第354話ご満悦の副ギルド長
「お疲れ様です、スミカさん。それと初めましてロンドウィッチーズの皆さんとお手伝いの皆さん。わたしはここの副ギルド長のクレハンと申します」
冒険者ギルドのロビーに、女だらけでぞろぞろと中に入る。
それに気付いたクレハンが、開口一番労いの言葉と自己紹介をしてくれた。
私たち護衛組はロアジムの依頼を終えて、コムケの街へようやく帰ってきた。
そして今は依頼達成の報告の為に、冒険者ギルドを訪れたところだった。
「うん、ありがとうクレハン。それじゃ後はよろしくねっ!」
「え? スミ姉っ! これでいいの?」
クレハンの話を聞いて早々、ラブナの手を引き、回れ右して出口に向かう。
依頼はこれで終了だ。
だから早く孤児院に帰って、ユーア成分を補充しないと暴走しそうだ。
私の中のカラータイマーがずっと鳴りっぱなしだからだ。
ガシッ
「ん?」
そんな中、足早に去る私の腕を捕まえる不届き者がいた。
「ちょっとスミカっ! 私たちを放って置いてどこ行くのさっ! そもそも報告終わってないじゃない? それとロアジムさんや街を案内してくれる件と、スミカのパーティーを紹介してくれるって話はどうなったのさっ!」
それはかなりご立腹のご様子のリブだった。
「どこ行くって? だってもう私いなくても大丈夫でしょ? リブたちもいるんだし。そうだよね? クレハン」
こちらに向かって笑顔で歩いてくるクレハンに確かめてみる。
「う~ん、そうですね、それでは――――」
「ほら、だからキチンと報告しないとダメなのよっ! 副ギルド長さんも困ってるんだからっ! だから空いてるカウンターに並んで――」
少しだけ考え込んだクレハンを見て、自分が正しいとばかりにカウンターに連れて行こうとするリブ。まだ最後まで話を聞いていないのに。
たけど、そんなリブはクレハンの続きを聞いて固まる。
「――――それでは報告は明日でもいいですよ。今日はお疲れでしょうから」
「うん、ありがとうクレハン」
「…………え?」
「書類も合わせて明日の空いた時間で、と言う事で」
「うん、わかった。一応午前中に来る予定で」
「は?」
「それとロアジムさんから伝言をお預かりしてます」
「うん、それで?」
「………………って、今度は直接伝言っ!?」
「はい。明日はお屋敷にお手伝いさんとロンドウィッチーズのみなさんを連れてきて欲しいそうです。時間は好きな時間でいいそうです。お屋敷でのお仕事があるみたいですが、来たら予定は空けるそうなので」
「うん、わかったよ。お昼食べてから行くね」
「好きな時間? ロアジムさんがわざわざ予定を空けるっ!? ってしかもお昼ご飯食べてからっ!!」
「はい、では明日よろしくお願いいたします。スミカさん」
「うん、色々ありがとうね」
私はクレハンの話を聞き終わって「じゃ~ね」とばかりに出口に向かう。
そんなクレハンも自分の仕事に戻る為に踵を返す。
「……………って、ちょっと副ギルド長さんっ!」
それを見て、立ち去るクレハンを慌てて追い駆けるリブ。
「はい? 何でしょうか、リブさん」
クルリと振り向きリブと見き合う。
「あ、あのさ――――」
「わたしの事はクレハンでいいですよ? リブさん」
「じゃあクレハンさんっ!」
「はい、どういたしました?」
「こ、この街のギルドはいつもあんな感じなの? 依頼の報告で顔だけ出して、後は好きな時間に来てもいいってみたいな事」
「いいえ、違いますよ? 普通はそんな事ありません」
リブの質問にも似た詰問に、さも当然の様に返答するクレハン。
私はその二人を早く終わらないかと眺める。
「え? えええっ! だったらスミカはっ!?」
「あ、説明するのでちょっと待っててくださいね。一応スミカさんにも説明の間待っていただくので、その許可を取りますから」
「はぁっ!? 副ギルド長が冒険者に許可って?」
「あの~、スミカさ~んっ! リブさんに説明したいので、帰るのはもう少し待っていただけますか~っ!」
混乱気味のリブを他所にカウンター脇から私を呼ぶクレハン。
「え? 説明って~っ?」
「はい、スミカさんたちのちょっとした逸話ですよっ!」
「逸話?実話じゃなく? う~ん、わかった。ならみんなで待ってるよ~」
意味不明だけどクレハンの話に了承する。
そんなクレハンはリブに見えないように笑みを浮かべていた。
ちょっとだけ楽しそうだ。
まぁ、さすがに変な事は言わないだろうし、いいかな?
