第356話姉妹の帰還




「お、お帰りなさい、スミ神さまとラブナ姉さま」」

「お帰りっ! スミカ姉ちゃんたちっ!」

「お帰りなさいですっ! スミカお姉さんたち」


「「「お帰り~っ! スミ神さまぁ~っ!」」」


 孤児院の中に入ると、シーラを筆頭にボウとホウ、それと子供たちが元気よく出迎えてくれた。ボウとホウもたった一日で随分と仲良くなったようで安心した。



「うん、ただいま。で、ユーアは?」


 帰宅の挨拶もそこそこに、女神のユーアがいない事に気付く。


「ユ、ユーアお姉さまは今はいません。スミ神さま」

「え? 何でっ!?」


 シーラがすぐに答えてくれた。


「何か、男の子っぽい話し方する子と出かけたよ? 名前は――――」

「男とっ!? あの、野獣で魔獣で猛獣な傲慢で無礼で高慢な下等生物の生き物と!? 私との面談なしにっ!」


 次いでボウが驚愕の事実を教えてくれる。


「スミカ、あなたって、男をそんな風に思ってるの? そんなの子供たちに悪影響じゃないのさ。それに神さまって、自分の事そう呼ばせてるの? あと、面談って何さ?」


 後ろでリブが色々と小言を言ってるが聞く耳持たない。

 今はそんな話をしてる場合じゃないし。


「ス、スミカお姉さん、その子は女の子で、名前はゴマチさんでしたよっ!」

「え、な、なんだ、ゴマチかぁ。ちょっと焦っちゃったよ。あはは」


 最後にホウが補足説明をしてくれる。

 何故か私と同じように、あたふたしていたけど。



「あのさ、そのゴマチはいいんだけど、私たちの事も話してくれない?」


 ユーアに悪い虫が付かなくて、ホッとしている私にリブが声を掛けてくる。

 その後ろにはエーイさんたちもいる。


「あ、ああ、ごめんねリブとエーイさん。妹がいなくて行く先を聞いてたんだよ。でももう大丈夫だから、みんなに紹介するね」


 気を取り直して、リブたちと子供たちを見て口を開く。


「え~と、こっちの大人の4人は――――」

「ねぇねや。ここでは手狭じゃから、中で話をした方がいいと思うのじゃが」

「あ、そうだね。なら食堂に集まろうか? みんなもそれでいいよね?」


 ナジメの提案で、室内に入って自己紹介をする事にした。

 温かい今日の陽気では喉も乾いちゃうしね。



――――――――




「ふぅ~、少し落ち着いたかも」


 各々に自己紹介を済ませ、食堂テーブル脇の娯楽スペースの床で寛ぐ私。

 座り込む私の足の間には、小さな重みとホワホワした髪の毛があってくすぐったい。


 そんな寛ぐ私とは対照的に、お手伝い組のエーイさんたちは、ナジメのお屋敷の人も混ざって細かい話が続いている。どうやら引継ぎと仕事の話が始まっているようだった。


「あのぉ、ねぇねや…………」

「何?」

「わしを可愛がってくれるのは嬉しいのじゃが、いつまでわしはここにいればいいのじゃ? みんなの視線がくすぐったいのじゃが……」


 そう顔を向けてモジモジと話すナジメは、今は私の足の間に座っている。


「あ、そうだね。ナジメも疲れちゃうよね。ありがとうね」

「う、うむ」


 私は最後にギュッとナジメを抱き開放する。

 それはユーアがまだ帰ってきてないので、ナジメから成分を補充していた為だ。


 最初はラブナでもいいかなと思ったんだけど、抱き心地がユーアと全然違う事に気付いたので止めておいた。きっとある部分の格差にショックを受けるから。主にラブナが。


 その点、ナジメは小さいけど、体型と感触に関しては一番似ている。

 ストレートな体と、薄い双丘はユーアと比べて遜色ない。


 って、言っても最近のユーアはキチンと食べてふっくらしてきたので、そろそろナジメでも厳しいかもしれない。


『ん~、それだと、シーラも違い過ぎる。ユーアの方が小さくて可愛いし。ボウとホウが最適だけど、それで嫌われてもイヤだからね。それじゃ次に近いのは――――』


 数人の子供たち、そして一緒に床で寛いでいるリブたちを見る。


『マハチとサワラは意外と…… あるね? それに比べ、リブは背が高いけど厚みはないから似てるって言えば似てるけど、さすがに、ね?』


 チラチラと盗み見る様に、みんなの部分に視線を這わす。

