第451話スミカの普通とマヤメと組織と




「どうしたの? 二人とも」


 来る時とは違って、どこか上の空のイナとラボに声を掛ける。

 どこか呆けた顔で、私の後を付いてきているからだ。


 そんな私たちは朝一番に、ニスマジのお店『黒蝶姉妹商店』に行った後で、忘れかけていた冒険者ギルドに寄ったその道中だ。


 前者はイナとラボの日用品と衣類を購入する為に。

 後者はナルハ村での依頼の報告にと寄ったものだ。



「うん、なんか驚きを通り越して緊張しちゃうよ…… スミカ姉がこんなにこの街で有名人だったなんてさ。こんな凄い人と一緒に歩いてていいのかなってさ」

 

「そうだな、スミカさんの凄さはわかってはいたが、まさか店の従業員がスミカさんたちの格好をしていたのは驚いた……」


 二人顔を見合わせて、しみじみと話す。


「あ、ああ、あれは何とかして欲しいよね? ガチムキの男3人が女装なんかで宣伝したら、Bシスターズの評判が下がっちゃうし、私たちも恥ずかしいから」


 あの店の惨状を思い出して顔をしかめる。

 たった数日行ってなかっただけで、アイツらがパワーアップしていたからだ。


 店主のニスマジは幸いな事に留守だった。

 けど、3人の看板男どもが私たちのコスプレをしていた。


 それはいい。

 いや、良くはないけど、前にも見たからある程度周知の事だった。


 けれど、数日振りに見たガチムキ看板男どもは、どこで見聞きしたのか知らないけど、シスターズのキャンプで着ていた『水着姿』で現れた。


 ユーアを真似ての花柄のビキニタイプの一人が店頭に。

 ラブナが着ていた白と赤のモザイク柄のワンショルダータイプが案内に。

 最後はナジメが着ていた三角タイプの青緑色のストライプ柄の男が会計に。


 そんな3人が満遍なく店に配置しており、何処を見ても気持ち悪かった。

 しかも新商品なのか、それぞれが羽の生えたリュックを背負っていた。


 イナとラボはそのリュックを見て、私の真似をしていると気付いたらしい。


 ある意味、店にニスマジがいなくて幸運だったとも言える。

 もしその場にいたら、羽根を引きちぎって燃やしていたであろうから。



「あ、あの変な店もそうなんだけど――――」

「ん?」


 まだ何か言いたげな表情のイナがこっちを見る。

 歩く速度を落として隣に並ぶ。


「――――冒険者ギルドってとこでも、スミカ姉は注目されてたよなぁ」

「そう? 最初からあんなだったよ? この姿だし。普通じゃないかな?」


 歩く速度を落として、イナの隣に並び答える。


 注目されるなんて、ゲームの世界でもこの世界でも日常茶飯事だ。 

 まぁ、その意味合いはかなり違うんだけど。

 トッププレイヤーと奇抜な装備のせいで。



「いや、あれは普通ではないと俺は思うぞ。スミカさんがギルドに入った途端に、受付までの道が出来たからな。混雑していたはずなのに、強面の冒険者たちが揃って頭を下げて、脇にどいてくれたからな」


「あ~、そう言えばそうだったね」


 確かにラボの言う通り、私を見た途端にモーゼの十戒のように人混が割れたっけ。

 以前はそんな事なかったんだけど。

 せいぜい恭しく挨拶されるくらいだったのに。



「それと何でスミカ姉は、ギルド長さんの隣の部屋に案内されたんだ? 眼鏡の人もアタイたちに高そうなカップで紅茶を淹れてくれたりしたけど、あれも普通かい?」


「ああ、何やら高級そうな調度品が揃っていた部屋だったなぁ…… 恐らく来賓用の部屋でも、かなりの要人が来た際に使われる部屋だったのだろうなぁ」


 イナは私の顔を覗き込んで、ラボは遠くを見ながらしみじみと話す。

 相変わらずこの親子の観察眼と洞察力が鋭い。って言うか面倒くさい。



「う~、その話はもういいでしょ? それよりもなんか二人とも疲れた顔してるよ? この先に知り合いのお肉屋さんの2階に食堂があるんだけど、そこで少し休憩する? その後でスラムに案内するけど」


