第112話ハラミの首輪と姉妹の行く先




「スミカお姉ちゃんっ! これからどうするの?」



 ハラミの背中に乗ってるユーアが、私と並んでそう聞いてくる。


 そんなユーアは、余程ハラミとの再会が嬉しかったのだろうか?

 街に入っても、ずっと無邪気な笑顔が続いていた。


 気のせいか、背に乗せているハラミも喜んでいる様に見える。


 いや、実際に喜んでいるのだろう。

 ユーアを乗せた後ろでは「ブンブン」と柔らかそうな尻尾が揺れているのだから。



「そうだねぇ、それよりもハラミの首輪、あまり可愛くないね?」


「え、そうかなぁ。ボクは似合ってると思うよっ」

『わうっ!』



 そう、今ハラミは首輪をしている。

 なにも凝った装飾のない、シンプルな感じの黒い首輪を。



 私たちと別れたクレハンが、あの後慌てて持ってきてくれたものだ。


 この首輪は、魔物が街へ入る事が許されている「印」みたいなものだ。


 誰か責任を取る飼い主がいるであろう事と、この魔物は害がないだろうとのギルドからのお墨付きのものだ。この首輪をしていないと街の中へは入れない事になっていた。



「従魔の首輪は、ただ単に目印みたいなものですからね。デザインはあまり期待できないかと。それに、その首輪もれっきとしたマジックアイテムなんですよ?」


「そうだぞっ!スミカ姉とユーアちゃん。それには飼い主がユーアちゃんてわかるようになってるんだっ! ユーアちゃんがいない時に、誰が飼い主かきちんとわかるようにってさ」


「ふ~ん、なるほどね。ただの首輪じゃないんだ」


 ナゴタとゴナタの説明に相槌を打つ。



「それに、今度から街へ入る時は、その首輪でチェックされます。私たちで言うところの冒険者証みたいなものです」


「そうそう、だからその首輪には、ユーアちゃんの情報とハラミの情報が魔法で書き込まれてんだっ!」


「ほうほう、こんな質素な首輪に、ユーアとハラミの事が…… あれ? それじゃ、クレハンはハラミをシルバーウルフ?だっけ、で登録してくれたのかな?」


 二人の追記の説明にそう答えながら、疑問に思った事を聞いてみる。

 それに性別だって聞かれていないし。



「え、それはたぶんそうでしょうね。見た目シルバーウルフですしね。でも絶対に違うと思いますが。それと細かい事は明日聞かれるかもしれませんね?」


「うん、ルーギルもクレハンもワタシたちと同じで勘違いしたままだと思うなっ! だからきっとシルバーウルフで登録してそうだよっ! 絶対に違うと思うけどさっ」


 って事は「仮登録」みたいな状態なのかな?



「え~と、ユーアの最初の話に戻るけど、姉妹の二人には今日は、私とユーアの家に泊まってもらうから。色々相談したい事もあるし。それでいいよね? ユーアも」


「はいっ! スミカお姉ちゃん、それでいいですっ!」


「あ、ありがとうございますっ! スミカお姉さまっ!」

「ありがとう、スミカ姉っ! お邪魔させてもらうよっ!」


 私の申し出に、姉妹は喜んでくれたようだ。



『まあ、まだ姉妹は、大手を振って街を歩きづらいしね』



 以前のままの姉妹だったら、それも関係なかっただろう。

 ってか、気にしなかっただろう。


 ただ今は、二人は自分たちのやってきた事に、恥じてもいるし後悔もしている。

 そんな状態で、街を歩かせては、良い思いをしないだろう。相手も姉妹も。



「あれ、そう言えば、二人はこの街に家を持ってないの? 一応留守が多いけど、この街が拠点だったんでしょ?」


 ふとまた疑問に思った事を聞いてみる。

 持ち家があるのならば、私の招待は出しゃばった事かなと思って。



「いえ、持ち家は私たちは持っていないのです。滞在がいつも短期間なので、帰って来た時はいつも宿をとって滞在していました」


「うん、そうなんだよっ!スミカ姉っ! ワタシたちは故郷を出てきたから、ここを拠点にしてるけど、あんまり意味はないんだ、どこが拠点でも。たまたま居心地が良かっただけなんだ。ここはさっ!」


「そう、なら、私の家でも問題ないんだね。それじゃ行こうか、みんな」


「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」

『わうっ!』

「よろしくお願いします。スミカお姉さまっ!」

「よろしくなっ! スミカ姉っ!」



 そうして私たちは、なるべく人通りの少ない路地を抜けて、居住区を横断する。


 幸いと言うか、冒険者も含めて、あまり人には会わなかった。

 まあ、もし煩そうなのが来たら、透明鱗粉で姉妹を見えなくするけど。



「さあ、着いたよ。ここだよ」



「…………えっ? こ、ここですかっ!?」

「えっ!? スミカ姉たちは、ここに住んでるの?」


 孤児院裏に着いた二人は、驚いたように私に確認する。


 因みに姉妹の視線は、以前にユーアが住んでいた、

 「テント風」の住み家を見ていた。


 まぁ、ユーアには失礼だけど、言いたい事は良く分かる。



「ううん、そっちはユーアがちょっと前まで住んでたところだよ」


 なので、すぐさま訂正して説明し直す。



「え? ちょっと前って、どのくらい前なんですか?」


「そうだね、ユーアと出会った日からだから、大体5、6日前かな?」


 ナゴタの質問に、何となく覚えてる範囲で答える。

 確かそのくらいかなぁ、と思って。

 