取り敢えず早く終わってくれれば。
「そんな訳だからみんな、あっちの空いてる席でちょっと待ってようか? エーイさんたちはリブの話が終わったら孤児院に案内するからね」
「わかったわよっ! スミ姉」
「はい、わかりました。すいません、リブ姉さんがご迷惑を掛けて」
「リブ姉はどこ行ってもリブ姉ですいません」
「はい、わかりましたわ」
手持ち無沙汰だったみんなを案内してテーブルに移動する。
今の時間はまだ冒険者も帰って来てなくてガラ空きだったのでちょうどいい。
『ん~、ならこの時間で少し孤児院の事をラブナから話してもらおうか』
そんな訳でこっちはこっちでも色々と説明して時間を潰すことにした。
一方、クレハンとリブの話は、と言うと……
「え~と、リブさんたちはロアジムさんからの書状を読んだのですよね?」
確認の為か、クレハンがそう切り出す。
「うん、結構びっくりしたわ。あんな事が書かれてたなんてさ……」
「普通はそうですよ。で、その普通がこの状況なんです
「は? 何が普通なのさ」
意味が分からずオウム返しする。
「それは今のスミカさんは、恐らく妹さんのところに早く帰りたいんだと思います。だからあんな感じなんです。普段はもっと常識人ですからね」
「妹? は、はぁ…… それが?」
「それで普通って言うのは、スミカさんへの待遇がこれで普通って事です。スミカさんが望むなら早く妹さんの元へ帰らせてあげるって事が。あ、付け足すと、今回みたく緊急でもない限りはですが」
「そ、それって一体なんでそんな事になってんのさっ!」
「はい。その理由は、スミカさんはこの街の英雄って扱いになってまして、しかもロアジムさんがある事で感謝している人物が、実はスミカさんの妹だったりします。それとロアジムさんの息子さんと孫娘を救っているのがスミカさんです。他にはパーティーメンバーの双子姉妹の――――」
「え、英雄っ!? しかもロアジムさんのっ!?」
クレハンの説明を遮って驚くリブ。
「それに最後にもう一つ付け足しますと、この街の貴族さまたちの殆どはスミカさんのパーティーのファンですし、冒険者の皆さまもスミカさんの実力は認めています。それは元Aランクの――――」
「も、もう勘弁してっ! もうわかったからさっ!」
最後まで話を聞く事なく、ブンブンと顔と両手を振ってイヤイヤする。
常識外の情報が多すぎて、色々と整理しきれないみたいだ。
「そうですか、それは良かったです。今後またお聞きになりたいなら、わたしかギルド長をお呼びください。もっと色々と説明させていただきます。ではこれで♪」
最後にそう締めて「にこぉ」と会釈をして自分の仕事に戻って行った。
満足したような笑顔に見えたのは、きっと気のせいだろう。
――――――
「………………はぁ~、待たせたわね」
クレハンとの話が終わったのか、寛ぐ私たちの元にリブが戻ってきた。
長い溜息を吐きながら、どこか呆けた顔をして。
「…………? それじゃ、行こっか」
「うん…………」
そうして女9人ぞろぞろと、冒険者ギルドを後にした。
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