第237話ユーアの幸せと絡まれる親子



 私はユーアを背中から抱きかかえ、ログマさんの話を聞く。



「数十分前にアマジって男が話に来たんだ。それでその話の中にスミカの名前が何度か出てきたんだ」


「うんうん。先を続けてください」

「はい」


「それよりも先に聞いていいか? スミカは何をしたんだ?」


 聞きに入っていた私とユーアを見てそう聞いてくる。


「アマジって人から何も聞いてないんですか?」


「いいや、聞いてはいるさ。だがどれも抽象的だったのでな。『あいつのお陰で真実を知れた』とか『娘が戻ってきた』とか。いったいお前らは何をしたんだ? 偉く気に入ってるようでもあったぞ」


 私とユーアを軽く睨みながらそう聞いてくる。

 睨むと言っても、興味があるって意味の視線だけど。



「え~と、その娘を誘拐した」

「………………はっ!?」

「ユーアが襲われた」

「はぁっ!?」

「そして親子共々潰そうとした」

「………………」

「それと――――」

「い、いや、もういい」

「………………」


 ログマさんはこめかみを抑えて小さく唸る。

 どうやら理解が追いつかないようだ。


「スミカお姉ちゃんっ!ちゃんと教えないとダメだよぉっ!」


 それを見て、すぐさまユーアのツッコミが入る。


「そ、そうだね。もう少し細かく説明しますねっ」

「はぁ、全く。お前らはどちらが姉か妹か分からんな……」



 しみじみとそう話すログマさんに説明をする為口を開く。

 ユーアの目がちょっとだけ怖かったから。



※※




「…………なるほどな。そういう事か。お前は相変わらずだな」


 ポリポリとこめかみを掻きながら私たち二人を見る。

 どうやら今度は通じたようだった。


「あ、ありがとうございます?」

「ありがとうございます?」


「別に褒めてはいないのだがな。それでも色々と巻き込まれ過ぎだぞお前は。いや、お前になるのか? 実際のところは」


 ジロリと薄目で私たち二人を交互に見る。


「え、ボクもですかっ?」


 ユーアはちょっとだけ驚いた表情でログマさんを見返す。


「いや、ユーアだってよく考えればそうだろう? 必ずと言っていい程関わっている。スミカの起こす騒動にな」


「騒動って、ちょっとログマさん。私だって好きでやってる訳じゃ……」


 私はすぐさまログマさんの言葉に異を唱える。


 そんな言い方だとユーアだって迷惑に感じちゃうかもだし。


 『スミカお姉ちゃんといるとボクも巻き込まれて大変だよっ』


 なんて、言われたらまた引きこもるよ? 

 スキルの中に。



「でも俺はそれでも良いと思っている」

「え? 何でですか?」

「だって、見てみろ。スミカ」


 ログマさんは私から視線を外して、その前を見る。

 そこにいるのは私に後ろから抱きかかえられてるユーアだ。


 私はログマさんの視線に気付き、ユーアを脇から覗き込む。


「?」


 そこにはニコニコと締まりのない表情のユーアがいた。


「…………ユーア、どうしたの?」

「えっ!?」

「何かだらしない顔になってるけど?」


 そんなユーアも可愛いから私はいいけど。

 何て思いながらユーアに聞いてみる。


「だらしないですか?」

「うん、少し心配になるくらいに、ニヤニヤしてた」

「それは思い出してたんです。ログマさんの話を聞いて」

「思い出してた? 前の事?」


 ユーアは私の手を取りながら答える。


「うん、そうです。スミカお姉ちゃんに会って楽しい事ばかりだなって」

「………………」

「スミカお姉ちゃんに会って、お友達も一杯増えて」

「………………」

「スミカお姉ちゃんに会って、ハラミにも会えて」

「………………」

「スミカお姉ちゃんに会って、住むところもお洋服も美味しいものにも困らなくなって」

「………………」


 ここまで言って、首から回してる私の腕をほどき体ごとこちらに向けるユーア。その目は真っすぐに私を見ている。純粋なほど透き通った目で。


「だからスミカお姉ちゃんに会えて、ボク幸せがいっぱいですっ! もうお顔のにやにやが止まらないんです。たくさん幸せな事思い出しちゃってっ!」


 そう言い終わり「きゅっ」と私に抱きついてくる。


「な、だから俺はそれで良いと言っただろ?」

「はい、そうですねっ」


 私は腕の中に小さな温もりを感じながら、笑顔でそう答えた。


 ユーアにはいつも貰ってばかりだなって思いながら。




※※




 そうして、トロの精肉店を出て、屋台などが並ぶ繁華街を目指して歩く。

 アイテムボックス内の食料が心許ないから購入する為に。


 何だかんだで昨日の食事会で大盤振る舞いしちゃったから。


 ログマさんのところでは、解体分のお肉を受け取って、更に追加で置いてきた。

 まだまだアイテムボックスの中には素材が沢山あるからだ。


 それであの後、カジカさんも降りてきてアマジが謝罪とお礼に来たと話していた。どうやら2階の食堂の準備中に尋ねてきたらしい。


 ログマさんも、カジカさんも当時の事はうろ覚えだったらしい。

 10年前の話だし、そんな事は日常茶飯事みたいな事も言っていた。


 それでも昔の事でお礼を言われて嬉しかったらしい。

 冒険者としての活動が今でも感謝され、喜ばれた事が。


 アマジの態度も姿勢も真摯的で好感も持てたとも言っていた。


 きっとアマジも少しだけ前に進めたと思う。

 これからはきっと良い父親になるだろう。

 今までの分を取り戻すために。


 でもあまり厳しくしないといいけど……

 私みたいに甘やかさないって言ってたしね。



※※



 そんなこんなで私たちは、予定通りに屋台や露店で買い物も昼食も済ませて、冒険者ギルドに向かう。


「それじゃ次はギルドに行こうか?」

「はいっ!スミカお姉ちゃん」


 ユーアはまた先導するように私の手を引いて前を歩いていく。


 こっちの予定はオークとトロールの討伐の報酬の受け取りと、ルーギルたちの分け前を渡しに行くこと。


『まぁ、後はタイミング的に鉢合わせしそうな気がするけど……』


 私はそんな予感がしながらもユーアに手を引かれ冒険者ギルドに到着する。


 そこには――――



「何なんだお前はっ? 子供連れてこんなところ来るんじゃねえよっ!」

「ああ、全くだぜっ!嫌なアイツを思い出すぜっ!」

「ちっ、何だその面気に入らねぇっ! 子供の目つきもムカつくなぁっ!」

「おい、おっさんっ! 子守なら他所へ行けよっ!」


「お前らこそ何だ。俺はお前らには用はない。だからそこをどけ。娘も怯えてるだろ、醜い魔物が人語を話すってな」


「お、親父っ! お、俺は怖くないぞっ!ただの武者震いだっ!」



「………………」

「スミカお姉ちゃんっ!あれってっ?」


 私は4人に囲まれている男と女の子を見る。


『はぁ、やっぱり会うと思ったんだ。行動的にも時間的にもね……』



 そこには娘のゴマチを肩車しているアマジ親子がいた。


 そしてその親子にちょっかいを出していたのは――――


「う~ん、どっかで見た事あるんだよね……」


 

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