第409話英雄さまの冒険者カードと帰宅と




「ごめん、キャンプの準備もあって、話すのを忘れてたんだよ」

 

 なので顔の前で手を合わせ、ごめんなさいする。

 忙しいを言い訳にして、遅れたのは事実だし。



「違いますっ! そう言う事ではありませんっ!」

「そうじゃぞっ! ねぇねっ!」


 ナゴタがテーブルに乗り出し、ズイと迫る。

 ナジメもブラッシングの手を止め私の隣で叫ぶ。


「わっ! なに? 何が違うのっ!?」


 二人の剣幕に、若干逃げ腰になる。

 他の二人はポカンと口を開けて見ている。



「こ、こほん。もう一度確認します。私たちBシスターズは、リブさんのロンドウィッチーズのように、お抱えではなく、直属というお話で間違いないですかっ!?」


 熱くなった事に気付いたのだろうか。

 腰を椅子に降ろしながら、声量を下げて聞いてくるナゴタ。

 それでも語尾に、その余韻が残っているけど。



「そうだよ。誘われた時に、リブたちもいたから間違いないよ。なんなら、帰ったら聞いてみてもいいし」


 さすがにそこは聞き間違いなんてしない。

 何となくだけど、その意味は察していたから。


「ねぇねや。その時にロアジムと専属の契約は交わしておるのか?」


 落ち着いたらしいナジメから、違う質問が飛ぶ。


「いや、そんなものはないけど。明日会うから、その時じゃないの? なんか急ぽかったから、書類が用意できなかったとか」


 確かあの時は、そんな話は一切なかったのを思い出す。



「そうなのか? でもねぇねはロアジムの屋敷に行ったのじゃろ? 書類がないとは思えんのじゃが…… それに突発的に言い出すのも、あ奴らしくないのじゃが……」


 首を捻って悩み始めたナジメ。

 私よりも付き合いが長いこともあり、違和感を感じているようだ。



「あのお姉さま? 他に言われたことはないんですか?」

 

 今度はいつもの調子に戻ったナゴタから聞かれる。


「ん~、そうだね。握手はしたね。それと今まで通りに活動していいって言ってたよ? その方が私らしいからって――――」


 そう。

 最初は専属と聞いて身構えた。

 けど、その話が後から出たから、それが引き受ける理由にもなったんだ。



「あ、あと冒険者カードを更新してくれたんだ。これもその時に受け取ったんだけど」

「え? ロアジムさんからですか?」

 

 あの時のやり取りを思い出してたら、ふと気付いたのでカードを渡す。


「ぬ、わしにも見せてくれぬか?」

「はい、わかりました。ナジメ」


 ヒョイと自分の膝にナジメを乗せて、ナゴタと二人でカード確認する。



「ね? なんかおかしいでしょ。私の年齢が「?」ってなってるし、乙女の年齢疑うって酷いよね。それで身分証明で使えるのって感じ」


「………………」

「………………」


 二人が確認し終わったタイミングで話しかける。


「あ、あのぉ、この『の英雄』ってなんですか? 英雄の部分はわかるのですが……」

「ねぇね、この『C』って何なのじゃ? 初めて見たのじゃが……」


 困惑気味に顔を上げる二人。

 やっぱりそこも引っ掛かるよね?


「あ~、『蝶の街』ってのは、将来的にそう呼ばれるとかなんとか…… 『+++』の部分は、ロアジム以外に、ルーギルとクレハンが付けた、票みたいなものって言ってた。なんでも、ギルドでの役職がある人や、貴族としても偉い人が付けられるみたいな」


