第452話意外な相棒と激おこな妹




「おはよ―、今日もご飯持って来たよ~っ!」


『ケロロッ!』『ケロロッ!』『ケロロッ!』

『ケロロッ!』『ケロロッ!』『ケロロッ!』


 今はまだ一般的には早朝と呼ばれる時間。


 遠くに見える西の空には、黒と白の境界線がぼやけて見える。

 もう数十分で夜が明ける頃だろう。


 そんな中、私は孤児院の敷地内にあるキューちゃんたちの住む池にやって来た。

 昨日イナたちと街を回った時に購入した、魚の干物をあげるために。 



「たくさんあるから慌てないでね。順番に上げるからね~」


『ケロロ~ッ!』


 池からぴょんと飛び上がり、私の周りに集まって来るキューちゃんたち。

 気のせいか魚を見たら、頭の花びらが広がったように見えた。

 もしかして喜んでいるのかな?



「お、最初は桃ちゃんなんだね?」


『ケロロ?』


 一番最初に寄って来て、手を差し出したのは桃ちゃんだった。

 因みにこの色のキューちゃんは、私が初めて会った色だったりする。

 そしてここのリーダーなのか、他のキューちゃんは大人しく待っている。



「よく噛んで食べるんだよ? はい」


 ハシ


『ゴックン』


「ああ、やっぱり丸飲みするんだね。そもそも歯がないからなぁ。うふふ」


『ケロ?』


 綿毛のような前足で受け取り、そのまま飲み込む桃色キューちゃん。

 美味しそうに目を細めて私を見上げている。


「ああ~」


 癒される~。


 やっぱりキューちゃんは可愛いなぁ。

 最近忙しかったから、見てるだけでも最高の癒しになるよ。 



「うん、やっぱり連れてきて正解だったね。どれ、他の子にも上げよう」


 両前足を上げて、催促しているキューちゃんたちに干物を配っていく。

 受け取るとすぐに口に運び、美味しそうに喉を鳴らす。



「あ~、こんなキューちゃんたちの食べ方見てたら、昔買ってもらったカエルに似た貯金箱を思い出しちゃったな~、あれまだ売ってるのかな~」


 手で受け取り、口を開けて食べる動作を見てパックン貯金箱をみたいだなと思った。


 あの貯金箱はカエルに似た形で、お金をカエルの手に乗せて押し込むと、内部のバネが動いて、手が戻ると同時に口が開いてお金を丸飲みしてたっけ。


 ん? あれ? 元はカエルじゃなくて、パック〇ンだっけ?

 まぁ、可愛いからどっちでもいいや。



「それじゃ、私は行くね? 今日はキューちゃんたちの友達を故郷に返しに行かないとだから。そのあとでお仕事もあるんだよね。暫くみんなに会えないけど、ご飯は子供たちに頼んでおくから仲良くしてね?」


『ケロロ♪』

『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』


 一番先頭にいる桃色キューちゃんを撫でて、みんなにもお別れを伝える。

 私はこれからウトヤの森経由で、シクロ湿原とノトリの街に行く予定だ。



『ケロロッ!』


 ぴょん


「っと、どうしたの? 桃ちゃん?」


 一番お気に入りの、桃色キューちゃんが私目掛けて跳ねてくる。

 そっと両手でキャッチし、どうしたのかと聞いてみる。


『ケロロ』


「え? ご飯まだ欲しいの? 確かあんまり食べないって聞いてたけど」


 ウトヤの森で会ったメヤという少女の話だと、キュートードと言う魔物は全体的に小食らしく、その代わり光合成をして栄養を補充してるって聞いていた。


『ケロ?』

 

