第394話青と黄と赤色の奇跡
「「「う、ううう…………」」」
『が、う………』
パルパウのお肉を口に入れて固まる私たち。
ハラミも一緒に呆然とし、鳴き声にならない声をあげる。
『ああ……』
やっちゃった。
焼けばいいなんて、どこかの話を真に受けた私が愚かだった。
てか、そもそも試食をしないナジメに一言いいたかった。
口に含んで噛み締めて、舌で感じたその味は、
苦みも甘みも辛さも、青も黄色も赤も、その全てが合わさって、
「「「う、うま~~~~いぃっ!!!」」」
抜群な旨味に変化していたのだから。
いや、変化ではない。
これは生まれ変わったのだ。
「ナ、ナジメちゃんっ! 何これ美味しいよっ!」
堪らず、口を開けたまま呆けているナジメに詰め寄るユーア。
「う、うむ、これは聞いていた以上じゃなっ! 美味いのじゃっ!」
それに対し、我に返って笑顔でブンブンと手を振って答える。
「ナ、ナジメさ、これ本当に、あの気味悪い肉よねっ!?」
「いや、ラブナはわしと焼いたじゃろっ! もちろん、わしが退治したパルパウじゃよっ!」
「どうやら本当にお姉さまが吐き出したお肉と同一みたいですね。まさかこんなに変わるとは…… 驚きを通り越して、信じられないです」
「うわ~っ! 本当に美味しいなっ! 噛めば噛むほど旨味が出てくるぞっ!」
次いで、ナゴタとゴナタもその変化に驚き、味に大絶賛する。
『マジかっ!?』
まぁ、私もその一員だけどね。
なので噛み締めながら、その味をゆっくりと味わう。
『う~ん、まさか、あんな激マズお肉が、焼いただけで味変するなんてね……』
モグモグ ゴクンッ
ヒョイ、パクッ
『あれなのかな、焼いたことによって、あの3色が混ざりあって、それで美味しくなったのかな? 今は変な色が消えて、焼き色があるだけだし』
ヒョイ、パクッ
恐らくはそうだろう。
あの「青」「赤」「黄」の3色の不味さが混ざりあって、それで味が変化したのだろう。
激マズから、劇的な程の激ウマの味に。
ヒョイ、パクッ
『そうでも思わないと、説明できないからね~ 不味いものを掛け合わせても、本来は不味いのが当たり前だしね。だから火を通さないとダメって事だったんだ……』
ゴクンッ
ヒョイ、パクッ
『あと、考えられるのは、火加減と、ラブナが魔法で……』
「ね、ねぇねっ! ど、どうじゃ? みんな美味しいと言っておるが……」
色々と、謎のパルパウのお肉に試行錯誤していると、そう声を掛けられる。
それはお肉の味の様に、表情が一変したナジメだった。
「ん、そうだね――――」
「どうも何もないわよっ! スミ姉は食べ過ぎなのよっ! またアタシが焼かないといけないじゃないっ!」
ナジメに答えようとすると、正面のラブナにちょっとだけ怒られる。
「え? 私そんなに食べてた? まだ二切れくらいじゃない?」
覚えのない事を言われたので、すぐさま反論する。
「え? スミカお姉ちゃんは、ずっと食べてましたよ?」
「はい。お姉さまは、考え事しながら絶えず口に運んでましたよ?」
「うん、お姉ぇはにやけながらずっと食べてたなっ!」
やり取りを聞いていたユーアたちがそれに対して返してくる。
「あれ?」
「ほらねっ!」
そして唖然とする私の前では、勝ち誇ったようにラブナが胸を逸らしている。
「ねぇね、それでどうじゃったのじゃ? そのぉ、味は?……」
「うん、美味しかったよっ! みんなが言う通りに、無意識に手が出ちゃうくらい絶品だったよっ! 苦労して手に入れた甲斐があったね、ありがとうねっ! ナジメっ!」
不安気な表情を浮かべるナジメを撫でながら答える。
討伐から色々と驚きっぱなしだったけど、最後は美味しくいただけたし。
「うん、そうか…… それは良かったのじゃっ!」
ナジメは一言だけそう言って「ニカ」と微笑み八重歯を見せる。
「うんっ!」
その無邪気な笑顔を見ると、満足した答えが伝えられたようでこっちも嬉しくなる。
「さて、それじゃ残りの料理を美味しく頂こうかなっ!」
まだ残っている、数々の絶品の料理を前に、フォークを握り直す。
「あ、ボク、もっとナジメちゃんの食べたいっ!」
「ユーア、アタシのも、もっと食べてよねっ! あと、あ~んしてあげるわっ!」
「私は千年茸をもう少しじっくりと味わいたいですっ!」
「ワタシは、え~と、どれも美味しいから迷っちゃうなっ!」
みんなも私の後に続く様に、食卓の上に手を伸ばし、その味に笑顔になる。
こうして、みんなが持ち寄った食材での昼食も賑やかなまま終わりを告げた。
どれもこれも美味しかったし、私の記憶にも残る素晴らしい食事会だった。
もちろん余った物はアイテムボックスに収納しておく。
決して私だけが後でコッソリ食べる為ではない。
孤児院組にもお土産として、食べさせてあげたいからだ。
『ふふ、本当に開催して良かったよ。ユーアも随分と頑張ったみたいだし、みんなも気晴らしになったみたいだしね』
お互いに食べさせ合ったり、あれこれと、料理の話で盛り上がっているみんな。
そんなみんなを見て、私も自然と頬が緩んでしまう。
出会ってまだ数日のメンバーだけど、まるで本当の家族が出来たみたいだ。
『さて』
今度はいつやろうかな?
―
「あ、そう言えば、スミカお姉ちゃんもお料理を準備したんですよね?」
お腹も膨れて、食休みで談笑していると、隣のユーアから聞かれる。
「うっ!? う、うん。もちろん私も準備しているよ? 私のは晩ご飯に出そうと思ってたから、昼食には出さなかったんだ。それにみんなの料理もたくさんあったしね、あはは」
「そうなんですか?」
コテンと首を傾げて、真ん丸な瞳で見上げてくるユーア。
「そ、そうだよ? だってみんなももうお腹一杯でしょ?」
「うん、ボク、お腹いっぱいですっ!」
そう言って、お腹をさするユーア。
そのお腹はポッコリとしていて可愛い。
「でしょ? だから夜は私が全部用意するからねっ!」
「はいっ! 楽しみにしていますっ!」
「う、うん」
どうやら今の話で納得してくれたようだ。
なら晩ご飯は頑張らなくちゃいけない。
って、言っても、私の場合はアイテムボックスから出すだけなんだけど。
『ユーアにはああいったけど、本当はみんなの料理を見て出せなかったのが本音なんだよね…… だって、あんな真心こもった料理を作って出されたら、もの凄く場違いで出しずらいんだもん…… はぁ~』
先程まで、たくさん並んでいた料理を思い出して溜息を吐く。
まるでお花見で、手作りのお弁当の横に、コンビニで買ってきたものを並べるみたいで、みんなの前に出すのを躊躇してしまった。
だって、それは仕方ないよね?
そもそも私、料理できないんだから。
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