第114話お家設置と仁王立ちの赤い少女
「ユーアちゃん、ご馳走様でしたっ。とっても美味しかったですっ!」
「ユーアちゃん、ワタシも美味しかったよっ! ごちそうさまっ!」
「うんっ!」
「………………」
私が持ってきたオークのお肉を、ユーアが姉妹に振舞っていた。
メルウちゃんのとこの味噌や醤油を使っての絶品料理だった。
特に日本の国の私には、馴染みもあって非常に美味しく頂けた。
それよりも――――
『一体さっきのユーアと姉妹は何だったの?』
今の三人を見てると、特に違和感は感じられない。
だけど私が帰った時の3人は、
ブツブツと何か呟くユーア。
熱に浮かされたように、頬を赤らめて横たわっていた姉妹。
「ユーアちゃんはお料理もお上手ですねっ! 強いだけじゃなく」
「そうだなっ! 味付けも良かったよっ! ワタシ好みだっ!」
「うん、ありがとうございますっ! でも材料も良かったんだよっ!」
『う~ん……』
特に変わった様子はない。
ユーアへの呼び方も普通に戻ってるし。
『まあ、別にいいか。更に仲良くなったんだと思えば』
そうきっと、裸のスキンシップで更に仲が深まり、さっき見たのはある意味、羽目を外した状態だったんだろう。
『お風呂場で私も知らない特殊な能力が発動っ! なんてないしね?』
まあ、別にそんなものがあっても仲が深まればいいかな?
三人を見て、私はそう思った。
ユーアのあの能力に気付かないままに――――
それから私たちは食後にデザートを食べながら、簡単に明日の打ち合わせをして眠りについた。
明日は夕方から冒険者ギルドの予定だ。
※※
そして、翌日の朝。
「よし、夕方まで時間あるから、午前中はナゴタとゴナタの、家の設置場所を探しに行こうか」
レストエリアを収納しながら皆を見渡して声を掛ける。
「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」
『わうっ!』
「はい、お願いします。お姉さま」
「よろしくなっ! お姉ぇっ!」
みんな一様に元気な返事をする。
因みに今は、まだ朝の時間帯だ。
朝は、私とユーアが先にお風呂に入って、その後に姉妹の二人が入った後、みんなで朝食を取った。
私がお風呂と言った時に、姉妹の二人がユーアを見てちょっと顔を赤くしていたのは、きっと気のせいだろう。ユーアも若干ソワソワしていたのも見間違いだろう。
「ねえ? ユーア。私たちの家の裏の林の奥って結構深いの?」
「うん、あそこに小さな山が見えるでしょう? あそこまでは繋がってるよ。それにちょっと行くと広い所もあったよ?」
「ふ~~ん、そうなんだ。魔物…… はさすがにいないか。なら危なくないかな? それに勝手に使っても大丈夫? その広い所がよさそうだったら、そこに決めちゃうかもしれないから」
「うん、危なくはないです。たまにリスやウサギとかの小さい動物はいるけど、道もそんなに険しくないから安全だよ。ボク、木の実とか果物とかよく取りに来てたもん。それと、この奥は誰も見に来ないと思うから大丈夫だと思います」
「そう、なら一度見に行って、それから考えようか? ユーア。ならその広い所まで案内お願いするね」
「はい、わかりました。ハラミあっちに行ってもらえる?」
『わうっ』
ハラミの背に乗ったユーアの後に続いて、林の中を進んで行く。
―
孤児院裏の雑木林の中は、背にユーアを乗せたハラミが進んで行く。
人が通れる多少凸凹しただけの、歩きやすい道になっていた。
林の中は多少薄暗いだけで、陽の光が帯状に頭上から差し込んでくるので、そこまで暗くはなかった。寧ろ森林浴などに最適なんじゃないかと思う程に気持ちのいい場所だった。
踏み鳴らしてある道を、4人と1匹で歩く事十数分。
木々が開けて、地面が露わになっている広い場所に出た。
ここがユーアの言っていたところだろう。
「スミカお姉ちゃん、ここなんだけど、どう?」
「うん、ここなら広さも誰かに見られる心配もないかもね」
周りを見渡して、ユーアを撫でながらそう答える。
秘境。とまではさすがにいかないが、ここなら滅多に人が入ってくることはないだろうと思って。余程の理由が無い限りは。
『まあ、もし誰かが来て変な噂になったら、また設置先を考えればいいし。その時はクレハンにでも聞いてみよう。それともやっぱり土地があった方がいいのかな? 後々は私たち自身の。う~ん、どうしようかな?』
「お姉さま、ちょっといいですか?」
「うん、なに? ナゴタ」
ナゴタの呼ぶ声に、一旦思考を止める。
「あそこの大きな岩なんですが、表面が焦げていませんか? それと、地面にもあちこち窪みが出来てるようですが」
「お姉ぇ、あそこの木の枝も、何かが通り過ぎたのか、ちょっと切れてるように見えるんだけど、結構、獣とかがいるのかな?」
「うん、どれ?…… あ、本当だね」
確かに姉妹の言う箇所には、そういった跡が見られる。
ちょっと黒ずんだ岩と、切断された感じの枝が。