 これもユーアがいない禁断症状だろうか。



「………………何さ?」

「え?」


 そう言った視線に敏感なのか、リブが訝し気に見ている。


「何か、嫌な視線を感じたんだけど」

「き、気のせいじゃない? 私はただみんなを眺めていただけだよ」薄い胸を。ボソ

「本当? 何かずっと私の同じとこ見てたわよ?」

「う、それは――――」


「リブや。ねぇねは二日でノトリの街まで往復したのじゃ。それにユーアがいないから気を休めないんじゃろう。じゃから少しは多めに見てやってくれなのじゃ」


「あ、はいっ! ナジメさまっ! もういくらでも見ていいですっ!」


 私とリブのやり取りに、見かねたナジメが間に入ってくれた。

 それを聞いて、両手を広げて見て見てアピールするリブ。


『………………』


 いや、もうそれ見ても、私も凹むだけだから。


 そんなリブは、ナジメの素性を聞いてからずっとこの調子だ。


 メンバーのマハチとサワラは、孤児院に着くまでに打ち解けて、色々と魔法関連の話で盛り上がってたって言うのに。



 ツンツン


「………………」

「何?」


 私の隣に座り直したリブが脇腹をつついてくる。


(何? じゃないわよっ! 何でナジメさまがスミカのパーティーメンバーなのさっ! あの人元Aランクじゃない、しかも今は領主さまなんでしょっ! 本当にどうなってるのさっ!)


 小声ながらも、怒気を含んだ声で話すリブ。器用だね?


(ん~、そんな事言われてもねぇ。ナジメが仲間になりたいって言ってきたんだし)


 私もリブに合わせて小声で話す。


(それもおかしいのさっ! 何で領主さまがメンバーになるのよ、意味がわからないわっ! それともう聞きたくないけど、他のメンバーってどんな人たちなのっ! あと何人?)


(後は、私の魔獣使いの妹のユーアと、その他は双子姉妹のナゴ――――)



「ただいま~っ! ごめんね少し遅くなっちゃって。あっ! スミカお姉ちゃんっ、お帰りなさいっ!」


 タタタ――――

 ガバッ


「うんっ! お帰りユーアっ!」


 リブと内緒話をしていると、私を見付けて、トテテと駆けてきて胸元にダイブしてくるユーア。私はそれを優しく受け止めて、いつものように頭を撫でる。


「もう、ゴマチとはいいの? どこ行ってたの? 大丈夫だった?」


 首元をクンカクンカとユーア成分を補充しながら聞いてみる。


「うんっ! 今日は一緒に孤児院のお買い物して、冒険者ギルド見てきたの。ゴマチちゃんのお父さんが忙しいからって。それとハラミも一緒だから大丈夫だったよっ!」


『わうっ!』


「そうなんだ。それは楽しかったね。ハラミもごくろうさま」


 一緒に着いて来たハラミも撫でてあげる。

 そんなハラミは目を細め気持ちよさそうにしている。



「そ、その子がスミカの妹なのね、本命の? ゴ、ゴクッ」


 ユーア成分を満喫している横では、リブが真剣な表情で聞いてくる。

 気のせいじゃなければ、ノドを鳴らしていたような……


「う、うん。そうだけど…… なんで?」


 何やら不穏なものを感じながら聞き返す。


「べ、別にっ! それよりも、いきなり魔物が来たから驚いたわよっ! さっき聞いてなかったら魔法をぶっぱしてたわよっ! あはは――」


 何かをはぐらかす様に、早口で捲し立てるリブ。


「ん~、ならいいんだけど。それとユーアはあなたの嫁じゃないからね」

「え? いきなり何言ってるのさっ!? そんな事思ってないわよっ!」

「そう? 私の気のせいだったのかな?」

「………………」

 

 視線を逸らし、無言になるロンドウィッチーズのリーダー。

 見間違いじゃなかったら、マスメアと同じ目をしてたんだけど。



『後は、ナゴタとゴナタが戻れば全員集合だね。もうすぐ暗くなるから、そろそろかな? お仕事が終わって帰ってくるのも』


 窓の外を見て、二人の帰宅が近いことを悟る。


 後はみんなでご飯を用意して、今日一日も終わりだ。


 明日も予定がギッシリだけどね。


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