第515話襲撃を受けた村




「で、なんで私を呼んだの? まさかそのカラスと羽根が生えたリュック見せたくて呼んだんじゃないよね? なんか慌ててた感じに聞こえたんだけど」


 マヤメの視線を避けるように、そそくさと着替えながら聞いてみる。

 何か緊急の事ではない限り、お風呂に入っている私を呼ぶわけないし。



「ん、マヤはここに来てから、偵察用のロボカラスを外に放してた。それで澄香がお風呂に行ってる間に戻ってきた。だから呼んだ」


「え? 何かを飛ばしてたのはわかってたけど、そのカラスだったの?」


 マヤメの頭の上に乗っている、ロボカラスを見る。

 見た目は本物っぽく見えるが、全く動かないので無機物っぽくも見える。


「ん、それでロボカラス戻ってきた。外の事を報告するために」


「も、戻って来たって、どうやってっ!?」 


 レストエリアの周りには、保護色にした透明壁スキルを展開している筈。

 あの災害幼女のフーナでさえ、最後まで破壊する事が出来なかった代物だ。


 それがそのロボット風のカラスなんかが、破れるとは到底思えない。

 天と地がひっくり返っても絶対に不可能だ。


 それだけは断言できる。



「ん、土を掘って魔法壁を抜けてきた」

「…………え? も、もう一度言って」


 耳を疑う発言に、思わず聞き返す。


「ん? 魔法壁が邪魔で入れなかったから、地面掘って中に入ってきた」

「え? あ、ああ、そう…………」


 それは盲点だった。 

 まさかそんな抜け道があったなんて…………


 今度からは囲うんじゃなく、スキルの中にレストエリアを設置しようと思った。



「ん、それでこのボロカスが――――」

「ボロカス? ロボカラスを略したいんなら、ロボカスでしょ?」


 きっとそうだろうなと思い、訂正してみる。


「ん、そうとも言う」

「いや、酷い言い間違いだって。それじゃ元がボロカラスになってんじゃん」

「ん、もうどっちでもいい」

「…………」

 

 まぁ、確かにどっちでもいいけど。

 ロボカスもボロカスも、似たり寄ったりだし。


「ん、それで、このロボカスが教えてくれた。近くの村が魔物に襲われてるって」

「えっ? 魔物?」



 ロボカラスの詳細と、その報告はこうだった。


 マヤメは元々、単独での偵察向け&暗殺用に創られた個体で、持っている能力もアイテムもそれに特化したものが多い。


 影に潜る能力シャドーダイブも、伸縮自在なマフラーテンタクルSマフラーもその一部だ。


 そして偵察用の他に、どうやら長距離移動用のものや、水中用。はたまた、盗聴や声帯模写をするものまで、多岐にわたって持っているらしい。


 それで今回マヤメが放っていたロボカラスだが、頭の上に乗る事で、所有者のエナジーを消費し、充電&情報を伝えるらしく、今までは残量の関係で、使用を控えていたらしい。


 それが今回エナジーの問題が解消されたことによって、ロボカラスを使用したとの事。で、その持ち帰った情報が、村が魔物に襲われているとの話だった。



「で、どんな魔物なの?」

「ん、1メートルくらいの黒い魔物で空を飛ぶ。数が多くて近づけなかった」

「その数は?」

「ん、50体以上」

「50体も? それで、ここからの距離は?」

「ん、大体10キロ。それ以上はロボカスが飛べない」

「わかった。ならマヤメはどうしたい?」

 

 腰に手を当て、マヤメの目を見て尋ねる。

 

