第516話おかしな村と変な村人




「よっ!」


 ギュム、ギュン――――


 『Gホッパー』に変化させた透明壁スキルを蹴って、一気に速度を上げる。

 反発力を最大にしているだけあって、初速は軽く弾丸の速度を超えている。


 急ぐ理由と目的地は、この先10キロほどにある村だ。

 マヤメの話によると、空を飛ぶ魔物(約50体)に襲われているらしいから。



「お?」


 宙を移動して数分、瞬く間に流れゆく景色の中、眼下にそれらしい人工物のような、建物が見えてきたが、

  

「あれ本当に村なの? なんだかやけに気合入ってない? コムケの街よりも防衛力が高そうなんだけど」


『ん?』


 数百メートル先に見えたのは、やたら高い外壁に囲まれた大きな村だった。


 外壁の中には、確かに建造物が点在しているが、全体の面積に対して家らしいものが少ない。っというか、居住区の敷地面積に対して、やたら田畑が広すぎるのだ。


 それよりも目を引いたのは、全てが石造りの頑丈そうな建屋もそうだが、見張り台だと思われる巨大な塔らしきものが、10棟以上も建っている事だった。


 一見、空から見れば、農業が盛んな村にも見える。


 けど、高い外壁と物々しい数の見張り台のせいで、どこかちぐはぐな印象を受ける。 



「なんだか魔物がいないんだけど…… 間に合わなかったの?」


 透明壁スキルの上に留まり、空から見渡すが、肝心の魔物の姿が見えない。

 それどころか、襲撃を受けた村人の姿も見当たらない。


  

「もしか、して…………」


 不吉な単語が頭をよぎる。

 魔物が去った=全滅、と言う、絶望を意味する二文字が。


 

「ん、澄香。気配ある」


 蝶のリュックを背負ったマヤメが、影の中から飛び出し隣に並ぶ。


「気配? ちょっと待って………… あれ?」


 この距離で感知するマヤメに感心しながら、索敵モードに切り替える。

 村の全域は見えないが、あちこちにマーカーが残っている。


 殆ど動きがない事から、どうやら建物の中に身を潜めているらしい。

 姿は見えないが、きっと逃げ延びた村人たちだろう。



「良かったぁ。隠れて生き残った人たちもいるみたいだね。なら治療を――――」

「んっ! 澄香、上っ!」

「上っ?」


 警告を知らせるマヤメの声で、頭上を仰ぎ見る。

 

「えっ!?」


 すると、宙に浮く私たちの更に上から、無数の炎の玉が降り注いでくる。

 列をなしてこっちに向かって来ることから、恐らく魔法の類だと思われるが、



「はっ!? なんで? もしかして魔物が隠れてたのっ!?」

「んっ! わからない。でも殺気を感じる」

「殺気って事は…… 人? って、今度は下から来るんだけどっ!」


 眼下に目を向けると、これまた無数の岩がこちらに向かって飛んでくる。

 理由はわからないが、これで私たちを狙っているのは明らかになった。



「んっ! ならマヤは下に降りる。澄香は火を消して、じゃないと―――」

「わかってる。建物はともかく、農作物が燃えちゃうからね。気を付けて」

「ん」


 タンッ


 テンタクルSマフラーを広げて、マヤメは地面に降下していく。

 飛来してくる無数の岩を、グラインダーのように旋回し、躱していく。


 

「随分と器用だね。よし、ならこっちはあの火の魔法を何とかしないと。よっと」

 

 マヤメを見送った後で、頭上の魔法に視線を向ける。

 幸い、私たちを狙って攻撃をしてきた事から、範囲はそこまで広くない。 

 なので最大面積で頭上にスキルを展開し、相殺することにした。


 

 ボッ、シュシュシュシュ――――――

 シュシュシュシュ――――――

 シュシュシュシュ――――――



 展開したスキルに、次々と炎がぶつかり、盛大に火の粉をまき散らす。

 数は多いが威力は大したことなく、何の負荷も感じず、その全てを防ぐ。



「で、次は岩だけど、あっちに飛ばしちゃえばいいかな?」


 地上から撃ってきたであろう無数の岩は、『Gホッパー』に変化させたスキルを設置し、比較的安全なところに飛ばすことにした。



 ギュム、キュ ――――――ンッ!


 ズドンッ! バキバキバキバキ――――ッ!



