第393話最後の料理とは?




「さて、最後はナジメの料理だね?」


 ユーアとハラミのウトヤの森組。

 ナゴタとゴナタとラブナのビワの森組。


 10種類以上になる、その2組の料理はどれもこれも美味しかった。

 なので必然的に残ったものがナジメの料理となる。


 このウトヤの森の湖のぬし

 見た目ウー〇ールーパーの、パルパウの料理だ。



『う~ん、見た目的にはあまり美味しそうには見えない魔物だったなぁ』


 青白い体に、伸びる&合体する触手。

 そして獲物を捕らえる狡猾な頭脳と、敵を前にしての凶暴な性格。


『まぁ、それでも食材として提供しているお店もあったらしいけどね。 確か白身魚みたいな淡泊な味だったかな? 何かの記事で見た感じだと……』


 こっちはあくまでも『元の世界』での話。

 だと、心の中で付け加える。



 なぜなら目の前にそっと置かれたものは、全くの別物だったから。



『うぇ~、見た目がもの凄くまずそうなんだけどっ!』


 予想の斜め上を行く食材を見て、心の中で毒を吐く。


『だって、切り分けた身の色がなんだもんっ!』


 ナジメが頑張って採ったものなので、さすがに口には出さないが、パルパウの身は真っ青で、所々に黄色と赤色の斑点模様が浮かんでいた。


 こんなものが美味しいとは思えない。それに自然でできた色とも思えない。

 絶対に体に悪そうだ。



「こ、これってお刺身? で、最初に食べるのが…… 私?」


 ゴクリと唾を飲み込みながら、私の前に置いたナジメに確認する。


「え? そうじゃよ。まずはねぇねに食べてもらわぬと始まらないのじゃ」

「そうなのっ!?」


 ナジメの返答を聞いて身を乗り出し、みんなに同意を求める。



 そんなみんなは一瞬、目を逸らした後で、


「そ、そうですねっ! 最初はスミカお姉ちゃんからだよねっ!」

「え?」


 これはユーア。

 私を見ているようで、視線は別のところを見ている。



「ナ、ナジメとユーアの言う通りだわっ! やっぱり毒…… じゃなくて、これを企画したリーダーに最初に食べてもらいたいわねっ!」


「ちょっ!」


 次にラブナ。

 良い事言ってる気がするけど、なんか毒味って言いかけなかったっ!?



「や、やっぱりお姉さまから感想を聞きたいですっ! その方が安しn…… ではなく、遠慮なくいただけますのでっ!」

「うんっ! ナジメもお姉ぇに最初に食べてもらいたいって…… 言ってたような気がするんだっ! だからよろしくなっ!」

 

「ええっ! ナ、ナゴタ?ゴナタ?」


 最後に姉妹の二人。

 私の後が安心って言いかけなかったナゴタっ!?

 ゴナタっ! それ絶対にナジメ言ってないよねっ!?


 

『ううう~っ!』


 なんだよっ!

 なんでみんなして、毒見させようとしてるのっ!?

 そもそも私が最初に食べるって、そんな決まりなかったよねっ!



「はぁ~」


 仕方ない。

 

