第111話帰って来たよっ!
「ふぃ~、やっと街に入れたよ」
私たち6人と、シルバーウルフのハラミはなんとか街に入る事が出来た。
ナゴタとゴナタ姉妹は、元々街へは入れないわけではなかったから、そこは問題なかった。ただこの後が色々と面倒だけど。
そして一番の懸念材料だったのは魔物の『ハラミ』だ。
正直無理だと思っていたから、最悪、防具の透明鱗粉で姿を隠して、不法に街に入ろうかなと算段していたけど。
そこで我らが頭脳担当の、クレハンの出番だった。
特別な例であれば、街へ魔物を入れること自体禁止ではないらしい。
ただそれが普通の魔物であれば、もちろん入街は出来ないが。
その入街出来る特別な例が『魔物使い』と呼ばれる職業だ。
ゲーム風に言うと「モンスターテイマー」っといったところだ。
ユーアとハラミはそれに当てはまると、クレハンがワナイに説明し、その証拠にハラミとある程度、意志疎通ができるユーアがハラミを操ってみせた。
「ハラミっ! お座りっ!」
『わうっ』
スサッ
「ハラミっ! お手だよっ!」
『わうっ』
ポスッ
「ハラミっ! ごろんっ!」
『わうっ』
ゴロンッ
から始まり、
「ハラミっ!ボクを乗せてジャンプねっ!」
『わうっ!』
ピョンッ!
「「「おおっ――――!!!!」」」
パチパチパチッ
「今度は、ボクとスミカお姉ちゃんを乗せて宙返りねっ!」
『わうっ!!』
「えっ、私っ!?」
クルンッ!
スタッ!
「「「おおっ――――!!!!」」」
パチパチッパチパチッ
「ハラミっ! ワナイさんとスミカお姉ちゃんを乗せて後方宙返りねっ!」
『わうっ!!』
「お、オレもっ!?」
グルンッ!
「おわっ!?」
シュタンッ!
「「「うおおっ~~~~~~~~!!!!」」」
パチパチパチッ! パチパチパチッ!
パチパチパチッ! パチパチパチッ!
パチパチパチッ! パチパチパチッ!
「あ、ありがとうね、みんなっ! えへへっ」
てな感じで、
ワナイも巻き込んで、ハラミの危険性が無いって証明された。
最後の方は、なんか曲芸になってた気がするけど。
「ハラミ、良くできたねっ! はいこれお肉っ!」
『わう~~っ!!』 ぺろぺろ。
「うふふっくすぐったいよっ! ハラミっ! あはははっ!」
そんなユーアとハラミのやり取りを見て、誰も危険な魔物だなんて、思わないだろう。集まっている大勢のギャラリーも、暖かい目でユーアとハラミのじゃれ合いを見ていた。
「さあ、これでわかりましたね? ワナイさん。ユーアさんが連れている魔物に害はないと。彼女は高レベルの『魔物使い』としてギルドで登録いたします。従魔の首輪はこちらで用意するので、ご安心を。それと、スミカさんとナゴタとゴナタ姉妹の件なのですが、ごにょごにょ――――」
と、そんな感じで、ユーアとハラミのパフォーマンスと、クレハンの謎の交渉で、私たちは街の中に入ることが出来た。
※※
「ふぁ~、やっと帰ってきたよっ! なんか落ち着くなぁ」
たった二日間の冒険だったけど、見慣れた街並みを見てちょっと安心する。
時間にしたら昨日の午後に出発して、今日の午前中に帰ってきただけなんだけど。オークから始まり、トロール討伐まで色々あったなって思い出す。
ナゴナタ姉妹の件もハラミの件も。
それと、
あの『未知の腕輪』の存在の事も。
「どうするスミカ嬢ッ。一度ギルドに寄るのか? こっちとしては、ナゴタゴナタ姉妹の件も、報酬の件も明日で構わねえんだけどよォ」
「う~~ん」
ルーギルの問いかけに、ユーアとハラミ、そして姉妹の二人を見る。
心なしか表情に硬さが見られる。
ユーアにしても初めての戦闘だし、ハラミとの出会いでも色々と気疲れもある。
姉妹にしても、数々の戦闘と長旅と、街への懸念事項もあるだろう。
「ルーギル。私たちは今日は帰るね? 色々疲れちゃったし」
そんな3人を見てからそう答える。
「そうかァ? 今日はそれがいいかもなァ。わかった。それじゃ明日の夕方に来てくれ。その方が人が揃ってんから、手っ取り早いだろッ」
私の視線の先を見て見て、ルーギルもそう答える。
「なんか色々悪いね」
「気にすんなッ! 俺も色々知っちまったし、俺が手を出せる範囲でなんとかすっから心配すんなァッ! それに俺たちはパーティーの仲間だろう? 『バタフライシスターズ』のよォッ!」
「はあっ??」
途中まで良い事を言っていたルーギルだったが、最後の言葉だけは聞き捨てならなかった。仲間は仲間だろうけど。
それは…………
「ルーギルはパーティーメンバーには入ってないよ?」
「ルーギルさんは、シスターズの一員じゃないですよ?」
「一体あなたは何を狂った事を言っているのですか? ルーギル」
「それはお前の勘違いだぞっ! ルーギルっ!」
それは現バタフライシスターズのメンバー全員によって否定された。
ていうか、そのパーティー名で決定なんだろうか?
