第113話お家へご招待と魔のお風呂
「とりあえず、座りなよ二人とも」
ユーアは私の言い付け通りにハラミをお風呂に連れていっているので、居間にはいない。きっと仲良くキレイにしているんだろう「きゃきゃっ」とお風呂場の向こうから声が聞こえるから。
そして、先にレストエリアに入ってもらった姉妹は、興味が尽きないのか、私が入ってきた事にも気付かずに、部屋の中を色々見て周っている。
「あ、あのスミカお姉さまっ、見た事もないものがたくさんあるのですが、これとかこれって、一体何に使うものなのでしょうか?」
「ス、スミカ姉、この白い箱って一体何だいっ?」
「ああ、それはね――――――」
姉妹の質問に説明しようと口を開く。
後々は姉妹にもレストエリアを貸し出すつもりの予定だ。
だから一度は家電関係や、光熱機械とかも説明しなくちゃならないしね。
「これがあれで? カクカクシカジカなんだよ?」
一応簡単にだが説明をしてあげた。
それを聞いた姉妹の反応は、
「あのぉ~『カクカクシカジカ?』では、良く分からないのですが……」
「うんっうんっ!」
『う~ん』
やはり異世界でも話の省略の技法は通じないらしかった。
なら仕方ない。
「これが冷蔵庫っていって上が冷蔵、真ん中が冷凍で一番下が、それとこれはオーブンレンジで、解凍とか、温めたりとか、こっちは洗濯機と乾燥機で、あっちはトイレと――――――」
一応実践も兼ねて使い方を教えて行った。
因みにお風呂場はユーアがまだハラミを洗うので使っていたので教えてない。
後でユーアに一緒に入ってもらって教えてもらうように頼むつもりだ。
私が教えろって?
いやいや、私は一緒に入らないよ。
姉妹の二人が、私を神と崇めてしまうから。
その私とのランク差を目の当りにしてしまったら。きっと。
「で、大体わかったよね? 二人とも」
私はカウンターに座る姉妹に、そう聞いてみる。
目がキョロキョロして、気持ち挙動不審だ。
さすがに一度では覚えきれないんだろう。
私はアイテムボックスから、果実水を出して姉妹の前におく。
ちょっと一息ついてもらおうと。ついでにレーションのケーキも。
「あ、ありがとうございます、スミカお姉さま。あ、あのですね、あれらのマジックアイテムは、一体何処から? い、いいえ、なんでもありません、聞かなかった事にして下さいっ!」
「み、水が出たり、自動で衣服も洗えたり、中は冷たい箱も、み、みんな何も聞かないよ、スミカ姉っ! ワタシ我慢するっ! でも、な、なんなんだろうな、この家はっ!」
簡単に説明したつもりが、逆に混乱させてしまう。
「あ~、二人の言いたい事はよくわかるよ」
なので、そんな姉妹に同意する。
それはそうだろう。
明らかにこの世界では、オーバーテクノロジーの数々だし。
「でも、説明は出来ないかな? 実は私も良く分かってないし。それにこの事も私の秘密って事にしてもらっていい? 信頼できる人以外にはあまり知られたくないから。それとさ――」
「はい、もちろんっ! この事も口外しないと誓いますっ! 私たち姉妹は、スミカお姉さまの不利になる様な事は絶対にいたしませんっ! それと他に何か?」
「うんっうんっ!」
姉妹の疑問には答えて上げられなかったけど、
二人はこの事を黙ってくれると言ってくれたことに嬉しく思った。
そして、ナゴタは私が言葉尻を止めた事に気付いて聞き返してくる。
「ああ、それとさ、ナゴタとゴナタの二人にも同じ家を用意するから」
果実水を口に含んで、少し落ち着いた二人にそう告げた。
「「ぶっふぉっ―――――っっ!!」」
「うわっ! びっくりしたっ!」
それを聞いた二人は、口に含んでいた飲み物を盛大に噴き出した。
それも二人仲良く。
私は咄嗟に、掛からないように透明壁スキルを展開した。
「「ごほっ! ごほっ!」」
「ちょ、ちょっと大丈夫っ? 二人とも? こ、これタオルっ!」
盛大に噴出したと思ったら、咳き込むのもふたり一緒だった。
性格は違うのに、そんなところは双子なんだと変なところで感心した。
『あっ』
よく考えたらそれ以外にも双子がそっくりなものがあった。
『…………くっ』
それは咳き込むごとに揺れている、あの憎き塊だ。
「「ごほっごほっ!」」
ぷるんっぷるんっ!