ゴナタが言っていた獣の件は、林の中に入りながら索敵モードにしていたのでその心配はない。生息しているのは、私たちよりも小さな野生の小動物だろう。
「ねえ、ユーア。ここって結構人がきたりするの?」
この中で、一番詳しいだろうユーアに聞いてみる。
「う~ん、ボクも冒険者になってからは、ずっと来てなかったからわからないけど、前は殆ど誰も来ていなかったと思います」
「そっか、そうだよね。う~ん、ここでいいんじゃない? 一先ずは」
ちょっとだけ悩んで、結論を出した。
「そうですね、お姉さまがそうおっしゃるなら私たちに異論はありません」
「うん、うんっ!」
「ならここに設置しちゃおうか? それで何かあったら設置場所を変更しようよ。もし行き場所がなかったら、何処かに土地を借りればいいしね」
姉妹の了承を得られたので、アイテムボックスよりレストエリアを出して設置する。
広場の1/3を占めちゃったけど、日差しもさして、お布団とかを干すのにもいい環境かなと思う。
天気がいい日は、森林浴も日光浴も出来そうだし。
「うん、なかなかいい場所だねここは。ユーアありがとうねっ!」
「えへへっ」
「ユーアちゃんありがとうございますっ!」
「ユーアちゃん、いい所案内してくれてありがとうなっ!」
「うん、ボクもお役に立てて嬉しいよっ!」
よし、これで姉妹たちの拠点は確保出来た。
「それじゃ、せっかく設置したんだから、ナゴタもゴナタも中を見てみたら? って言っても、中身は私とユーアのと殆ど一緒なんだけどね。 あ、言い忘れてたけど食器とか布団とかはないから、それは揃えなきゃいけないよ? 落ち着いたらいいお店紹介してあげるから買いに行くといいよ。ユーアから教えて貰った、ちょっと変わったお店だけど」
「はい、何から何までありがとうございますっ! お姉さまっ!」
「うんっ! ありがとうな、お姉ぇっ!」
「それじゃ、中に――――」
((――――ああああっ! アタシの練習場がっ! ちょっとあなたたちっ! 勝手に人の場所に変なの建てないでよっ! アタシが最初に見付けた場所なんだからねっ!!))
レストエリアに入ろうとすると、そんな怒声が背中から聞こえてきた。
『ん、誰? この赤髪の少女は』
私たちが振り向いた先には、腕を腰に当て、仁王立ちで指を付きつけ、私たちを鋭く睨む、真っ赤な髪の少女だった。
※※※※
一方その頃、
コムケの街から十数キロ離れた森の中では。
「朝もやっぱり新鮮な肉に限るのじゃっ!」
わしは土で作成した家の中から出て、木々の間から差し込む朝の日の光を浴びながら、そう感想を漏らす。
昨夜と同じフォレストベアーの肉の残りを焼いて、それを満足いくまで食べて朝食を終わりにした。
「ううむ、満足じゃっ! さて街に向けてこの森を抜けるとしようかのぉ? それにしても朝からちょっと食い過ぎだったのじゃ…………」
「ポンポン」とお腹を叩いてみる。
「ううむっ?」
装備の上からでもわかるくらいに、お腹はポッコリと膨れ上がっていた。
さすがに朝から食べ過ぎたと、少し反省する。
もちろん、お腹に向ける視線の先にはお腹の膨らみ以外は見えない。
女性特有の膨らみなんてものは、そこにはほぼ皆無だった。
さすが『AAA』といった所だろうか。
「それにしても、この魔法の防具とやらも凄いのじゃ。寒さも暑さもあまり感じなかったのじゃ。いや、これは防具なのか? 防御力はほぼないと確か言っていたのう? まあわしは攻防で言えば「防」の魔法の方が得意じゃから、防御力なんてなくても心配はしないのじゃが」
そう独り呟いて防具を眺めている。
「しかしこんなピッチリとした薄い布だけで、寒さや暑さを軽くしてくれて、しかもこの布自体も頑丈だなんて大したものじゃっ! これを売ってくれた冒険者風な若者には感謝じゃっ! ただいかんせん、胸の上に名前を入れるのはなぜか好かんけど仕方ないのじゃ。しかもこれが「でふぉ」とか言ってたしのぉ」
そう呟く平らな胸の所には名前が書いてあった。
いや、書かなくてはいけないらしい。
それじゃないと、防具の効果が出ないとか、意味がないとかカントカ。
「まあ、いいのじゃ。それじゃ森を抜ける為に適当に歩くとしようかのぉ」
頭上の木々を見渡し、昨日作成した土の家と土の防壁を元に戻す。
まさに土に還ったように、なんの違和感も無くなった。
「ううむっ、あちらに太陽が見えるから、きっとあっちなのじゃっ!」
そう一人叫び、ようようと森の中を進んでいく。
―
そう雑に歩みを進めていくこの少女?いや幼女の格好は、この世界にはない見た目「旧スクール水着」風の防具を装着していた。
そしてその胸には「ナジメ」と書いてあった。
旧スク水風防具に、腰にはポーチ。足元には膝下まである皮のブーツ。
クリっとした大きな目と、深緑のボブヘアーと小さな口元から除く八重歯。
このいでたちのこの幼女は、
今から向かうであろう、澄香たちの住むコムケ街の兼任の領主だった。
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