「ん? 違うの?」


 愛くるしく首を傾げる様子を見て違ったと思った。


「あ、もしかして故郷を見たいの? 私と一緒に行きたい?」


 目線の高さまで持ち上げて聞いてみる。

 ウルウルと潤んだ大きな瞳が可愛い。


『ケロロ?』


「なら一緒に行こうかっ! これからみんなに会わせてあげるよっ! 長旅になるけど私が守ってあげるからねっ!」


『ケロ?』


 桃ちゃんが頷くのを見て、お願いを叶えてあげようと思った。

 ここに来て数日だけど、やっぱり寂しかったんだと思う。


 私だっていきなり知らない土地に来たら、心細いし、故郷を懐かしむ。

 それは魔物だろうと人だろうと一緒。の筈だ。



「よし、それじゃ頭にくっついててね? その方が周りに従魔の首輪が見えるし、みんなも驚かないと思うから。それと危なくなったら装備を広げて守ってあげるからね」


 ひょい

 ぴと


「お?」

『ケ、ケロロ?』


 桃ちゃんを頭の上に乗せてみる。ちょっとだけ重い。

 どんな原理か知らないけど、吸盤が髪にくっついて一応安定はしている。


「うんっ!」


 これなら歩く分には落ちなさそうだ。

 いざという時は『変態』の能力でフードにしてその中にいてもらえばいいし。



「スミカお姉ちゃ――――んっ!」


 頭の上の桃ちゃんを撫でていると、ユーアが孤児院から出て来た。


「おはよ~、ユーア。それじゃ私はもう出発するね」

「え? だって、そのキューちゃんどうするの?」


 不思議そうに私の頭の上を見ている。


「ああ、連れて行く事にしたんだ。行きたいみたいだから」

「え?」

「やっぱり故郷が懐かしくなっちゃったみたいなんだよ。ホームシックってやつ?」

「え? そうなの? 魔物が?」

「そう。だから桃ちゃんだけ連れて行くね? 他の子の世話はみんなに頼んで置いて」

「う、うん」


 目を丸くするユーアを撫でながら、残りの干物を渡す。


「あ、あと、私がいない間はイナたちの事もよろしくね。昨日、ロアジムにも伝えておいたから、何かあったら頼るといいよ。商業ギルドにも行くと思うけど、その時はナジメに行って貰って? あそこは女郎蜘蛛が住み着いているから、ユーアみたいな美少女は行っちゃダメだよ? 巣に連れてかれてパクっと食べられちゃうから」


「う、うん、あそこに蜘蛛いるの?」


「いるよ? マスメアって言う女性のギルド長が。その人は蝶の私の天敵だから、あまり近寄らないでね? それとお小遣いも置いていくね? ユーアの好きなの買っていいから」


「は、はい、ありがとうです」


「あと、何かあった場合に回復薬一式と、閃光手榴弾、ハンドグレネード【リモート式】、インスタント・Bフィールドも渡しておくね? え~と、他にいいのあったかな――――」


 アイテム欄を呼び出してめぼしいものを探す。


「う、うん。でもスミカお姉ちゃん、もう――――」

「ちょっと待ってて、え~と」


 アイテムボックスには目ぼしいのがなかったので、装備内のストレージボックスを覗く。

  

『ん~、少し増えてはいるけど、後は練習が必要なものばかりだなぁ。ならアイテムボックスのこれだったらいいかな? 元々ユーア専用みたいなものだし』


 メニューを閉じて、待っているユーアに二つの武器を渡す。


「はい、それじゃこれを渡しておくね? これは『フローズンアロー』と『デトネーションアロー』って言って、ユーアのハンドボウガン用の武器だから」


「え? え?」


「フローズンアローは相手を凍らせる矢ね。ただ曲げることが出来ないから気を付けてね。それと持続時間があって、大体1秒から5秒。それは相手にもよるから――――」


「ね、ねぇ、スミカお姉ちゃん――――」


「で、こっちのデトネーションアローは、弾速は遅いけど当たった対象を爆発できるから。威力としてはユーアぐらいの岩だったら粉々になるよ。それと注意事項として、チャージ時間が――――」


「ス、スミカお姉ちゃんっ!」


「えっ!? な、なに? まだ説明の途中だよ。もしかしてわからないとこあった?」


 渡したアイテムを両腕一杯に抱えながら、大きな声で私を呼ぶユーア。

 気のせいか、頬っぺたが膨らんでいるような……


 もしかして…………………… 怒ってる?



「こんなにいらないですっ! だってボクも戦えるし、ハラミもみんなもいるし、それに危険な事なんてないもんっ! あってもみんなで頑張りますっ!」 


 頬っぺたが限界まで膨らんだ直後、それが爆発するように怒り出すユーア。


「う」


 またやっちゃったよ……


 ユーアもイナみたいに子供扱いされるのを嫌うんだっけ。まぁ、実際子供だけど。

 ただイナと違うのは戦いに関する事だけで、それ以外では逆に喜んでいる。


 ユーアが戦えるのは、ナルハ村の件でもわかっているけど、それとこれとは話が別。

 妹がいくら強くなっても、心配するのは姉の常。


 それをわかって欲しい……。

 だから――――



「あ、あのさ、もしかしてドラゴンが攻めてくるかもしれないよっ! あ、あと、魔物がお腹を空かして、街になだれ込むかも? それか胡散臭い謎の組織があって、みんなを狙って――――」


「ねぇね、どうしたのじゃ? 頭にキュートードを乗せて」


「え?」


「お姉さま、今から依頼に行かれるんですか? お気を付けくださいね」

「ワタシたちは今日もまた訓練に行くんだっ!」


「あ、ナゴタとゴナタ」


「スミ姉…… また変な事してるわね? いくら無害だからって頭に魔物を乗せてさ。そんな人をリーダーにしてるアタシたちの事も考えてよね? 何言われるかわからないわよ」


「ラブナ……」


 激おこのユーアを前にわたわた言い訳していると、起床時間なのか、みんなも輪に加わる。


「お、おはよう。そう、これから依頼に行ってくるんだ。だから後の事は任せたからね。キューちゃんは行きたいって言うから連れて行くから。それじゃ行ってくるよ」


 頬っぺがパンパンのままのユーアを見ないようにして、クルリと街に向けて歩き出す。

 まだ何か言いたそうだけど、もう怒られたくない。



「「「いってらっしゃーいっ!」」」 

「スミカお姉ちゃん、頑張ってねっ!」


 こうしてみんなから見送りされて、私はルーギルの依頼に向かった。

 ユーアも最後には機嫌直してくれて良かったよ。




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