「えっ、ちょっと待ってくれよ、スミカ姉っ! スミカ姉はユーアちゃんと会って、まだ1週間も経っていないって事なのかい? 幼馴染とかそういうのじゃなく?」


「うん、そうだね。ユーアとは会ってまだそれ程経ってないよ。まだ会ったばかりなんだよ私たち。ねっ! ユーア」


「うんっ!そうですスミカお姉ちゃんっ!」


 今度はゴナタからの質問に、ユーアも交えてそう答える。

 よく考えてみれば、まだ1週間も経っていない。


 随分とユーアとは長くいると思ったけど、まだそれ程時間は経っていなかったのだ。



「そ、そうなのですね、随分と長い間ご一緒かと思っていましたが、ごく最近の話なんですね、驚きました。ユーアちゃん、スミカお姉さまに出会えて良かったですねっ!」


「そうだなっ! ユーアちゃんは素敵なスミカ姉に会えて幸せだなっ!」


 出会いの期間の短さを聞いた姉妹は、ユーアに笑顔を向ける。



「うんっ! ボク、スミカお姉ちゃんに会えて良かったですっ! 今が今までで一番幸せですっ!」


 それを聞き、ハラミの背中の上で笑顔でそう答えていた。


「ふふふ、ありがとうね。ユーア」


 私はそんな笑顔を浮かべるユーアの頭を撫でて、頬が緩んだ。



※※



「それじゃ、上がっていいよ。二人とも。靴は入り口で脱いでもらえる?」」


 いつもの孤児院裏に到着し、レストエリアを出して姉妹に声を掛ける。


「いや、ビワの森の時にも驚きましたが、スミカお姉さまの収納魔法は許容量が凄いですねっ! さすがですっ! スミカお姉さまっ!」


 それを見て、姉のナゴタは興奮したように声を張り上げる。


「そ、そうかな? 普通じゃないの? きっとみんなこんなもんだよ」


「どうなんだろっ? ワタシたちもあまり魔法は詳しくはないけど、スミカ姉のは絶対に凄いと思うんだっ! だって家みたいな大きさが入っちゃうんだよっ? 絶対に凄いってっ!」


 今度は妹のゴナタが姉と同じように食い気味に来る。


「そ、そうかな? 私なんか大したことないって、きっと」


 ヒラヒラと手を振って、曖昧に答える。


「そうですか?」

「そうかなぁ?」


「そ、そうだよっ! ってそれはいいから早く中に入りなよっ!」


 グイッ


「あ、スミカお姉さま、そんなに押さないでくださいっ!」

「ちょ、スミカ姉っ! あまり押されるとさっ!」 


 最後は話を中断し、背中を押して無理やり姉妹を家に上げる。



『う~ん、特に重大な秘密って訳じゃないけど、色々正体を知られるのは今はまだ早い気がするんだよね? 言っても信じられないとか、そういう事じゃなく、なんか私がこの世界に来た意味があるんだと思う。誰かに呼ばれたのか、私が望んだのかはわからないけど、それがハッキリしてからだよね、色々と話すのはさ』



 姉妹が奥に入るのを確認して、レストエリアを透明壁スキルで保護色に覆いながら、そんな事を考えていた。



「ねえ、スミカお姉ちゃん。ハラミはどうするの? お家に入れていいの?」


「あっ」


 ユーア声で我に返り、間の抜けた声で返事してしまう。


 そうだった。ハラミをどうするのか考えていなかった。



「そうだね…… ユーア、今日はお家入れていいから、先にお風呂場で体だけ洗ってからにして。 明日の事はまた考えようか?」


「うん、わかりました、スミカお姉ちゃんっ! ほら、ハラミ一緒にお風呂場行くよっ! ボクがきれいにしてあげるからねっ!」 


『わうっ!!』


 ユーアはそう言ってハラミを連れてレストエリアに入っていく。


「あっ、ユーアっ! 足は玄関で拭いてからねっ!」


「うん、わかったよっ! ハラミはちょっとここで待っててねっ!」


 ユーアはそう返事して、ポーチよりタオルを出して家の中に入っていく。

 どうやら洗面所に向かったみたいだ。



『ふふっ。たった何日かで、随分と賑やかになったものだね、ここも』


 中から聞こえてくる姉妹の声と、パタパタと走るユーアの背中を見てそう思った。



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