 頬に人差し指を当てながら、その時のやり取りを話す。

 確かこんな感じで説明されたような。


 それの内容を聞いた二人の反応は、


「まじですかっ!?」

「まじなのかっ!」


 二人で顔を見合わせて驚愕していた。


「なに? もしかしてその意味わかるの?」


「い、いいえ、確実とは言えないですけど、とても重大なものだとわかります」


「蝶の街って…… 一体ロアジムは何を見越しておるのじゃ? それと「+」の数が票数とは、こっちは何か新しい事を始めようとしておるのかも……」


 ナゴタは何となしに、その意味を悟ったらしい。

 ナジメは「+」が気になっている。


「後は、わしたちには確認できない、特記事項に何かあるやもじゃな」


 神妙な顔つきで、カードを返してくれるナジメ。


「あ、ナジメでもそこは見れないんだ」


 受け取りながら聞いてみる。



「恐らく、ロアジムが制限をかけておるのじゃろ。ルーギルが記載した部分に関しては、わしなら閲覧出来るのじゃが、ロアジムが掛けたものとなると見れないのじゃ」


「そうなんだ。なら仕方ないね。そこまでしてロックするんだから見ない方がいいかもね? もしかしたら個人情報を書かれてるかもだし」


 もしかしたらナイスバディの私のスリーサイズとか、体重とか。


「いや、それはどうだかわからないのじゃが、決して悪い事は書いておらぬ筈じゃ。ねぇねはロアジムにもルーギルにも好かれておるからのぉ」


 苦笑気味に返事をするナジメ。

 何となく気疲れしているようにも見える。



「ま、心配しないでいいんじゃない? ロアジムの人柄は私も信用してるから」

「そうじゃなっ! ねぇねの言う通りじゃ」


 そんなナジメを撫でて話を締めると、笑顔に戻って答える。



 そうして、この後はキャンプでの話で盛り上がったまま、気付いたらコムケの街まで帰ってきた。



――



「おお~っ! さっすがナジメだねっ! 水まで張ってくれたんだっ!」

「うぬ、ねぇねっ! 苦しいのじゃっ!」


 その出来栄えに驚嘆し、思わず用意してくれた小さな領主を抱きあげる。

 数日前に頼んでおいた、キューちゃんたちが住む大きな池を作ってくれたナジメを。


「道もきれいになったし、お庭も広くて、大きな池もあるなんて凄いねっ!」 

「うわっ! ユーアもやめるのじゃっ! 子供たちも見ているのじゃっ!」


 そこにユーアも加わって、二人でギュッと抱きしめる。

 そんなナジメは、出迎えてくれた子供たちの視線が気になるようだった。


 

 今、私たちの目の前には、林に囲まれたきれいで大きな池があった。

 孤児院裏の、雑木林の一部を伐採して。


 全長は凡そ20メートルで、深さは5メートル程で作ったらしい。

 その周りには柵も設置してあって、安易に子供たちが入れないようにもなっていた。

 なので、水遊びには使えないようだった。



「それじゃ、早速出してあげるね。窮屈だったでしょう」


 透明壁スキルを、池の畔まで操作して解除する。


『ケロロ?』『ケロロ?』『ケロロ?』

『ケロロ?』『ケロロ?』『ケロロ?』


 すると、10匹のキューちゃんが周りを見渡し、池の方に注目する。

 


「あれ? どうしたんだろう。見ているだけで、中々入らないね? ほら、大丈夫だから水に入ったら? それともお腹減ったの?」


 色とりどりのキューちゃんに話しかける。

 怯えている様子はないから、単純に変化した環境に驚いているだけだろう。


『ケロロっ!』


 チャポンッ


 先頭にいた桃色のキューちゃんが、鳴いた後で勢いよく飛び込む。


『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』

『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』


 チャポンッ! ×9


 すると、それに続いて残りのキューちゃんたちも一斉に飛び込む。



「ん? もしかして、桃色キューちゃんがリーダーなのかな?」


 スイスイと、桃色キューちゃんの後を泳ぐ姿を見てそう思う。


「まぁ、なんにせよ。喜んでくれて嬉しいよ。これでキューちゃんたちも、この孤児院の家族になったしね。いや、この街って言ってもいいのかな?」


『ケロロ~♪』『ケロロ~♪』『ケロロ~♪』  

『ケロロ~♪』『ケロロ~♪』『ケロロ~♪』  


 今は池の真ん中の大岩に乗って、声高らかに合唱するキューちゃんたち。

 その姿を見て胸を撫で下ろす。


 そんなキューちゃんたちの首には『従魔の首輪』が巻かれていた。


 これで何の後ろめたさもなく、キューちゃんたちを愛でることが出来るし、これからも一緒に暮らせる。子供たちも怖がっている様子もないし、これならみんなと仲良くやっていけそうだ。


 

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