「どうする親父? アタイは構わないけど。街の中も覚えられるし」

「そうだな、スミカさんの好意に甘えようか。イナも疲れただろうしな」

「って、アタイは子供じゃないんだっ!」


 ラボは答えながらイナの頭を撫でて、いつもの様に怒られる。


「なら行こっか。ついでに私もお肉の買い足しするから」

「うんっ!」

「スミカさんお願いする」


 こうして次の行き先は、ログマさんとカジカさん夫妻が経営する『トロの精肉店』になった。


 そこでは夫婦のログマさんとカジカさんが、ナゴタとゴナタが着ていたスク水で現れて、またイナとラボが騒ぎ出したのは記憶から消したい。


 ログマさん……


――――


 ここは、とある大陸の沖合に浮かぶ名も無い無人とされる島。

 その島の地下にある部屋の中では、この施設の主と、組織の精鋭部隊を預かるタチアカとの話し合いが行われていた。



「で、どうだったんだい? マヤメの説得は?」


 部屋に入ると座っていた椅子から立ち上がり、一人の男がタチアカを出迎える。

 へらへらと薄い笑みを浮かべているが、こちらを見る視線だけは鋭い。



「どうも何も、アイツを切り捨てる事にしたさ」 


「えええっ! だってマヤメはタチアカが連れてきたんじゃなかったの?」 


 まるで下手な演技のように、大袈裟に両手を広げ唖然とする。


「そうだ。だが今の任務に就いてから、度々不穏な動きをする。報告の内容も正確性に欠けるし、未だに自分の潜伏場所を明かさない。聞くとのらりくらりとはぐらかす。まぁ、そっちは大方の予想は出来るが」


「え? それってなんの意味があるの? 居場所を知らせないって」 


 大仰に身を乗り出し、わざとらしく目を丸くする。


「ああ、これはアタイの予想なんだけど、恐らく潜伏先に何かあるんだと思う。アイツが気に入った村か街か、はたまたそこに住む何者かを組織に知られない為に。 それかそのまま逃亡する腹つもりかも知れんな。アイツを作った創造主と同じようにな」


 目の前の男とは違い、淡々と自分の考えを話す。


「そっかぁ~、どっちにしろこのまま僕を裏切る流れになるのかぁ~、でもよくタチアカもそんな判断したよね? 自分で連れてきたくせにさぁ」


「ア、アタイはただ、あんたの命令を聞いて――――」


「しかも、マヤメが組織に入るように、あの子の一番大切な者を壊しちゃってさぁ。そんな自暴自棄の絶望の中で勧誘されたら付いてくるしかないよね?」 


「だ、だからアタイは組織の――――」


「まぁ、親も親なら子も子だったって事だ。僕を裏切るならマヤメはもういいや。どうせ勝手に停止するんでしょう? それにそっちばかりにかかりっきりにもなってられないからね」


 言いたい事だけを並べて、心底興味を失ったように自分の椅子へと戻る。


「はぁ? ならマヤメもそうだが、魔改兵を殲滅している奴らを見逃すのかっ!? 絶壁の女勇者や、災害の幼女、北の氷結王女や、東の断罪シスター、そしてマヤメが追っていた蝶の英雄と呼ばれる者もっ!」


 机にダンと手を付き、どこか気だるげな男に詰め寄る。



「うん? ああ、そっちはタチアカとシスターズに任せるよ。それに魔改兵が倒されても悪い事ばかりじゃないんだよ。そこら辺は技術開発主任のマカスが知ってるから。それじゃ後はよろしく」


 クルリと体ごと椅子を回転させて、アタイに背中を見せる。

 どうやらこれ以上話をする気が無いという意思表示らしい。



「はぁ、わかった。後はアタイたちの勝手にさせてもらう。だが報告も怠らないし、組織に不利益な事もしない。ただ無茶はしても文句は言わないでくれ。これも組織とあんたの為なんだから」


「はい、はい、それじゃよろしく~っ!」


「ああ」


 背を向けながらヒラヒラと手を挙げた男を尻目に、アタイは部屋を出る。

 先ずはマヤメが隠した創造主の体の行方と、潜伏先への情報を集める事を決めて。



「ならマヤメの前にコムケと言う街にいた、アイツに話を聞くとしよう」


 各地に派遣しているナンバーのないシスターズの下位たち。

 その中でもマヤメの前任として就いていた、アイツを思い出し会いに行く事にした。



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