 サクっ


 フォークに差して、口に入れる前に繁々ともう一度見てみる。


『……うわ、見れば見るほど不気味なんだけど、なんで真っ青なの? しかも黄色と赤の模様がまだらにあるって…… 変な虫とかもいたりして、ううう~』



「ねぇね、どうしたのじゃ? 早く食べてくれんかのぉっ!」

「うっ!」


 食べる事に躊躇していると、キラキラした目でナジメが急かしてくる。

 その様子を見ると、早く感想が欲しいのはわかる。


 きっと満足の行く答えを言って欲しいんだ。ってね。



『く、もう覚悟を決めようっ! 大体このパターンだと、見た目に反して美味しいのが鉄板だし、虫の魔物がいい例だしねっ!』 


 パクッ


 意を決して、一気に口の中に放り込む。

 そしてゆっくりと奥歯で噛んでいく。


 モグモグ


「う……」


「「「うっ?……」」」


「…………う、う、うわ~~っ! メチャクチャ不味いっ! これ食べちゃダメな奴だよっ! 噛めば噛むほど苦みと甘みと辛みが出てくるよぉ~っ! おえぇ~っ!」


「「「えっ!?」」」


 予想外の味に涙目になり、ぺっぺと地面に吐き出す。


 多少の不味さだったら、何となしに褒めるつもりだったけど、それどころではない。

 歯応えはまだしも、濃厚で不味いものなんて、絶対に我慢出来る訳が無い。



「ね、ねぇね? そんなに不味かったのか? 泣く程美味しくなかったのか?」


 食べさせた張本人のナジメが心配そうに聞いてくる。


「ちょっと待って、今飲み物を飲むからっ! うぇ~っ!」

「う、うむ」

「ゴクゴクゴク」


 取り敢えず、甘い果実水を飲んで口内を洗浄する。


「ふぃ~、ちょっと落ち着いた~」

「ねぇね?」  

「あのさ、多分、生では食べちゃダメだよ、これって。そもそもナジメは揚げ物か焼く方が良いって言ってなかった? ごほごほ」


 討伐する前の説明を思い出して聞いてみる。


「う、うむ、そうだったのじゃが、わしが一番準備が遅かったので、簡単なものにしてみたんじゃ…… 刺身とかサラダや、和え物にして…… むぅ……」


「ああ、そう言えばそうだね……」 


 下を向いてボソボソと話すナジメ。

 どうやら落ち込んじゃったみたいだ。



「なら、せめて焼いてみようか? 大型鉄板もあるし、それなら時間もかからないから。ラブナ、ちょっと火を出してもらっていい?」


 冷めた鉄板の横に移動して、ラブナに頼む。


「はぁ? 焼くのにわざわざ魔法を使うの? スミ姉」

「うん、だってその方が早いでしょ? それに練習にもなるし」

「ま、まぁ、確かに火加減の練習になるわねっ! じゃ、アタシに任せなさいっ!」


 ツンと胸を張りながら、鉄板の前に陣取るラブナ。


「ならわしは、肉を焦がさないように返すから、慎重にお願いするのじゃ、ラブナ」

「うん、わかったわっ!」


 そこにナジメを加わり、二人でパルパウの肉を焼いていく。


 ジュ~~~~


 すると――――


「ん? これは」


 漂ってきた匂いにスンスンと鼻を鳴らす。


「いい匂いがしてきましたね? お姉さま」

「お姉ぇ、なんか美味しそうな匂いなんだけど」


「クンクン、スミカお姉ちゃんっ! 今度はもの凄く美味しそうな匂いだよっ!」

『わうっ!』


 ナゴタたちに続き、ユーアも鼻を鳴らして、その匂いを絶賛する。


 コト


「ふぅ~、結構上手に焼けたわっ!」

「で、出来たのじゃ」

 

 焼き具合に満足げなラブナと、自信なさげなナジメがみんなの前に並べていく。


「あれ? 色が変わったんだけど」


 出されたお肉を見て、そう感想を口に出す。

 元の不気味な色合いが消えていた。


「うん、普通のお肉みたいな色になったね? 美味しそうかも…… じゅる」

 

 ユーアも同じような感想を言う。

 ただし、口端から光るものが見えるけど。


「そうですね、あの毒々しい色がなくなりましたね?」

「しかも、普通以上に美味しそうな匂いだぞ? 色も気持ち悪くないなっ!」


 姉妹の二人も、その変化に驚いている様子。


 ってか、毒々しいとか、気持ち悪い言うな。

 私はそれを食べたんだからね。



「ど、どうじゃ、ねぇね、今度はいけそうかのぉっ!」


 みんなの反応を見て、期待の眼差しになるナジメ。


「わかんない。そもそも焼いたからって劇的に味が変わるとも思えないんだよね」


 フォークで差して持ち上げながら答える。


『ん~、それにしても、あの信号機みたいな色はどこ行ったんだろう?』


 元々は真っ青なお肉に、中身が黄色と赤の斑点があった。

 そして嚙み潰した時に、何とも言えない味が押し寄せた。


 苦みと甘みと辛みの3つの、怒涛の波状攻撃だった。



「それじゃ、今度は全員で一気に食べようね? これはリーダーとしての命令ね?」


 固唾を飲んで、私が食べるのを待っているシスターズ全員を見る。


「え? ボクたちもですか、スミカお姉ちゃんっ!?」

「うわっ! アタシ焼いてあげたからいいと思ったのにっ!」

「お、お姉さま、それは私たち姉妹にも、行儀悪く口に入れた物を吐き出せと?」

「え~っ! なら飲み物用意しておかなきゃっ! もっと甘い物欲しいっ!」


「ううう、みんな酷いのじゃ~ …………」


 それを聞いたみんなは一様に不満をあらわにする。

 ただし1名は涙目だったけど。



「みんなそれぞれ持ったね? 早く終わらせたいから一気に行くよっ!」


「「「は~~い」」」

『わう』

「ちょ、ねぇねっ!」


 パクッ ×6

 ガブッ ×1


「「「う、ううう――――」」」


 ナジメも含め、一気に口に入れた私たち。


 その味に、今度は――――



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