


「それはお前も同じだろう? 何してるって部分は」

「どういう意味?」

「お前のその格好の話だ」


 そう言って、ジロジロと上から下まで視線を這わす。


「いいでしょう? ユーアとお揃いなんだ」


 私はそう伝えて、スカートを軽く摘まみ、見よう見真似でカーテシーで優雅にお辞儀をしてみる。


「はんっ。馬子にも衣裳っと言いたいが、中々サマになってるな」

「そう? 初めてやってみたんだけど。それにしても良く分かったね?」

「お前の気配と魔力を感じたからな。魔力は弱々しいが」


 ジロジロと俯瞰で私を見る様に目を細める。


「ちょ、ちょっといい加減に体ばっかりを見るのやめてよねっ!いくら奥さんがいないからって、がっつき過ぎだよっ! こんなか弱い乙女にっ!」


 私は両腕で体を抱いて、アマジから隠す。


「は、はぁっ!? か弱いだとっ? それにがっつくだとっ? お、お前は相変わらず俺を何だとおもっているんだっ!」

 

 アマジは焦り気味に口早にそう捲し立てる。

 いくら私が若くて魅力的だからって。

 こんなんじゃ、おちおちお洒落も出来ないよ。


「それでルーギルには会えたの?」


 私は最初の話に戻し確認をする。

 恐らくここにいるという事はそういう事だろうと。


「ああ。2階の書斎で会えた」

「そう。良かったね。何か言われた?」

「お前の事と、後はしつこく誘われたな」

「私の事? 誘われたってもしかして?」

「ああ、冒険者の話だ」

「いくら何でもそれは……ったく、あの脳筋ギルド長は」


 私はアマジの話と、ルーギルの顔を思い出して軽く愚痴を言う。


「そうだな。いくら過去の話が俺の勝手な誤解だからと言って、いきなり仲間にはなれんだろう。心の整理もあるし、俺自身がまだまとまってない。昔の事を。だがルーギルは――」


 ここまでアマジの話を聞いていた時に、何やら男たちが騒ぎ出す。


「い、いきなり出てきてお前は何、俺たちを無視してんだよっ!」

「ったく、ここの街のギルドにはムカつくガキばっかだぜっ!」

「お陰でアイツを思い出しちまったぜっ!」

「ああ、そうだなっ!あの頭のイカれた蝶の格好のなっ!」


 無視していた男たちが怒鳴り声をあげて、見て見てアピールしてくる。

 まぁ、それはそうだろう。ずっと相手にしてなかったし。


「あ、蝶だと? どうやらスミカの事――――」

「し、今思い出すからちょっと黙ってて」


 私は繁々と口煩くちうるさい男たちを見る。


 腰に下げてる武器は……


『う~ん、大剣が2人に、槍と斧。だよね? ああっ!』


 私はポンと手を叩くと同時に大きく頷く。

 何となく思い出したからだ。


 この男たちは冒険者ギルドにきた初日に私に絡んできた奴ら。

 ルーギルとも戦い、私とも4人で戦って素手で圧倒した。


 全員が冒険者ランクC。

 4人戦士系の武器。1人ナイフ。

 5人組。


 確かこんな感じの組み合わせだった。


『多分これで間違いないけど……』


 でも何か一人足りない。

 投げナイフの細い体躯の男が。

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