「「ごほっごほっ!」」
ぷるんっぷるんっ!
「くっ」 じぃ~~~~
「ごほっ、あ、あのスミカお姉さまっ! 同じ家とは一体……」
「ごほっ、ス、スミカ姉っ! もしかして、ワタシたちに?」
「はっ!」
姉妹の二人は涙目になりながら、私の言ったことを聞き返す。
私は姉妹の四つのバスケットボールから、慌てて視線を離す。
「そ、そう、二人にはこれと同じもの用意するから大事に使ってよ。ビワの森でも二つあったでしょ? その一個だよ。まぁ、設置する場所はまだ探してないけど」
「えええっ! な、なんでそこまでっ! さすがにそれはっ!」
「うんっうんっ!」
再度同じことを伝えた姉妹の反応はさっきとあまり変わらなかった。
飲み物こそ今度は噴き出さないが、その目は大きく開かれていた。
「まあ、驚くのも無理はないけど、私は二人の面倒を見るって言ったよね? だから妥協はしないし、ある程度私の事も知って欲しい。それにこの家は防犯にも最適だから、二人にも使ってもらおうと思ってたんだよ。ねっ? だから遠慮しないで使ってくれていいよ。私からのお願いだと思って」
「わ、わかりましたスミカお姉さま。スミカお姉さまが、そこまで私たち姉妹の事を考えて下さっているなら喜んで使わせていただきます。それと、スミカお姉さまの呼び方を変えてもよろしいでしょうか?」
「うんっうん!」
二人は私の説明を聞いて、受け入れてくれたみたいで良かった。
妹のゴナタは、こういった込み入った話の時は「うんっうん」しか言わないのは面白い。きっと聡明な姉のナゴタに任せているんだろう。難しい話や、交渉事は。
「なら良かったよ。うん? 呼び方変えるって何?」
なんか最後の方に「呼び方を変える」って言ってたよね?
「はい、スミカお姉さま。これからは『お姉さま』と私は呼ばせていただきます。尊敬と親愛を込めて。はいっ!」
「ワタシは『お姉ぇ』かな? その方が本当のお姉さんっぽいもんなっ! お姉ぇ! うん、しっくりくるかもっ! あはは」
そう宣言して、二人はお互いの顔を見やり、柔らかい笑顔になる。
『――――』
姉妹の心境に、何の変化があったかわからない。
けど、
「お姉さまっ! うふふっ!」
「お姉ぇ! あははっ!」
私を呼ぶ二人の笑顔には、なんの陰りも見えなかった。
初めて会った時の翳りのようなものは全てなくなったと思った。
『二人とも、本当に良い笑顔になったねっ!』
そんな微笑ましい笑顔で私を見る、姉妹を見てちょっと嬉しくなった。
――
「それじゃ、ちょっと行ってくるよ。ユーア、二人の事はお願いね」
夕方が近づいた頃、レストエリアを留守にする為に、ハラミと遊んでいるユーアに声を掛ける。その脇には姉妹の二人もハラミを撫でて遊んでいる。
「はいっ! スミカお姉ちゃんっ! ボクに任せて下さいっ! ナゴタさんとゴナタさんには、ボクがしっかり教えてあげますから! しゃんぷーとぼでぃーそーぷの」
シュタと手を挙げて元気に答える。
「うん、くれぐれもよろしくね。じゃ、姉妹もユーアにキチンと教わってね」
「はいっ! わかりました、お姉さまっ!」
「うんわかったよっ! お姉ぇ!」
そう言って、私だけレストエリアを出る。
夕飯には、サロマ村で討伐したオークを食べてみたいと思ったからだ。
