第355話驚天動地のリブ





「はぁ~、私―――― かしら?」

「?」


 ラブナを先頭に、孤児院に向かって移動を開始する。


 そのラブナの隣には、マハチとサワラが手振り身振りで話しながら歩いている。

 魔法がどうとか聞こえるから、先輩として、ラブナに何やら教えているみたいだ。


 その後ろ、エーイさんたちお手伝い組の4人は、街並みを見渡しながら、何のお店があそことか、指差し歩いているので、各お店の場所を確認しているようだ。この街に滞在するからだろう。


 

 そして最後尾の私の隣には、


「はぁ~、謝れば許してくれるかしら。はぁ~」

「………………」


 ギルドを出てから溜息と独り言を繰り返しているリブがいる。

 これからユーアの元に帰るって言うのに、これじゃ正直テンションが上がらない。



『ん~、この様子だとクレハンに何か言われたなぁ。私の暴露話とかではないけど、きっとリブにはショックな事なんだろうね。でもこのままだと子供たちも気を遣いそうだしなぁ…… 今日はエーイさんたちと孤児院に泊ってもらうつもりだしね……』


 この先の展開を考えて懸念してしまう。


『仕方ない。機嫌取り…… じゃなくて、誤解を解いておくか? 何の話をしてたのかは知らないけど』


 ブツブツと下を向きながら歩いているリブを見てそう決める。



「そう言えばリブ。クレハンの話は何だったの? で、今日は孤児院で――――」


 他の話を混ぜながら、さり気なく話の内容を聞いてみる。

 中味を知らないとフォローも出来ないからね。


 ザッ


「ん?」


 何て考えていると、リブが突然私の正面に回り込む。


「い、今までの非礼をお許しくださいっ! スミカ、さんっ!」

「え?」


 ガバと勢いよく頭を下げて、唐突に謝罪してきた。


 っていうか、頭を下げ過ぎて最敬礼を通り越し、膝にぶつかりそうだけど。

 魔法使いでも随分と体が柔らかいね。なんてふと思ったりして。


 い、いや、それよりも、突然のこの状況を収拾しないとっ!


「あ、あのさ、クレハンから何を聞いたか知らないけど、私はリブが思う私でいいからね? だから他の人の話を聞いて付き合い方変えないでね。私はこれからもリブと仲良くしたいからさ」


 顔が見えないけど説得するように話す。


 話の内容は不明だけど、非礼がどうとか言ってるから、そう言う事だろうと。

 それに街のみんなからも注目されてて恥ずかしいし。



「ね、だからさ顔上げて。そして今日はみんなで孤児院に泊めてもらおうよ。そして明日はロアジムのところに行こうよ」


「う、うん。わかったわ。昨日から色々あり過ぎてちょっと驚愕したり、動揺したり、混乱したり、錯乱しちゃったわ……。そうよね、スミカはスミカだものね。なんかありがとね」


 ゆっくりと頭を上げて笑顔を見せるリブ。


「う、うん……」


 何か思ったよりも多くの心労を掛けてしまい、申し訳ない気がする。

 盆とクリスマスと正月が一緒に来たみたいに、混乱させてごめんなさい。



「それでスミカってさ、この街で活躍してるみたいだけど滞在して結構長いの? それと今更なんだけど、幼く見えて冒険者歴も長いの?」


 少しだけいつものように戻ったリブ。 

 腰に手を当てて、そんな事を聞いてくる。


「…………なんで?」


「なんでって、クレハンさんの話聞いてたらそんな感じがしたから。冒険者もベテランなのかなってさ」


「ん~、そうだね。この街に来たのと冒険者になったのは一日違いだね」


「へ~、そうなんだ。それじゃスミカは見た目より結構年齢いってるんだ。 大体5年ぐらい? 街に来て冒険者になってから」


「そんなに経ってないよ。この街に来たのは。え~と…… いち、に、さん――」


 うろ覚えながら、リブの前で指折り数えてみる。


「――――じゅう、じゅういち、じゅうに――――」


「え? 10年って、スミカ一体いくつなのさっ!」


 10を超えたあたりで何やらリブが騒ぎ出す。

 でも数えてる途中なので今は答えない。


「じゅうよん、じゅうご。うん、大体このぐらいかな?」

「はぁっ!? スミカ、15年って言ったら…… 今27歳っ!」

「随分と失礼な事いうね。15年じゃなくて、15日くらいだよっ!」


 失敬な事をのたまうリブに言い返す。

 こんな見た目なのに、27歳って普通思わないでしょ。

  

 リブは冒険者の最低年齢の12歳と15年を単純に足したのだろう。

 まぁ、本当の中身は更に年上だけど。


「15日っ!? 15年じゃなくて?」


「うん、そう15日。大体だけど」

 立ち止まってまで、聞き返すリブに答える。


「それじゃ、スミカは2週間ちょっと前で冒険者になって、この街の英雄だなんて言われてるの? それとロアジムさんとの事もっ!?」


「う、うん、まぁ、そんな感じ」

 食い気味っていうか、ちょっとムキになるリブにどもってしまう。


「ち、因みにランクはっ? 冒険者ランクはっ?」

「シ、Cランクだけど」

「Cランクっ!? 2週間で?」

「あ、因みにラブナはFランク。冒険者歴で言えば殆ど一緒」


 何となく嫌な風向きになりそうなので、ラブナを振ってお茶を濁す。


「はぁっ? 今度はあの実力でFランク? 一体スミカもパーティーメンバーもどうなってるのさっ! 聞けば聞くほどおかしくなるわよっ! 2週間でCランクだの、あの魔法力でFランクとかさっ!」


 あれ? 誤魔化す話が更に変な方向に?


