第131話ひ、ひもぉっ!?





『…………参ったね、まさか武器を手放して、小回りの効く徒手空拳で、しかも超至近距離の攻撃を仕掛けてくるなんて予想外だったよ』


 ナゴタの暴風雨のような攻撃を、何とか捌きながら称賛する。


 ただ、


『手数は凄まじい。けど、威力がそれ程じゃないのが救いかな?』


 ナゴタの攻撃は、確かに電光石火のような鋭さと速さだが、そこに威力といったものは備わっていなかった。

 それでも、攻撃を捌き、時に受ける私の腕に痺れが残るくらいには威力がある。



『うん、それでもオーク位なら、十分素手で殴殺できる威力はあるよ』


 ただ一発でも喰らうと一気に畳み掛けられて、急所ばかり集中的に打ち込まれる可能性が大いにある。

 いや、ナゴタなら確実にその隙を逃さずに、一気呵成に止めを差しにくるだろう。



 ガッガッガッガッガッ!

 ガガガガガガガガガッ


『つつっ! 止む気配がまだないね。そろそろ体力が落ちて、スピードも下がって来てもいい頃だと思うけど一向に―――― ああっ! もしかしてっ!?』



「ふふ、もぐ、お気付きになられましたね? お姉さま。もぐもぐ」


「スティックタイプレーションっ!?」


 なんとナゴタは体力が落ちていくばかりか、逆に回復していた。



「食べながらっ!?」


「もごもぐ、ふふ。少しお行儀が悪いですけど、普通にお姉さまに挑んだって私は絶対に敵いません。いえ、結局はこれもただの時間稼ぎにしかなりませんが、少しでもお姉さまのその強さを知りたくてこんな事をしてしまいました。申し訳ございません…… でもそれほど私はお姉さまに」


 ナゴタの姿は相変わらず視界に映らないが、その苛烈な攻撃の中からそんな声が聞こえた。その言葉の言う通りに回復しながら戦っているんだろう。

 レーションもぐもぐしながら。



 そんなナゴタの意外な戦い方に――――



「あはっ! あはははははっ!」

「お、お姉さまっ!?」


 思わず声を上げて笑ってしまう。


「あはははっ! ゴメンゴメンっ! 別にナゴタを笑った訳じゃないよっ? ちょっと嬉しくなっちゃってさ。昔を思い出して――――」


 ナゴタと打ち合いながら、笑った事を謝る。



「昔ですか? お姉さまの?」

「うん、そうっ!」


 ガッガッ ガッガッ!!


「…………どういった事かお聞かせ願っても?」


「うん、ちょっと久し振りに思い出したんだよ。たった一人の私を倒す為に、あらゆる手段を使ってきた、数千、数万の敵の全てを屠ってきた事をね」


「んなっ、す、数万ですかっ!?」


 話を聞いたナゴタは姿こそ見えないが、驚愕している様子はその口調でわかる。



 まあ、普通はそんな反応になるよね?

 万の軍勢と対面する機会はあっても、その全てを倒してきたなんて。


――――


「ス、スミカお姉ちゃん、何か笑ってないかな? ねえ、ハラミ?」

『わ、わうっ!』

「うん、やっぱりそうだよね。一体どうしちゃったんだろ?」

「ちょっとユーア、ハラミとばかり話してないで、アタシとも話してよっ!」

「お姉ぇとナゴ姉ちゃん、何か楽しそうだなっ!」


 訓練場脇のシスターズたちは、ユーアも交えてそんな話で盛り上がる。



「お、おい、英雄スミカが何か笑ってないか?」

「あ、ああ、確かにそう見える。もしかして、勝利を諦めたのか?」

「そ、そうだな、相変わらず防戦一方だし…………」

「英雄も所詮、Bランク冒険者には勝てないのかぁ」


 観客席では劣勢の私を見て、落胆しているようだ。





「それじゃ、そろそろ終わりにするね? ナゴタはやっぱり凄かったよっ」

「えっ?」


 ナゴタの攻撃を防ぎながら、私の中の『Safety安全 device装置 release解除』する。


『――――――1、2…… 3…… 4…… 5』


 シュ   ン―――――

 


「はっ! お姉さまが消えっ!?――――」


「よっ!」


 ドゴォッ!


「がはっ!?」


 私の攻撃を受けたナゴタは、地面より垂直に吹っ飛んでいく。

 それも観客が大勢集まるその中に向かって。



「ああっ! しまったぁっ! 久し振りで加減間違えたっ!」


 シュ    ン――――

 

 すぐさま地面を蹴り、吹っ飛ぶナゴタを追い越す。


「よっとっ!」


 ガシィッ!


 と間一髪でその体を受け止める。

 このまま吹っ飛んでいったら、冒険者か街の人に怪我人が出るとこだった。



 ファサァ


「んん、あれ? 前が見えないよ」


 ナゴタを受け止めた私の視界が、何かの青い布切れで塞がれた。

 途端に、今まで声を殆ど上げなかった観客から歓声が聞こえてきた。



「「「うおおおおおぉっっ! いいぞぉっ~~~~!!」」」


「うわっ! これは際どいっ! 今の子はこんなものをっ!?」

「ゴクリッ。ふむふむ」

「ねえ? お母さん。わたちもあれ欲しいの」

「あ、あなたにはまだ早過ぎよっ! お母さんだってっ」



「はぁ? 一体何なの。この騒ぎは」


 顔をフルフルと振って、青い布切れから顔を出す。


「ん?」


 そこには、視界一面に肌色が広がっていた。

 なので、首をズラしてそれが何かを確認する。



「ああっ! こ、これってナゴタのお尻…… なの? み、見覚えあるしっ! えっ? それじゃ私の視界を塞いでたのって、もしかして―――― ナゴタのドレス?」


 そう。


 ナゴタを寸での所で受け止めたまでは良かったが、ナゴタを上下逆さまに受け止めてしまい、しかもドレスが捲れて、その肉感的な素足と過激なおパンツが丸見えになってしまっていた。


 因みに私から見るとそのお尻は殆ど丸出しだった。

 幾度も叩いた事のある、張りのある丸いツヤツヤのお尻が目の前に。


 しかも……


『~~~~っ!!』


 こ、これって、


 …………………… 紐ぉパンっ!?


 ヤ、ヤバァいっ!

 私以外にも丸見えだよっ!



「あわわ、ナゴタごめんねっ! わ、悪気はなかったんだよっ!」


 シュタタタ――――


 そう叫び、気を失っているナゴタをみんなの所に連れて行く。

 すぐさま抱え直して、今度はお姫様抱っこして。



 それと入れ違いに、ルーギルが慌てて訓練場の中心に向かう。

 きっと終了の合図をするのだろう。



「ルーギル、後は任せたかんねっ!」

「お、おうッ!」


 すれ違い際に声を掛けてスピードを上げる。



「あ、ああ、なんか最後はよくわかんねえ内に、ってか殆ど見えねぇで試合が終わっちまったが…… と、とりあえず今の試合は、スミカ嬢の勝利だッ!」



 なんとも締まりのない台詞で、ナゴタとの模擬戦の終了を告げた。




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