第232話昨日の敵は今日のお食事会
「どれ、そろそろみんな帰ろうかっ」
私は一番に腰を上げみんなを見渡しそう声を掛ける。
そろそろ日も傾き始めたな、とも思いながら。
それに各々の顔を見ても十分満足してそうだった。
一様にお腹に手を当ててゆっくり寛いでいる。
特にユーアなんて「ふにゃ」として蕩けそうな表情だった。
ナジメのお腹もここ一番膨らんでいた。
姉妹もラブナも今はゆっくりと談笑している。
何故かそこに、双子の兄弟も混ざってるけど。
アマジの家族たちはぎこちないながらも、今は冷たい果実水を飲んでいる。
ゴマチはショートケーキのレーションを口一杯に頬張っている。
それをアマジもロアジムも柔らかな表情で見守っている。
そしてバサは梃でも動かないハラミの背中に乗っている。
「ふふっ」
一体どういう状況だって?
それはユーアの可愛いお腹の虫が「きゅう」と
鳴った時から始まった『お食事会』
だってよく言うでしょ?
昨日の敵は今日の友って。
でもそれぞれにわだかまりは多少は残ってはいるけど
別に敵同士ってわけではないからね。今は。
※※
「ス、スミカお姉ちゃん、あのボク……」
そういって恥ずかしそうに私の顔を見る。
お腹が空いたことよりも、お腹が鳴った事が恥ずかしかったみたいだ。
「それじゃ後は話しながら食事にしようか。まだまだ続きそうだし。それにユーアも足らなかったでしょ。あの量じゃ」
「うん、うんボクもう少し食べたかったかも。でもいいの?」
と、モジモジしながら赤く頬を染める。
「いいんだよ。ユーアは育ちざかりなんだから遠慮しないでも。それにみんなもきっとそうだからさ。だから準備手伝ってね」
「はいっ!スミカお姉ちゃんっ!」
ユーアの元気な返事を聞いて私も準備に入る。
器具も食材も全部持ち歩いてるからね。
※※※※
「…………お前はいつもこんなものを持ち歩いてるのか?」
「えっ?そうだけど。普通じゃない?」
私は大型コンロと食材を繁々と眺めているアマジにそう答える。
「いいや、これが普通なわけがないだろう。そんな事に容量を使いたくはないからな。貴重なマジックバックの中身を全部食料などと」
「ああ、違う違う。私は魔法使いだから『収納魔法』て奴なんだよ。だからだよ。それに中身に関してはアマジに言われたくないんだけど?武器ばっかだし」
「いや、そう意味で言った訳ではないのだが……まぁいい。お前については深く考えないことにしたからな。それに俺は他にもマジックバックを持っている。武器以外を収納するためにな」
「へぇ~そうなんだ」
「………………」
そう言ったままアマジは離れようとはしない。
私はユーアが配膳に言ってるのを確認して。
「で、何か言いたいことあるの?」
と、黙り込むアマジに声を掛ける。
「あ、ああ、娘の……」
「うん?」
「娘のゴマチの傷を治してくれた事に礼を言う」
「別にいいよ。元々私はあなたたちを仲直りさせたいと思ってたから」
「なっ!それは一体どういう意味だ? それに元々だと?」
「そうだよ。ゴマチの話を聞いて、それでそう決めてたんだよ」
「はっ?何だってそんな何の益もない事を俺たち他人の為にっ!」
「ちょっと、声が大きいんだけど。周りに聞こえるよ?」
「う、すまん……」
私はヒートアップするアマジを宥めて話を続ける。
まぁアマジからしたらそう思うよね。
「ユーアと仲良くなったから」
「はぁっ?」
「ユーアはゴマチと仲がいいから。それとゴマチもユーアに憧れてるみたいだったし。だったら二人を何の
「そんな簡単な話か?いくら妹の為だからと言っても、些か度が過ぎているだろう。お前は周りを巻き込み過ぎだろう。ナジメやあの双子姉妹にとってもな」
「何、こんな時にお説教? そもそもあなたたちが仕掛けてこなかったらこんな事にはならなかったでしょ?だからお互い様だよ」
「ぐっ、ぬう。…………確かにそうだな。でもあの子供がお前の妹なのは分かったが随分と過保護過ぎやしないか?友人を与えたり、好きな食べ物を与えたりとかな。姉というよりお前は母親に近いんじゃないのか?」
「ったく。それもあなたに言われたくないな。自分の娘を放置してロアジムに預ける真似をして。それに私は姉でも母親でもどっちでもいいんだよ」
と、色々と墓穴を掘ったアマジを睨んで返答する。
「どっちでもいい?とは」
そんな私の返答に少し困惑するアマジ。
「言葉の通りで、私が姉でも母親でもどっちでもいいって事なんだよ。ユーアの生き方を守れればそれで構わないって事」
「………………」
「だってどっちかにしかなれないんだったら困るでしょ?ユーアと私は二人だけなんだから。だから姉妹として何かを教えたい時はお姉ちゃんに。ユーアが甘えたい時はお母さんになればいいんだよ」
「………………」
「だから私はどちらかに拘らない。そんな枠組みなんて邪魔なだけだからね」
「………………」
「まぁ、見た目的には私はお姉ちゃんだしユーアもそう呼んでるから、お姉ちゃんでもいいんだけど、でも必要なときはお母さんにチェンジするから。そんなとこだね」
