第408話キャンプ地を後に
随分と長話になったようで、照りつける日差しが強くなってきた。
メニュー画面を見ると、時刻は10時過ぎだった。
朝食を摂ったのが8時前後なので、ミーティングは2時間近くかかっていた。
ミーティングが終わったみんなは、それぞれに緊張の色が見えた。
気持ちが逸ってしまうのか、アイテムを出して、練習を始めてしまうほどに。
そんな中、
「ナジメちゃん、まだキャンプは終わってないよ? だからもっと遊ぼうよっ!」
「そうよっ! ユーアの言う通りだわっ! ナゴ師匠たちも水着に着替えてよっ!」
ユーアとラブナの年少組は違っていた。
二人とも水着に着替えて、手を振り、ナジメ達に催促する。
もっと遊ぼうと、まだキャンプは続いているんだよ、と。訴えるように。
「う、むぅ、すまんのじゃ。ユーアとラブナの言う通りなのじゃ」
「そうですね、まだお姉さまが企画した慰労会は続いてますものね」
「うん、なんか焦っちゃったけど、ワタシももっと遊びたいなっ!」
それを聞き、ナジメ達も着替えて、笑顔で湖の二人に混ざって行った。
「さすがはユーアだね。私の気持ちを代弁してくれて」
私はそんなやり取りを見て、感心すると共に感動した。
「あんな話をした私が言うのもあれだけど、ユーアとラブナの言う通り、ここへは訓練に来たわけじゃないからね。楽しんでもらおうと企画したんだからね」
ユーアがみんなをまとめてくれた事に嬉しくなった。
だって私が言っても、腕輪の件で煽ちゃったみたいで説得力がないから。
ただ、ラブナは単純にユーアと遊びたかったんだと思う。
何気にここ一番の笑顔だし、さり気なくユーアに抱きついてるし。
「それでもラブナがいたから、ユーアも言えたんだと思う。きっとみんなもそれはわかっている。だからこそ今は訓練をやめて、年少組の気持ちを汲んであげたんだと思う。なら私だけ傍観者はおかしいね」
私は装備の『変態』を使いビキニタイプに変化させる。
ついでに、大型スライダーをスキルで作成し、みんなの元に駆けて行く。
タタタ――――
「お~いっ! みんな~っ! 私も混ぜてよ~~っ!」
だって今日はまだ、みんなと楽しむための一日だもん。
せっかくユーアたちが作ってくれた、みんなと遊ぶための時間だもん。
そんな幸福な時間を堪能しようと、みんなのところに行ったんだけど、
「スミカお姉ちゃんも水着じゃないと、ダメだよ?」
「スミ姉っ! それはルール違反だわっ!」
「そ、そうですよ、お姉さまっ! 早く着替えてくださいっ!」
「うわぁ~、お姉ぇって空気が読めないんだなっ!」
「ねぇねだけ水着じゃないのはズルいのじゃっ! 着替えるのじゃっ!」
「へ? ええええ――――――っ!!」
なぜかみんなにダメ出しをくらってしまう私だった。
なので昨日の水着に着替えて、再度湖に戻る事となった。
ただし今回は、装備の上から着たのは内緒だけど。
その後はお昼まで泳ぎ、キューちゃんも混ざって楽しく遊んだ。
ランチは、みんなが持ち寄った料理に舌鼓を打ちつつ、二日間を振り返っての話で盛り上がった。
水着が装備の上からでも着れる事を思い出し、それぞれに交換をして、発表会みたくなったのはご愛敬だ。
それと双子姉妹には、サイズ調整機能が働かない事も再確認できた……
こうして私たちの慰労会という名のキャンプは終わりを告げた。
日帰りでもいいから、また来たいねと、みんなと話しながら。
――
「スミ姉、キュートードはあのままで良かったの?」
帰りも空の旅を満喫していると、ナゴタと話している私に声を掛けるラブナ。
「うん? あのままじゃないよ。少しだけ連れてきたんだ」
「そうなの? でもどこにもいないじゃない?」
不思議そうに周囲を見渡し、その後で私の顔を見る。
「ああ、そうか、保護色だから見えないんだけど、今はほら」
答えながら上空を指差す。
「ほら、保護色を解いたから見えるでしょ? 太陽光が反射して」
「へ?………… あああっ! って、……まじっ?」
指した空を見て叫んだ後で、ジト目で私を睨むラブナ。
そこには全長50メートルを超える巨大な水槽が浮かんでいた。
もちろん、透明壁スキルで作ったものだ。
今は『追尾』の能力で私たちの上を着いてきている。
「お、ラブナもマジを使いこなしてきたね。連れて来たのは10匹で、今日から孤児院裏の池にいてもらうんだ。ナジメにもさっき許可取ったし、池も作ってもらったからね」
ユーアと一緒にハラミをブラッシングしているナジメを見る。
「うむ。ねぇねに頼まれて作った池が、まさかキュートードの住処になるとは予想外じゃった。わしは子供たちの遊び場だと思っておったからのぉ。さすがねぇねというべきじゃな、うんうん」
何に感心しているかわからないけど、今、話した通りに、ナジメが孤児院の工事に参加するという事で、前もって頼んでおいた。
他のメンバーが食材確保に行ったその日に。
「それじゃ、キューちゃんたちは孤児院で飼うのっ!」
バッと顔を上げ、すかさず反応するユーア。
その目はキラキラと上空を見上げている。
見間違いじゃなければ、口端に光るものが……
「う、うん、10匹だけど飼う事にしたんだ。あんまり池も広くないからね。後は明日、ウトヤに来て、残りはそのまま送り届ける予定。シクロ湿原方面を通る許可が出たら」
ちょっとだけ、ユーアの視線を気にしながらそう答える。
池に放流したその日に、全滅なんかしないよね?
「お姉ぇは明日どっかに行くのかい?」
「そうですね、今の話だと街を出るみたいに聞こえましたし」
ナゴタとゴナタが今の話に反応する。
「うん、明日はロアジムと南西の村に出かける予定なんだよ。その時に少し遠回りだけど、キューちゃんを連れて行こうと思ってね」
「え? そうなの? またスミカお姉ちゃん出掛けちゃうの?」
キューちゃんから目を離し、衣装の袖を軽く摘まむユーア。
その表情はちょっとだけ寂しそうに見える。
「うん、そうなんだけど、ユーアも一緒だからね。ロアジムにも言ってあるし、ハラミも大丈夫だよ。だから明日は、朝から私とお出かけね」
ホワホワとした頭を撫でながら微笑んで返す。
「そ、そうなの、ボクもハラミ一緒なのっ! やった―っ!」
『がうっ!』
私の話を聞いたユーアは、嬉しそうにハラミにダイブする。
また毛並みが乱れちゃったけど。
「あ、それとロアジムの話が出たからついでに話すけど、私たちバタフライシスターズは、ロアジム直属の冒険者になったから」
「「「………………はあっ!?」」」
それを聞いてユーア以外のみんなが、目を丸くして私に注目する。
気のせいか、なんか怒っているような……
「ごめん、キャンプの準備もあって、話すのを忘れてたんだよ」
なので顔の前で手を合わせ、ごめんなさいする。
何となく不穏な空気を感じたけど、気のせいだと信じたい。
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