第110話シスターズ登場!




「ね、ねえっ、本当に大丈夫なんだよね? クレハン」



 私はみんなを乗せた、透明壁に平行に走りながらクレハンに確認する。


 もうここは整地された広い街道だ。

 そろそろコムケの街の外壁が見えてくる頃だろう。


 因みにユーアは、



「むにゃむにゃ、オオカミさ~ん、ハラミ~~良かったよぉ~~」



 感動の再会を果たしたオオカミの魔物の『ハラミ』の上で眠っている。

 色々な事があったし、オオカミとの邂逅でも疲れてしまったんだろう。

 安心したのか、泣き疲れるように眠ってしまった。


 そして『ハラミ』はこのオオカミの魔物の名前で、ユーアが名付けていた。


 なぜ、名付けてたって過去形になるかというと、元々ユーアは、オオカミと最初に別れる時には決めていたらしい。


 冒険者になりたてのユーアを先導してくれたお礼として。



『名前を付けてあげたのはいいけど、食べるつもりじゃないよね?』


 私はふと、そう思う。


 だって『ハラミ』だよ? 直球すぎない?



 どう考えたって、ユーアが考えた名前の『ハラミ』は、

何かの動物の肉の部位だよね?希少部位だよね?



 それが、お肉大好きユーアが名付けたってだけでその信憑性が増す。



「むにゃむにゃ、大きくて美味しそうだね、ハラミ~~むにゃむにゃ」



「!!っ」



 き、聞かなかった事にしよう。見なかった事にしよう。

 ハラミの上で涎を垂らしているユーアの寝言は。

 それとハラミ、これ以上大きくならない方がいいかもっ。



『………………あれっ? 髪がなびいてないね』



 背中に抱き着いているユーアは、ハラミの駆ける動きで、多少揺れてはいるが、振り落とされる様子も風圧を受けている様子も全くない。


 これもこのハラミの何かの能力なんだろうか?


 

「ええ、大丈夫です。スミカさんっ!!」



 私はそのクレハンの答えで、思考を元に戻す。


 そうだった。


 クレハンにハラミが街に入れるかを、聞いていたんだった。



「わかった。それじゃクレハンに任せるよ」


「はい、お任せください。スミカさんっ!!」



 クレハンの珍しく、自信ある発言に私はほっと胸を撫で下ろす。

 ユーアにこのオオカミの事で、心配かけたくなかったから。




――――





「ああっ! ルーギルっ! それとスミカっ! お前たち大丈夫だったのかっ! 魔物は、街は、いったいどうなるんだっ!」



 そう私たちを街の門で迎えてくれたのは、ワナイ警備兵だった。


 私のパンツ報告人専門の――



「オイッ、落ち着けよワナイ。魔物は全て討伐してきた。この街はもう大丈夫だ。だからお前もいつ魔物が攻めて来るかもしれない中、門の守りご苦労だったなッ」


 ルーギルは、私たちを迎えて、その動向が心配だったワナイの肩に「ポン」と手を置いてそう語る。


「そ、そうかっ! さすがはルーギルだなっ! 街はお前に救われたって訳だっ!!」


「あ~~それはそうかも知んねえがァ、俺は只の、付き添いみたいなもんだったぜ? 実質、街を救ったのはここにいるスミカ率いる――――」


 ルーギルは、そう言って私たち4人を促し前に送り出す。

 そうすると、残りの私達4人は、必然的に一歩前に出る事になる。


 そして私たち4人は、



「こ、この街を魔物の脅威から救ったのはっ!!」

 と私。


「ここにいるっ私たち4人といっぴきのっ!!」

 とナゴタ。


「その名もっ!!」

 とゴナタ。


「び、美少女戦士っ!?」

 とユーア。




「「『バタフライ、シスターズッッッ!!!!』」」



 《ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉんっっっっっっ!!!!!!》




「……………………」「……………………」「……………………」

「……………………」「……………………」「……………………」

「……………………」「……………………」「……………………」

「……………………」「……………………」「……………………」



 し―――――――――――――――ん。




「はっ?はっはぁ? ルーギルお前何言ってっ!? って、スミカたちは一体何やってんだっ!! な、なんだっ、よく見たら、ナゴタゴナタ姉妹と、ま、魔物までいるじゃねえかっ!! ユーアはお前はなんで魔物の上にっ乗ってっ!?」



 いち早く我に返ったワナイが、そんな私たちに食って掛かる。



 周りの人々も、私たち4人と一匹の、某戦隊風を真似た登場の仕方に、

目を見開いて驚いている。


 他に街へと入る門に並んでいる人たちも、そして、もう一人の若い警備兵も、目を見開き口をあんぐり開いている。皆一様に唖然としている。



『~~~~~~~~~~っ』



 そりゃそうだろう。


 街を救ったらしい者が、ルーギルの言う4人の少女と一匹だし。


 少女4人で救ったって話も眉唾物なのに、更にその中にナゴナタ姉妹も

混ざっているし、しかも魔物まで引き連れている。



 そして、私たちは一様に、謎のポーズを決めている。



 ユーアは、ハラミの上に乗って片足を上げ何故か、


『ツルのポーズ』


「ううっ~~~~~」


 ちょっと全身がプルプルしている。しかも涙目。



 ナゴタは、四つん這いになって片手をクイっと上げて、


『女豹のポーズ』


「んふっ♪」


 妖艶なポーズでウインクしている。なんかノリノリだ。

む、胸元の谷間は気にしない。



 ゴナタは、両膝立ちで、肘を曲げて両手を前に伸ばしている。


『ワンワンのポーズ』


「わふ~っ!」


 にこやかな笑みを浮かべて「ハッハッ」と腕を上下に振っている。

つ、ついでに二つの丸い|○○|も上下に揺れている。



 私は、ここに来る前に、3人にポーズを教えていた。

それぞれに合ったポーズを。



 そして私は――――――


「~~~~~~っ!」



「ヒラヒラ」していた。



 スカートの裾を指先で摘まんでヒラヒラと。


 『蝶』 だけに。



『~~~~~~~~っ!!』



 な、なんで私だけこんなハレンチなのっ!?

なんで私だけ、昆虫なの!?背中の羽根でいいじゃんっ!?



 ってか、みんなのポーズを決めたのは私だけどっ!

そして私のポーズを決めたのは、ユーアたちだけどっ!



 ヒラヒラヒラ



『は、早くっギルド長コンビ先を進めてっ!いつまでもこんなっ!集まっている男たちの視線に堪えられないっっ!絶対私の白い生足を凝視しているって!?そしてその先だって想像してっ――――』



 私は恥ずかしくて閉じていた目をゆっくり開く。

これ以上じらしたって意味がないし、先に進まないし堪えられない。



「あれ?誰も!?」


 ヒラヒラヒラヒラ



 私を見ていなかった。


 目を開いた私は、私を見る穢れた視線を受けていなかった。



『……………………』



 みなその視線は女豹と犬の方向を見ていたからだ。

ナゴナタ姉妹の方に、一同視線を這わせていたからだ。



 みんな、その大きなものに釘付けだ。

「ウフン」と「ワンワン」に。



『――――――――』



 ファサッ



 私は摘まんでいたスカートから手を離した。



 所詮この世は大きいものが正義なんだと思った。



 『大は小を兼ねない』事を知った。



 そして私は一気に熱が冷めていくのを感じていた。

 元々熱は上がってないけど。


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