私は一息つくために果実水で喉を潤す。
アマジが聞きに入って、何も反論しないから少し話し過ぎたし。
「くくっ…………」
「何? 笑うならそれでいいよ。別に同意しなくったって」
私は額に手をやり下を向き、肩を震わせるアマジを見てそう口を開く。
これは私の持論みたいなもの。
だから納得してもらわなくても全然気にならない。
「くくくっ。悪かった。別に馬鹿にするつもりも否定するつもりもないんだ。ただお前の周りは居心地がいいんだろうなと、ふと思っただけだ」
と、地面を向いて今度は独り言のように話す。
多分褒めてはいるんだろうけど、何か男らしくない。
だから私はその先を無理やり聞き出すことにした。
「何が居心地がいいって?」
「だってそうだろう。お前の周りには人が集まってくる。しかもそれぞれが良い目をしている。お前の傍にいる事に何の不安も不満も感じていない、そんな生き生きとした目をしている」
そう言ってアマジは食事会の準備をしているシスターズたちと、父親のロアジムと娘のゴマチを見渡してぎこちない笑顔を浮かべる。
「………………」
ふ~ん、そういう顔も出来るんだ。
どうせならそれは娘に見せてあげればいいのに。
私はそれを見て、すぐさま背中の羽を動かす。
アマジに気付かれないように、そぉ~とね。
『………………trois』
「でも、仲間だったらアマジにだっているじゃん。アカアオクロだっけ?」
「違う。アオ、ウオ、バサだ。お前ワザと言ってないか?」
「うーん、そうだっけ? でも仲間でしょ?一応」
そうアマジにだって数々の戦場を共にした仲間がいる。
見たところ仲が悪いとか、ブラックな待遇ではなさそうだし。
「……何故途中から確認する聞き方になったかは知らんが……。でもそうだな。仲間だろうなきっと。立場も似てるし、目指したものも一緒だからな」
「やっぱり過去に何かあったって事?」
「いいや違う。あいつらも家督の低い身分なんだ。だから俺と同じように強さで上を目指した。まぁ俺は抜けるようだけどな、恐らくは」
と、若干肩を落として仲間たちを見る。
「何でやめるの?もしかしてゴマチの為?」
私は寂しげな眼差しのアマジにそう問いかける。
「ああ、そうだ。ゴマチの元に残る。俺は今まで父親らしいことをあいつにしてやれなかった。それでゴマチが俺を受け入れてくれるかどうかは別だが……。だが俺はあいつらと別れてここに残る。それが俺の役目だからな妻だったイータの為に?…………ん、ゴマチ?」
そう言ってさっきよりも柔らかい表情を見せるアマジ。
そしてすぐさまその異常に気付く。
たった今話した愛娘がいないことに。
「どうしたの?」
「ゴマチがいないんだが、さっきまでそこに……」
「俺はここにいるよ親父」
「なっ?」
突然に声を掛けられて驚くアマジ。
私はそれを見てすぐさま透明化の鱗粉を解除する。
そこに現れたのはもちろん――
「ゴ、ゴマチっ!」
「親父がそれでいいんなら、俺も一緒にいたい。ずっと居なかった分俺に色々聞かせてくれよ。冒険の話とか、お母さんの話とかさ――――」
と、ゴマチは照れながらもアマジの目を見て話す。
モジモジと指先をいじりながら、頬も紅潮させながらも。
「お、お前いつの間にっ!」
「う、うん、スミカ姉ちゃんが貴重な物見れるからって、ついさっき……」
「ちょ、蝶の英雄っ!お前は何てことをっ!全部ゴマチに聞かれたぞっ!」
「別に
「だから感謝しなよね」
と、ちょっとだけ皮肉を込めて硬直する二人に向けて話す。
「はぁ、何なんだお前は本当に…………だが恩に着る」
「親父?」
「ゴマチもう聞いてはいるが、俺はお前と生きる」
「う、うんっ」
「ぷっ、何それ求婚?重すぎない?」
私はそれを聞いて思わず口を押える。
もっと他に言い方あるだろうって。
「ち、違うこれは言葉のあやだっ!本当はもう少し――」
と顔を赤くして必死に言い訳をするアマジ。
「………………ぷぷっ」
「ゴ、ゴマチ?」
「わはははははははっ!!!!」
「ゴマチっ!?」
いきなり笑い出したゴマチの姿に驚くアマジ。
「お、親父もそんな顔出来るんだなっ!今まで怖かった顔しか知らなかったっ!だから驚いてさっ!わははははは――――」
そんなゴマチは全身で笑いながらも、目尻には光るものが見える。
「………………」
「………………」
確かにゴマチは今までの10年近く、父親の顔をまともに見てはいないんだろう。見たとしてもそれは父親ではないアマジの顔。冒険者を憎むことで強さの糧にしてたそんな鬼のような顔。
そう小さいゴマチには映っていた。
それもゴマチの年齢程の長い年月の間。
ガバッ
「お、親父?」
「………………」
『…………』
私は娘を抱きしめる父親の姿を見てゆっくりそこから離れる。
その際に透明化の鱗粉を二人に散布する。
『……どうか二人とも
なんて祝辞とも皮肉とも取れる独り言を呟いて。
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