第9話ユーアのお願い




 私たちを襲ってきた男達は、今のところ再度襲ってくる気配はない。



 あちこちに倒れている男達は、腕や足が変な方向に曲がっていたり、鼻が潰れて顔中血まみれだったり、耳から血が流れてたりする者など死屍累々の様相だ。


 それに全員気を失っている。


 その中でも一際酷いのは、リーダー格の最後の男だ。

 全身の打撲に加えて、至るところに足跡まで付いている。


 打撲やケガは分かるけどなんで足跡付いてんの?


「スミカお姉ちゃん…… 足跡は――――」

「えっ?」


 ユーアがなんか呆れた目で私を見ている。


 あれ、声に出てた?


 分かってるよ、私が腹いせにやったんだよね。



「スミカお姉ちゃん、ボ、ボク、この人たち手当していい?」


「…………えっ! だってこいつらユーアの身ぐるみ剥いで、魔物のエサにするつもりだったんだよ? 私なんか売られそうになったし」


「だってこの人たちこのままじゃ、魔物に食べられちゃうよ……」


 ユーアは心配そうに倒れている男たちを見渡す。


「ユーアはそれでいいの? コイツらは私たちを襲ってきたんだよ。本当だったら、私たちが魔物のエサになっててもおかしくなかった。だからこのままでいいんじゃないの? そこから助かるか、エサになるかは本人次第だと思うし、自業自得だとも思うし」


「じごうじとく? よくわからないけどお願いしますっ!」


「ううん、だってこんな奴らを助ける義理なんてないよ。ほっといて街に向かいましょ。まだ遠いんでしょう?」


「お、お願いしますっ! スミカお姉ちゃんっ!!」

「………………」


 なんかムキになってる?

 っていうか、根は意外と頑固な子なのかな?


 これじゃお互いの主張同士がぶつかって話し合いにならない。


 正直あまり気が進まない。



 襲ってきた人たちを助けて、また襲ってきたらもう情けはかけられない。


 次は確実に五体満足って訳にはいかないだろう。

 そうなったら絶対に手加減は出来ない。


 それだったら最初から助けなければと思ってしまう。


 だけど――――


「……わかったよユーア。ただし、コイツらをきちんと縛って動けなくしてからだからね? また襲ってきても嫌だし」 


 私は優しくユーアの頭を撫でながら、ユーアの意見に賛同した。

 こういった所もユーアの性格なのだろう。

 それを私の考えだけで無下には出来ない。


 なら私は何か起きた時にユーアを守るだけだ。


 それだけの力を持っているんだから。

 私にはそれが出来る。



「ありがとう! スミカお姉ちゃんっ!」 大好きっ! 

「こんな事で"大好き"なんて言われたら、ユーアの事これから甘やかしちゃうよ?」

「えっ!? ボク、そんな事言ってないよ?」

「へっ!?」

「えっ!?」


 あれっ?


 どうやら私の幻聴だったらしい。

 セリフがカギ括弧の外だったし。





 ユーアの手持ちのロープで足りないものは、木の蔦なので両手両足を拘束していく。


 次に、折れている箇所に添木したり止血したりして、一通り処置を完了させる。


 ユーアはさすが冒険者らしく、素人の私が見ても非常に手際よく処置をしていった。



 で、私は何してたってっ?

 もちろん私も手伝ったよ?


 ロープ切ったり、蔦探したり、ユーアの汗を拭いてあげたり。

 暑そうだから大きな葉っぱで仰いであげたり。

 それと男たちをスキルで木陰まで運んだりして。


 そんな男たちは無抵抗で治療されていった。

 と、いうか目を覚まさなかった。

 結構深刻なダメージだったんだろう。


 今更誰がやったの? なんて言わないよ。

 またユーアに白い目で見られちゃうし。


 でも治療して拘束を解いても動けない男たちは、

 このまま助からないんじゃ…………


 それじゃ、ユーアの行動も想いも無駄になってしまう――



『あ、そういえばっ!――』



 私は、ポンっと手を叩く。

 そして早速アイテムボックスの中を確認してみる。



「おっ! やっぱり、あったっ!」


――――


 リカバリーポーション【S】

 対象のダメージの回復。効果(小)


――――


 私はそれを、アイテムボックスから出して真っ先にリーダー格の男を見付けて使用する。この世界での効果がわからないので、一番ムカついたコイツで実験してやろうと思って。


 途端、ガバっとリーダー格の男は目を覚ました。


「はっ!」


「えっ?」

「うわっ!?」


 すぐさま復活した様子に驚く私とユーア。


『えっ!? か、回復早すぎないっ? この世界の人間には効果が高過ぎ?』


 素早く身構え臨戦態勢をとり、ユーアには即座に透明壁を張る。

 また襲われないとも限らないからだ。


 だけど……


「だ、騙してすまなかったっ! どうか許してくれ嬢ちゃんたちぃ!」


「はぁ?」

「へっ!?」


 その男は地面に頭を付けて唐突に謝罪してきた。


 更に続けて――


「実は、オ、オレはコムケ街のDランク冒険者の『ルーギル』という者だッ! どうかオレの話を聞いてくれッ!!」


「はぁっ!?」

「ええっ!?」


 どうゆう事なのっ!?


 私とユーアはお互いの顔を見合わせ驚きの声を上げた。

 野盗が冒険者って?

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