第8話レベルアップと無双少女




「こんのォ―― クソガキがァ――――ッ!!!」



 最後の男は、余程私の挑発が頭にきたのだろう。

 殺気立った表情で歯を剥き出し武器を振り上げ突進してくる。


「はぁ―」


 そんな男を見ながら、呆れるように短くため息をついてしまう。

 簡単に挑発に引っ掛かる間抜けな男に。


 いくら私みたいな小娘に馬鹿にされたからといって、生死がかかる戦場で正気を無くしてどう戦えるというのだろう。


 沸騰した頭で見えるのは怒りを向ける相手だけ。

 それ以外はほとんど何も映らないし、考えられないはず。


 そう仕向けたにしても、余りにも愚鈍な行動だ。



 そして怒りの形相で突進してくるその男は――――


「おわッ!?」


 その足元を『ガッ』と何かに躓いたように前のめりに上体を崩す。


「だから簡単に引っ掛かる」


 私は男の足元にブービートラップのように、透明壁を展開していた。


「キレたら視野や思考が狭まるからね」


 まあそれは冷静であろうがなかろうが、関係なく引っ掛かるに決まっているけど。ただもう少し冷静であったならば、私の視線に気づいても良かったはずだ。



 何故なら――



 私の視線は男の足元に向いていたのだから。



 勢いよく倒れ込もうとする男に更に透明壁スキルを展開する。


 ガンッ!!


「がはッッ!!」


 そのスキルは男の真下、倒れ込もうとその突き出した顎を強烈に捉える。

 そして、その威力に男の体は真上に向かって宙を舞う。 


 男は空中にカチ上げながら、その口から唾液やら砕けた歯やら血飛沫やらを撒き散らせながら5メートル程垂直に体が飛んでいく。



「まだまだこんなんじゃ許さないっ!!」


 タンッ


 透明壁足場にして未だ上昇する男を追いかける。



 そして――


「これは私の分っ!!」


 ガアァンッ!


「ぐはぁッ!!」


 男は更に下からの強烈な一撃で、更に5メートル程までにカチ上げられる。



「そしてこれは――――っ!」


 タンッ


 更に追従し、空中に浮かぶ男の両足をガシッと掴む。



「――――私のユーアを怖がらせた分だぁっ!!」



 ドッゴォォォ――――ンッッ!!!!



「ご、はぁッッ!!」



 そのまま男を容赦なく、10メートル下の地面に叩きつけた。





―――――



【透明壁LV.2】


『任意の場所(2箇所)に設置&操作可能。半径5メートルの範囲』

『任意の大きさ(0.1Mー5Mに)に縮小可能』

『着色可』(視覚化)


 実は最後の男を除く手下の戦いでスキルのレベルが上がっていた。

 そのおかげでレベルが上がったのは嬉しい誤算だった。


 これでかなり融通が利くようになった。

 まず2箇所に設置できるのは非常に優秀。


 なんたって1個はユーアの守りに使え、私は攻撃に専念できる。

 ソロでも、更に1個はフリーに使える。


 攻撃にも防御にもトラップにも。

 本当にチートな装備だ。




―――――




 タンッ


「ふうっ」


 地面に降り立ち一息吐き出す。

 そして地面に叩きつけた男に視線を移す。


「………………」


 地面に叩きつけられたリーダー格の男はぴくりとも動かない。

 ただ息はあるようで胸が上下している。


 それでも私は攻撃を止めるつもりはない。


 私のユーアをあんな目に合わせたのだ。

 あんな小さい少女に、命を捨てるほどの覚悟をさせたのだ。


 だから私はまだ攻撃の手を緩めない。


「そしてこれは、私のユーアをびっくりさせた分っ!!」

「更にこれは、私のユーアを襲おうとした分っ!!」

「続いてこれは、私のユーアを変な目で見た分っ!!」

「ついでにこれは、私の胸がちいさーの――――!!」



 横たわる男をガシガシと蹴り続ける。


 男の意識がないのをいい事に、あらぬ濡れ衣を着せていく――



「ふぅ~ いい仕事したぁっ!」


 ピクピクと動くリーダー格の男を見下ろしながら額の汗を拭うが、防具の能力のお陰で汗は出ていない。気分の問題だ。


 私はアイテムボックスから、ドリンクタイプのレーション(バナナ味)を出して、それを一気に飲み干す。


 やっぱり労働の後の一杯は最高だね。



 それを見て、トテテとユーアが私に近づいてくる。


 リーダー格の男の意識がないのを確認したので透明壁は解いてある。

 私の元に来たユーアには、マンゴー味を渡してあげる。


「はい、ユーアにも」


「ス、スミカお姉ちゃんありがとう。またボクを助けてくれたんだね……」


 ユーアは安心したのか、目に涙を貯めて話しかけてくる。


「ユーアこそ、私を逃がそうとしてくれたでしょう? おあいこだよ」


 ユーアの頭を撫でて答える。


「それでね、スミカお姉ちゃん、あのね、ボク聞きたい事があるの…………」

「う、うん、何ユーア?」


 そうだよね、今までの私の『異常』を見ても何も聞いてこなかったもんね。


 ただ今回は流石に度が過ぎたと思う。


 でもユーアには知って貰った方がこれからも都合がいい。

 それにユーアにはなるべく隠したくないから。



 私は覚悟を決めて、真剣な眼差しのユーアの目を見る。


『………………だけど』


 ただ全てを話すにはまだ怖過ぎる。

 ユーアにどう思われるかが私は怖い。

 奇異な目で見られたくないし嫌われたくない。



 そんなユーアは、俯きがちになって口を開いた。


 ドキドキ


「あのね、スミカお姉ちゃん、ボクはスミカお姉ちゃんの物なの?」

「へっ?」


 私は思わずガクっとずっこける。

 アニメだったらメガネがズリ下がってるところだ。


 まあ、メガネしてないけど。


 えっ!?

 でもこのタイミングでそれなの?


「あっ………………」



 そういえば、気絶している男を、スタンピングしている時に連呼してたっけ。

「私のユーアを~」とかなんとか。


 更に続けて、ユーアはその小さい口を開く。

 

 そして出てきた言葉は――


「あと、スミカお姉ちゃんのお胸はこれからだよっ! ボクはそう思うんだっ! だ、だから誰かのせいにしないでくださいねっ!」


「へっ!?」


 それも聞かれていたァ――――っ!!


 ユ、ユーアそんな目で見ないで! 気の毒そうな目で見ないで!! 残念な子を見るような目でみないで!!! これアバターだから! 本物じゃないよっ? 現実の私は『ボンッキュッボンッ(死後)』だよっ!ボンッキュッボンッっ! 大事なことだから二回言ったよっ!


 そんなユーアに今は説明できない自分に悲しくなった。

 そして私は自分に嘘をついた。


『ボンッキュッ、ボンッ…………』


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