「うわっ! 反発力を最大にしたままだったっ!」


 跳ね返したはいいが、村の外れにある林をハチの巣にしてしまった。

 10倍以上の速度で、全てを跳ね返したのが原因だった。

 


「…………よ、よし、林が無くなって、更地になっちゃったけど、幸い誰もいなくて良かったよ。そ、それよりも桃ちゃんは熱くなかった?」


『ケロ?』


 ふと思い出し、フードの中の桃ちゃんに声を掛ける。

 確実に無事だと分かってはいるが、それでも念のため。


 決して目の前の惨劇から、目を逸らしたい訳ではない。



『ケロロ~』

「うんうん、大丈夫だね。なら次はマヤメの助っ人に行こうか」


 無事を知らせる可愛い鳴き声を聞き、一先ず安心したのも束の間、


『ケロッ!? ケロロッ!』

「ん、どうしたの? げげっ!」


 気が付けば、今度は無数の鉄球のようなものに囲まれていた。

 拳ほどの大きさしかないが、その数は3桁を超えていた。

      


「はあっ? さっきの炎と岩もそうだけど、本当にいつ仕掛けてるのっ!?」


 突然出現した、おびただしい数の魔法を前に唖然とする。

 これほどの数と規模なら、普通は何かしらの気配を感じるはず。


 だと言うのに、気が付けば目前にまで迫ってきていた。



 ヒュヒュン――――――

 ガン、ガガガガガガガガ――――――ンッ!



「もしかして、魔法で魔法を隠せるそんな便利な魔法があるの?」  


 早口言葉のような事を愚痴りながら、一気に攻撃してきた鉄球を弾いていく。 

 トンファー形態にスキルを変化させ、回転しながら全てを撃ち落とす。


「ラスト」


 ガンッ!


「ったく、これ魔物の仕業じゃないじゃん? なんで村人が攻撃してくるの?」

「あひゃっ!?」


 びゅんっ!


「あ、待って」


 最後の一つを打ち落とした後で、見張り台に見えた人影を睨む。

 だけど、私と目が合った瞬間に、脱兎のごとく中に隠れてしまった。


 トン


「はぁ~、無事を確認できたのは良かったけど、なんでこう敵意を向けて来るかな? 私たちを何かと勘違いしてない?」


 さっきの人影を追って、見張り台の付近まで近づくと、そこかしこから無数の殺気を感じる。

 家の中や建物の物陰、他の見張り台からも強い視線を感じる。


 すると、



((ジーアッ!))


「ひゃいっ!」


 周囲に響き渡った声で、見張り台からさっきの人影が姿を現す。


 ギュルンッ


「てっ! 今度はなにっ!?」


 その途端に、私の体に何かが巻き付いていた。

 よく見ると植物の蔦のようなもので、いつの間にか上半身を拘束されていた。



「ま、また気付けなかった…… 一体どうやって?」


 幾度も繰り返す、摩訶不思議な現象に困惑する。

 気が付いてからでは遅い、多彩で特異な攻撃に。



「ジーア、今よっ!」

「は、はひぃ~っ!」


「なっ!?」


 更に、誰かの号令と共に、今度は私の目の前に巨大な何かが出現した。

 その何かを例えるならば『大蛇』のようなもの。

 恐らく岩石か何かで出来たもので、体長は私の10倍以上だった。

 


「え? これって――――」


 その巨大な岩の大蛇が、私を丸呑みしようと、ガバと凶悪なアギトアゴを開ける。

 無数に突き出た鋭利な牙と、底の見えない暗闇が、身動きの取れない私に迫る。



『これって、どこかで?……』


 見た記憶がある。

 正確には『蛇』ではなく、もっと巨大な『龍』だった気がするけど。


 

 ズバンッ!

 ズババババ――――――ンッ!


 私はスキルを操作し、岩の大蛇を一刀両断する。

 を再現するように、ギロチンに変化させ、更に細切れにしていく。



「よっ!」


 ズババババ――――――ンッ!


「あひゃ? あわわわわわ――――っ!!」

「「えっ!? えええええ――――――っ!!」」


「おまけで」


 ズババババ――――――ンッ! 


「ひ、ひえ――――っ! あばばばばっ!」

「「う、うわ――――――っ!!」」


 それを隠れて見ていた、村人たちが姿を現し、各々に悲鳴を上げる。

 見張り台の中や、物陰から顔を出し、目の前の光景に慄いていた。


 そして蛇だった物は、小石ほどの大きさになって、あちこちに飛び散っていた。



 スパンッ!


「ふぅ、これで全員出てきたのかな? なら説明をお願い」


「「………………ビクッ!」」


 拘束していた蔦をスキルで切断し、パタパタと羽根を動かしながら、村人たちを睨みつける。因みに羽根を動かしたのは、今まで縛られた事なんてないから、一応装備の確認も兼ねてって意味なんだけど、



「「「………………」」」


「あのさ、私の言った事聞いてる?」


 何故か揃って放心している村人たちに、再度話しかけるが、視線は私を見ているようで、どこか違うところを見ていた。それはまるで私の背後を見ているようだった。


 なので、



「………………」  


 パタパタ


「うひぃっ!?」

「「「ビクッ!」」」


「………………」


 無言で羽根を動かすと反応があった。

 中には咄嗟に身構える人もいたけど。


 そして、大蛇の魔法を放ったであろう少女は、膝をついて半泣きになってるけど。



『…………もしかして、昆虫が嫌いな種族なの?』


 まるで凶悪な害虫を見るような反応。


 農業が盛んだから、田畑が荒らされるとか思ってんの?

 誰が見たって、私はか弱くて可愛らしい可憐な蝶だよね?


 そうだよね?


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