第10話冒険者を名乗る野盗とは
そんな突拍子もない、私たちを襲ってきた男の言葉を――――
「嘘ね」
私はバッサリと切り捨てた。
証拠も無いのに私は信用するわけがなかった。
そして視覚化して最大5メートルの透明壁を、コムケ街の冒険者(仮)に向けて振り下ろす。
「ちょっとまて! いや、待って下さい!! 証拠をみせっ! 見せますからぁっ胸のポケットを――!」
視覚化した透明壁はコムケ街の冒険者(仮)の眼前を掠るように通り過ぎ、目前の地面を叩きつけた。
どご――ん!!
「がはぁっ!!」
コムケ街の冒険者は、透明壁を叩きつけた余波で、後方に吹っ飛ぶ。
そしてそのまま木に激突して、ボトリとズリ落ちた。
「ぐふっ――」 ガクリ
「ス、スミカお姉ちゃん…… ボク見てきます……」
トテテ――
「へっ?」
ここから離れるわ際の、ユーアの視線が恐かった。
え、私が悪いの?
だって信じられないんだもんコイツの言う事。証拠もないし。
それでも直撃しないように避けたんだよ?
その結果なんだから大目に見て欲しい。
まぁー、透明壁を即座に解除すればそれで良かったんだけど。
ユーアは気を失っているコムケ街の冒険者に近づいて、恐る恐る胸ポケットをまさぐっている。そして一枚の薄い石板らしきものを見つけプルプルと震えている。
「お、お、お、――――」
「………………ユーア?」
そういえば「どご――ん」「ぐはぁっ」する前に、
ポケットがどうのこうの言っていたような気がする――――
「ん、どうしたのユーア。何かいいもの見つけたの?」
後ろから声を掛けてみる。
「お、お、お、お姉ちゃん――――……」
「ん?」
あれ? お姉ちゃんの前にスミカが抜けてるよ?
「――――この人本物の冒険者の人だよぉぉぉっっ――っ!!」
「え?」
そう絶叫を上げ、振り向いたユーアは涙目だった。
そしてその手には冒険者証を持っていた。
※
とりあえず、またリカバリーポーションをコムケ街の冒険者に使用する。
『…………………』
これ気付け薬じゃないんだけどなぁ?
なんて、ちょっとだけ思いながら。
でも、あわあわしているユーアにお願いされれば仕方ない。
しかも、あわあわしているユーアも、また可愛かった。
よっぽど、この男の正体に驚いたのだろう。
「ううっ、一体何が起きやがった―――」
コムケ街の冒険者が、そう言って即座に目を覚ました。
この男が持っていた冒険者証は、この世界の、これ以上のない身分を証明するものなので、この男の身分はこれで信用できるそうだ。
現代で言う、戸籍や住民票みたいなものだろう。
冒険者と名乗った男は、混乱したようにキョロキョロと辺りを見渡している。
「っ!?」
そして、私を見付け目を見開き、足をバタバタと動かし、後ろに逃げようとする。
「うわァっ――!!」
が、背中は木の幹なので、当然逃げることは出来なかったけど。
「ごめんなさいっ! わ、悪気はなかったんですっ! 許してください~っ!」
それに見かねたユーアが、男の前まで行き、両手を合わせ頭を下げる。
あまりに必死過ぎて、謝罪というよりかは、お祈り見たくなってるけど。
「うえっ!? あ、ああ―― 分かってもらえりゃいいんだ……」
状況を把握したのか、しどろもどろに答える。
「良かったぁ、それとルーギルさん、お体は大丈夫なんですかっ?」
「あ、あぁ、そういえばどこも痛みはねえな、嬢ちゃんたちが治療してくれたのか?」
「うん、スミカお姉ちゃんと」
「そ、そうか、ありがとよ、えーとー…」
「ボクはユーアって言います、あとスミカお姉ちゃんですっ!」
少し落ち着いたユーアは、私も紹介してくれる。
「お、おう、ユーアって言うのか、ありがとな、それとスミカ…… 嬢もな」
コムケ街の冒険者を名乗る男はそう言って私を見る。
だがその目は若干泳いでいた。まだ動転してるのかな?
「わ、悪いが、この拘束ほどいちゃくれねえか? もう襲うことはしねぇし、最初から説明する。それと他の奴らも起こしちゃくれねぇか? まだ信用できねぇならば拘束したままでもいいからよ」
「う、うん、わかりました」
「ユーア、私がやるから、他の人たち起こしてもらえる?」
ユーアを止めて私と交換する。
解いた途端にユーアが何かされたら危ないし。
その際、ユーアにリカバリーポーションを渡す。
私はユーアの代わりに、男たちの拘束を解いてやる。
そしてコムケ街の冒険者を名乗る男に聞いてみる。
「なんで、
後ろでは、ユーアがリカバリーポーションを使って男たちを治療していく。
(……こんな、すごい回復薬みたことないよ……)
そんな呟きが聞こえる。
「『ルーギル』だ」
「は?」
「『ルーギル』だ! 最初に目が覚めた時にそう名乗っただろう……」
「そうだっけ?」
「そうだ、お前の相方のユーアもそう呼んでただろうが……」
ジト目でこちらを見てくる。
が、男のジト目は全く可愛くない。
「はぁ、まあいい、これから最初から説明するから聞いてくれ」
そう言ってコムケ街のDランク冒険者『ルーギル』は口を開いた。
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