「そ、そう言われても…… ね? ラブにゃん」


 上手い言い訳っていうか、弁明が出来ないので先頭のラブナに頼ってみる。

 きっと恒例の『禁則事項』って警告して収めてくれるだろうから。



「にゃんって何よ? ってかそこでアタシに振らないでよスミ姉っ! そもそもおかしいのはアタシじゃなくてスミ姉なのよっ!」


 頼みのラブナが、後ろを振り返り仁王立ちで反論する。


「あれ? 禁則事項は?」

「そうよスミカっ! あなたが諸悪の根源なのよっ!」

「え? 諸悪の根源ってっ!」


「何やら騒がしいのぅ、ねぇねや。みんなが主らに注目しておるぞ。 はて? 見ない顔だが、ねぇねたちの知り合いかの? 魔法使い3人と…… む、その紋章はロアジムの知り合いか?」


 わちゃわちゃ言い合う私たちの背後から、そう声を掛けられる。


 ん? この甲高い声に不釣り合いな話し方は……



「ナジメ?」

「うむ、わしじゃ、ねぇね」

「ナジメじゃないっ!」

「うむ、ラブナよ」


 振り向く先には、トコトコとナジメが歩いくるところだった。


「もしかして、今日も商業ギルド?」


 合流したナジメに聞いてみる。

 今日の格好はスモック(園児服)だったからだ。


「それは朝だけじゃな。今はニスマジの店に行っておった。孤児院での注文したいものがあったのでな。で、今はその帰りという事じゃ。わしは色々と忙しいのじゃ」


 腕を組みながら横目でチラと私を見て答える。

 何となしにソワソワしているように見える。


「そうなんだ。私が留守中も大変だったんだね。偉いね。お~よしよし」


 褒めてオーラの出ているナジメの頭を軽く撫でる。


「う、うむ、ねぇねの不在時には、わしがお姉ちゃんだからなっ! だからいつでもわしを頼るといいのじゃっ!」


 撫でられながら、胸を逸らして満開の笑顔で答えるナジメ。

 耳まで赤いのはきっと陽気のせいだろう。


「して、その冒険者がロンドウィッチーズで、4人はロアジムの雇った女中じゃな?」


 キリと表情を変えて、リブたちをとエーイさんたちを見るナジメ。

 初対面なので、ちょっとカッコつけたかったのだろう。


「あ、はい、そうです。ってか、このお婆、幼女は誰なの? スミカ」


「はい、そうですわっ!」

「「「はいっ!」」」


 咄嗟に敬語で答えたあと、私に振り返るリブ。

 敬語の理由は、きっとナジメの口調に反応したんだろう。

 だけどエーイさんたちは普通に答えていた。



「うん、この幼女は――――」

「ねぇねや、わしは子供ではないぞ?」

「あ、ごめんごめん。この大人も私たちのパーティーメンバーなんだよ」

「わしはナジメじゃ」


 ナジメにジト目で見られながら、リブに答える。


「大人って…… スミカをお姉ちゃんって呼んでいるのに?…… まぁ、いいわ。あなたもスミカの仲間なのね? もしかして噂の妹さん?」


「うむ、そうじゃ。わしは5番目じゃ」


「5番目? ねぇ、スミカ。スミカって妹何人いるのさ?」


 ナジメの返答を聞いて、不思議そうな顔で私に聞き返す。

 まぁ、5番目とか言われたら普通そんな反応だよね。


「実質は1人だよ。でもパーティーメンバー全員が妹みたいなもんだからね」

「ああ、そう言う事? マハチとサワラが私の嫁みたいなものね?」

「えっ 嫁!? ま、まあ、そんな感じかな?」


 全くの見当違いだけどそう答える。

 家族と言えば同じ枠組みだしね。


「それじゃ、ナジメはもうお仕事は終わりなんでしょ? なら私たちと一緒に帰ろうよ。依頼の事も話ししたいし」

「そうじゃな、わしも一緒に行くのじゃ。もう孤児院の工事が始まっておるのでな」

「工事? ああ、そんな事言ってたね。あ、そうすると中は入れないの?」

「いや、内装じゃなくて外装じゃから大丈夫じゃよ」

「良かった。なら今日はみんなで泊ろうか」


 軽く胸を撫で下ろし、ナジメも含めて、女10人で移動を開始する。



 これでやっとユーアの元に帰れる。

 早くユーア成分補充しないとお姉ちゃん暴れちゃうからね。


 だた、孤児院に向かう道中の自己紹介で、ナジメの素性を聞いたリブが、往来で土下座してたのはご愛敬だろう。あんなの私だって初めて聞いた時には驚いたんだから。


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