「オ、オゥッ! そ、そうか、俺の勘違いだったかァ。そ、そっかァ……」
ちょっと寂しそうに頭を掻いていた。
「ルーギル、そもそもシスターズって、姉妹とかの呼び名なんだよ。ルーギルは男だからシスターズではないけど、れっきとした私たちの仲間だよ。それとクレハンもね?」
肩を落とすルーギルにそう付け足す。
二人とも共に戦い、街を脅威から救った仲間だから。
「そ、そっかッ! 俺もクレハンもパーティーの一員かッ! オ、オウッ! 良かったなクレハン! お前もだぜッ、わっははッ!」
バン バンッ
それを聞いたルーギルは、破顔しながらクレハンの背中を叩く。
「い、痛いですからっ! 余り背中を叩かないで下さいよギルド長っ! でも、そうですかっ! わたしも仲間ですかっ! ふふふっ!」
仲間宣言を聞いた二人は、お互いに顔を見合わせ笑顔になる。
二人はどう思っていたのかはわからないけど、私はこの旅の途中で仲間にすると決めていた。
この二人は信用も信頼も出来る数少ない存在だ。
それにこれ以降でも、色々と一緒に行動する事もあるだろうし、
頼りにさせてもらう事もあるだろう。
今はまだ薄っすらとだけど、他にもやりたい事が見付かったし。
って、いうか、この二人はそのやりたい事に欲しい人材なんだけどね?
それはここだけの話で、もっと先の話だけど。
―
「それじゃ、私たちは帰るね。明日はよろしくね。二人とも」
「ルーギルさんとクレハンさん、お世話になりましたっ!」
「明日は私たち姉妹の事をよろしくお願いします。二人とも」
「それじゃ、また明日なっ! ルーギルとクレハンっ!」
家路に足を運びながら、今日冒険した二人にお別れをする。
「オウッ! なら俺たちも帰るとするかッ! まぁ、ギルドにだけどよォ! それじゃシスターズたち、今回は楽しかったぜッ! また明日なッ!」
「シスターズのみなさん。今回はいい経験をさせていただきました。また一緒に冒険したいですね。わたしも仲間ですから。それでは失礼いたします」
私たちは女性陣と男性陣に別れ、それぞれに挨拶をして違う方向に歩んで行く。
ルーギルたちは冒険者ギルドへ、私たちはいつもの孤児院の裏へ。
今は歩く方向は違うけれど、それぞれの想いの進む方向は一緒。
これからもそうあって欲しいと、みんなの背中を見渡して、そう思った。
※※
その頃、孤児院裏の雑木林の奥では―――――
「はぁっ、はぁっ、はぁっ―― ふぅっ」
バタンッ
アタシは火照った体を冷やすため、短い草の上に倒れ込み、そして呼吸を整える。
「ふぅ~ 自己流だけど、随分とサマになってきた気がするわっ! もしかしてアタシって天才っ!? っじゃなくて、この力のせいだわっ! でもこれを使いこなすアタシってやっぱり天才かもっ! これなら間に合うわっ!」
空を見上げ、独りそう叫んで、胸に掛けている薄い布に入ったカードを手にする。
そこにはこう記されていた。
『名前 ??? 冒険者ランクF 職業 ???』
それは午前中に冒険者ギルドで取得してきたものだ。
アタシが正式な冒険者だと証明するカードだ。
「これならアタシも戦えるわっ! あの子と肩を並べて冒険できるわっ!」
手に持ったカードをニヤニヤしながら眺める。
だってこれがあれば、大手を振ってあの子に恩返しができるんだから。
※※
更に一方、コムケの街から十数キロ離れた森の中では、
「ううむっ、久し振りじゃから、迷ったのじゃっ。なんで街道を歩いておったのに、森の中におるのじゃ? やはり付き添いを頼めばよかったかのぉ?」
わしは、気付いたら森の中を彷徨っていた。
周りを見渡してもここが何処だか、ましてや方向さえわからない。
「はぁ、これではコムケの街に着くのは夜になってしまうかもじゃ。だったらここで野宿でもした方がええかもしれぬなぁ?」
わしはもう諦めて、野営できそうな場所を探すことにした。
「こ、今度は、川が何処にあるかもわからないのじゃっ! わしは一体どこに行けばいいのじゃっ? やはり一人では無理があったのじゃっ! もう、ここでいいのじゃっ! 『土倉』」
わしは短く呪文を紡いで、土のドームを作り中に入る。
ついでに、その周りにも土で出来た壁を作成する。
要は簡易的な防壁みたいなものだ。
「ふむ、高さは10メートルもあれば足りるじゃろ? それにしても、冒険者を止めてこの仕事を選んだのは失敗じゃったな。やるべきではなかったのぉ。領主になるなんて。はぁ―――――」
わしは懐かしい冒険者時代を思い出して、自然と愚痴が出てしまう。
更に続けて、こうも思う。
「戻りたいのぉ、Aランクだった冒険者時代に」
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