それで私は「トロノ精肉店」のログマさんのところに行く事にした。
ナゴタとゴナタも解体は出来ると言っていたが、やっぱりプロに解体してもらったオークの肉を食したいとも思った。
美味しいと言われるオークの肉なら尚更だ。
トロールもあるけどそれは今度のお楽しみ。
そして、私が留守中の時間を使って、ユーアには姉妹のお風呂体験のインストラクターをお願いしてきた。きっと私よりもユーアの方が最適だろう。
『そ、そのほうが私もね、な、生で二人のあれを見たら、きっと私は…………』
立ち直れないかも。
私は「ブルルッ」と肩を奮わせて、
トロノ精肉店を目指して歩いて行った。
―
「ただいま~~~~っ!」
みんなが待っているレストエリアに戻ってきて、家の中に声を掛ける。
私はログマさんにオークを解体して貰って、そのお礼に1体置いてきた。
貰い過ぎだって、ちょっと遠慮していたけど、次回は解体料をただにしてもらうって約束してくれた。
それでも多過ぎって言われたけど、大豆工房サリューの件でもお世話になったからって、無理やり置いてきた。ログマさん夫妻とはこれからも長く付き合っていきたいしね。
「って、二人、いや、三人ともどうしたのっ!」
居間のスペースで横たわっている姉妹と「ぶつぶつ」と何か言いながら、手をワキワキしているユーアが目に入った。その虚ろな目は「◎ ◎」こんな風になっていた。
そして姉妹の二人は、熱に浮かされたように、顔が真っ赤で「ハァハァ」と息も乱れている。寝間着の代わりなのか、その姿は薄いネグリジェのようなものを纏っているだけだった。
「ふぅ、ふぅ、あ、ありがとうございました、ユーアさまっ――――」
「はあっ、はあっ、ありがとう、ユーアさまっ――――」
「さまっ!?」
そんな二人はうわ言の様に、そうユーアに向かって言っていた。
それを聞いたユーアと言うと、
「う、ううん、ボ、ボクも、世の中にはこんなおっぱ、じゃなくて柔らかいものがあるって知れて、よ、良かった、です。うん、――――」
未だに手をワキワキさせながらこっちも、夢うつつで答えていた。
『一体、何があったのっ! 私がいない間にっ!?』
しかもユーアを呼ぶ姉妹の名称が、「さま」になっているから更に驚いた。
※
一方その頃、
コムケの街から十数キロ離れた森の中では。
「うまいのじゃっ、うまいのじゃっ!」
わしは土の家の中で魔法で作成した、鋼鉄のような硬度を持つ土の鉄板の上で、この森で採れたての肉を焼いて食べていた。
さっき狩ったばかりのフォレストベアーの肉を。
「やはり新鮮な肉はうまいのぉっ! これで調味料でもあればよかったのじゃが、そこまで贅沢言ったら罰が当たるじゃろうか? これはこれで堪らなくうまいから、よしとするかのぉ」
そしてわしは、未だに血抜きしている大量の残りの肉の塊に目を向ける。
「明日の朝の分も、いやいや、当分肉には困らないのぉ! やはり冒険は楽しいのじゃっ! 冒険者に戻りたいのじゃっ!」
そこには独り焼肉パーティーに舌鼓を打ち、歓喜の声を上げる小さな女の子がいた。
その背格好はユーアよりも小さく、そして色々と真っ直ぐで残念な、
推定ランク胸部『AAA』の、元Aランク冒険者の姿だった。
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