第10話冒険者を名乗る野盗とは




 そんな突拍子もない、私たちを襲ってきた男の言葉を――――


「嘘ね」


 私はバッサリと切り捨てた。

 証拠も無いのに私は信用するわけがなかった。


 そして視覚化して最大5メートルの透明壁を、コムケ街の冒険者(仮)に向けて振り下ろす。


「ちょっとまて! いや、待って下さい!! 証拠をみせっ! 見せますからぁっ胸のポケットを――!」


 視覚化した透明壁はコムケ街の冒険者(仮)の眼前を掠るように通り過ぎ、目前の地面を叩きつけた。



 どご――ん!!


「がはぁっ!!」


 コムケ街の冒険者は、透明壁を叩きつけた余波で、後方に吹っ飛ぶ。

 そしてそのまま木に激突して、ボトリとズリ落ちた。



「ぐふっ――」 ガクリ


「ス、スミカお姉ちゃん…… ボク見てきます……」


 トテテ――


「へっ?」


 ここから離れるわ際の、ユーアの視線が恐かった。


 え、私が悪いの?


 だって信じられないんだもんコイツの言う事。証拠もないし。

 それでも直撃しないように避けたんだよ?

 その結果なんだから大目に見て欲しい。


 まぁー、透明壁を即座に解除すればそれで良かったんだけど。



 ユーアは気を失っているコムケ街の冒険者に近づいて、恐る恐る胸ポケットをまさぐっている。そして一枚の薄い石板らしきものを見つけプルプルと震えている。



「お、お、お、――――」


「………………ユーア?」


 そういえば「どご――ん」「ぐはぁっ」する前に、

 ポケットがどうのこうの言っていたような気がする――――



「ん、どうしたのユーア。何かいいもの見つけたの?」


 後ろから声を掛けてみる。


「お、お、お、お姉ちゃん――――……」


「ん?」


 あれ? お姉ちゃんの前にスミカが抜けてるよ?



「――――この人本物の冒険者の人だよぉぉぉっっ――っ!!」


「え?」


 そう絶叫を上げ、振り向いたユーアは涙目だった。

 そしてその手には冒険者証を持っていた。






 とりあえず、またリカバリーポーションをコムケ街の冒険者に使用する。


『…………………』


 これ気付け薬じゃないんだけどなぁ?

 なんて、ちょっとだけ思いながら。


 でも、あわあわしているユーアにお願いされれば仕方ない。


 しかも、あわあわしているユーアも、また可愛かった。

 よっぽど、この男の正体に驚いたのだろう。



「ううっ、一体何が起きやがった―――」


 コムケ街の冒険者が、そう言って即座に目を覚ました。


 この男が持っていた冒険者証は、この世界の、これ以上のない身分を証明するものなので、この男の身分はこれで信用できるそうだ。


 現代で言う、戸籍や住民票みたいなものだろう。


 冒険者と名乗った男は、混乱したようにキョロキョロと辺りを見渡している。


「っ!?」


 そして、私を見付け目を見開き、足をバタバタと動かし、後ろに逃げようとする。


「うわァっ――!!」

 

 が、背中は木の幹なので、当然逃げることは出来なかったけど。



「ごめんなさいっ! わ、悪気はなかったんですっ! 許してください~っ!」


 それに見かねたユーアが、男の前まで行き、両手を合わせ頭を下げる。

 あまりに必死過ぎて、謝罪というよりかは、お祈り見たくなってるけど。



「うえっ!? あ、ああ―― 分かってもらえりゃいいんだ……」


 状況を把握したのか、しどろもどろに答える。


「良かったぁ、それとルーギルさん、お体は大丈夫なんですかっ?」

「あ、あぁ、そういえばどこも痛みはねえな、嬢ちゃんたちが治療してくれたのか?」

「うん、スミカお姉ちゃんと」

「そ、そうか、ありがとよ、えーとー…」

「ボクはユーアって言います、あとスミカお姉ちゃんですっ!」


 少し落ち着いたユーアは、私も紹介してくれる。



「お、おう、ユーアって言うのか、ありがとな、それとスミカ…… 嬢もな」


 コムケ街の冒険者を名乗る男はそう言って私を見る。

 だがその目は若干泳いでいた。まだ動転してるのかな?



「わ、悪いが、この拘束ほどいちゃくれねえか? もう襲うことはしねぇし、最初から説明する。それと他の奴らも起こしちゃくれねぇか? まだ信用できねぇならば拘束したままでもいいからよ」


「う、うん、わかりました」

「ユーア、私がやるから、他の人たち起こしてもらえる?」


 ユーアを止めて私と交換する。

 解いた途端にユーアが何かされたら危ないし。


 その際、ユーアにリカバリーポーションを渡す。


 私はユーアの代わりに、男たちの拘束を解いてやる。

 そしてコムケ街の冒険者を名乗る男に聞いてみる。



「なんで、は私たちを襲ったの?」


 後ろでは、ユーアがリカバリーポーションを使って男たちを治療していく。


 (……こんな、すごい回復薬みたことないよ……)


 そんな呟きが聞こえる。



「『ルーギル』だ」

「は?」

「『ルーギル』だ! 最初に目が覚めた時にそう名乗っただろう……」

「そうだっけ?」

「そうだ、お前の相方のユーアもそう呼んでただろうが……」


 ジト目でこちらを見てくる。

 が、男のジト目は全く可愛くない。


「はぁ、まあいい、これから最初から説明するから聞いてくれ」


 そう言ってコムケ街のDランク冒険者『ルーギル』は口を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る