 今の私たちが優先すべきことは、トリット砂漠に行く事。

 それは勿論、マヤメのマスターを回収する為だ。


 だからマヤメがどうしたいかを決める必要がある。

 私はマヤメの願いを叶えるために、ここまで同行してきたのだから。



「ん、行くべき」

「ジェムの魔物かもしれないよ?」

「ん、尚更行く」

「…………よし、なら走った方が早いから、一旦外に出ようか」

「ん」


 マヤメの意思が確かな事を感じ、外に出てレストエリアを収納する。

 桃ちゃんは『変態』の能力でフードを作り、その中に入ってもらった。



「それじゃ行くけど、マヤメは私の影の中から、その村まで案内して。桃ちゃんはフードの中でじっとしてて。その距離なら大体2、3分くらいで着くと思うから」 


『ん、了解。澄香、このまま南西に行って』

『ケロロッ!』


「わかった。『Safety安全 device装置 release解除 Quatre』」


 シュ ――――ン


 二人が準備できたのを確認して、一気に速度を上げる。

 透明壁スキルを足場に空を駆け、南西に向かって跳躍を繰り返す。 



『魔物が何なのかはわからない。けど、ジェムの魔物だったら、出現する条件に当てはまる。周りには大きな街がなさそうだし、襲われたのが人里離れた村だったら、尚更、ね……』


 確信にも近い、嫌な予感を感じながら、マヤメと3人で、その村に向かって急いだ。 



 まさかその村で、熱烈を通り越して、激烈な歓迎をされるとは、今の時点では予想していなかったけど。



――――



 一方、スミカたちが救援に向かっている、その村では、



「おい、みんな無事かっ!」

「な、なんだったんだっ! この魔物はっ!」

「アイツらアシの森に逃げていったようよっ!」

「誰か、もっと回復薬をお願いっ!」

「子供は家の中に入れっ! また襲ってくるかもしれんぞっ!」

「こんな時、クロさまがいてくれれば、一網打尽できたかも」

「もう一度、侵入察知用の結界の様子を見てくるわっ!」



 何の前触れもなく現れた魔物の襲撃により、村人たちは動揺し、混乱していた。

 そんな中でも体制を立て直そうと、みなが団結し、それぞれが動いていた。


 これだけでもこの村人たちが、普通ではないとわかる。

 ただの一般人なら、途方に暮れて立ち竦み、怯え、嘆くだけだろう。



 更に、ここの村人が普通ではない証拠がもう一つ。



「で、結局こいつらは一体何者なんだ?」


 一体の魔物の死骸を前に、首を傾げる一人の村人。


「鳥…… ではないようね? 恐らく害虫の類ではないかしら?」


 それに対し、女性の村人が、他の死骸を見付けて答える。


「はあ? こんな巨大な虫なんて見た事も聞いた事もないぞ。それに何のために村を襲ったんだっ? 害虫なら普通作物を狙うだろうがっ」


 他に転がっている、数体の死骸を見渡し、不機嫌に答える村人。


 

 今の話と数々の死骸を見る限り、村が魔物に襲われたことは間違いないのだが、ここの村人は逃げ惑うどころか、突然襲ってきた魔物を撃退し、その大多数を追い払ったのだった。


 もちろん普通の村人では、到底魔物には敵わない。

 ましてやそれと戦い、返り討ちにする実力など、普通は持ち合わせてはいない。


 そんな力を持つとすれば、魔物退治を生業とする冒険者か、数多の戦場を渡り歩く傭兵、それか国や城を守護する、軍隊か騎士団だけだろう。


 若しくは――――



「お、おい、ジーアっ! また奴らが戻ってきたぞっ!」 

「えっ? えっ? も、戻って来ちゃったのっ!?」


「ジーアっ! 今度はさっきより大物だっ! 物凄い速度で向かってきているっ!」

「お、大物っ!? あわわわ」


「ジーアはさっきと同じように、土魔法の準備をしていてちょうだいっ!」

「ひゃ、ひゃいっ!」


「それまでは私たちが時間を稼ぐわっ! だから合図したら、ジーアはクロさま直伝の上級魔法を、アイツらに放って頂戴っ!」

「しぇ、しぇいだいにっ!? はひぃっ!」


 緊迫したみんなの声に、身を震わせながら答える少女の名は『ジーア』。


 この村一番の年少者でありながら、村一番の魔法の使い手だ。


 その訳は、この大陸で随一の土魔法を操る魔法使い―――― ではなく、その本人から手ほどきを受け、認められているのが理由だった。


 背格好も性格も、凡そ戦闘向きではないが、その実力は村人全員が認めるものだった。

    


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