第213話都市伝説じゃなかったよっ!
「お前?……らはここで何をしているんだ?」
「うん、誰?」
「………………」
私は森の中から突如現れた男の声に戸惑いながらそちらに注視する。
『………………』
着ているものは皮の胸当てとグローブとグリーブ。
腰にはアイテムポーチらしき物や、手にはナイフを持っている。
年齢は……40代から50代ほどだろうか。
背丈はあるが、どこか頼りなくひょろりとした体形で、口髭はあるがきちんと整えられている。茶色の短髪も丁寧にまとめられていて、全体的に気品もあるが、何となく柔らかな雰囲気のある男だった。
ただ私たちを見る眼光は意外にも鋭く感じた。
『……敵意は……ないかな?視線の鋭さは本来の物っぽいしね?』
私は突如森から姿を現した男を見てそう思った。
『で、姿はただの冒険者に見えるんだけど、なんかチグハグのような……』
男の格好は冒険者が好んで着る軽装の装備だ。
ただ容姿もそうだが、年齢も纏う雰囲気もどこか違う。
『冒険者のような荒々しさはない。どっちかというと気品?高貴さ?』
と、私がその違和感に逡巡していると
意外な方向から男に向けて声がかけられる。
「あっ!もしかしてっ!」
「うぬ?お主は何故こんなところに」
「へ?」
それはユーアとナジメの二人だった。
『へ?ユーアとナジメの知り合いって、そもそも二人は殆ど接点なかったよね?ナジメとユーアは一昨日初めて会ったばかりだし……』
私はユーアたちと男を見比べながら疑問に思った。
ナジメとユーアの共通の知り合いなんていつ出来たのだろうと。
『う~ん。なら、たまたまあの男を二人が知り合いだったって事?冒険者らしい風貌だからきっとそうだね。でもまぁ、知り合いでもちょっかい出してこなければいいかな』
ユーアの表情を見る限り、男は今のところ無害に見える。
ナジメも薄っすと笑顔を浮かべているのを見て更に安堵する。
「こんなとこで何をしている?親父よ」
「へっ?」
今度は目の前のアマジからそんな言葉が出てきた。
『おやじっ!?』
それってもしかして――――
貴族、さま。ってやつ?
「おじちゃんっ!ここでお仕事してるのっ?」
と、続いてユーアも話しかける。
『へっ?仕事って冒険者?ってそれよりも……』
「おおっ! やっぱりユーアちゃんかい?おじちゃんユーアちゃんに教えてもらったところで依頼を受けてるんだよ!」
「そうなんだっ!おじちゃんお仕事達成できるといいねっ!」
「おうっ!おじちゃん頑張っちゃうよっ!!」
「おっ――――!?」
『じ……ちゃん……てっ――――えええええええっ!!!!!』
お、おじちゃんってあのおじちゃんだよねっ!?
ユーアのストー○ー?じゃなくてファンの謎のおじちゃんだよねっ??
いつもユーアが話してるけど一度も姿を見たことなかった
正体不明、神出鬼没の謎のおじちゃんだよねっ!!
そ、存在したんだっ!
もう都市伝説かと思ってたよっ!!
「ユ、ユーア、この人がいつも言ってたおじ――――」
「ロアジムよ、お主ユーアとも知り合いじゃったのか?」
と私が言い終わる前にナジメが男にそう声をかける。
『んんんっ!ロアジムっ!?ってやっぱり?』
「おう、ナジメかっ!ユーアちゃんには以前に色々教えてもらったのだよ。採取のいい場所とか目利きとか色々教わった事があるのだよ。それにしても――――」
そう言葉を止めてロアジムは私たちを見渡し
最後にアマジで視線を止め再度口を開く。
「――にしても中々珍しい組み合わせだな、アマジよ。と言うか可愛い孫娘のゴマチはいいとして、お前は何か訳アリだよな?お前たちが冒険者さんたちと一緒にいるなんて普通ならありえないからな」
「ふん、それはこちらの勝手だろう。それに俺だって気まぐれで冒険者の相手ぐらいするさ。それが今回可愛い娘が関わっていれば、そうおかしな事でもないだろう」
「はん、何を今更白々しい事を。お前は一人娘を放っておいて嫡男でない事をいいことに、いや違うな。嫡男でないからこそ好き勝手しておるのだろう?つまらんプライドの為にな」
「はっ、それは親父の勝手な――――」
「ちょっと待って」
私は二人の話に割って入る。
この流れだとこの戦いがうやむやになる恐れもあるし、ゴマチに聞かせられない話に発展する可能性もある。なので一度二人の話を寸断した。
「……なんだ?蝶の英雄」
「お、あんたはユーアちゃんのお姉ちゃん兼、保護者のスミカちゃんだなっ!いやぁっ!あなたの事はユーアちゃんから聞いているし、ワシも昨日の試合を見てたんだよっ!」
ロアジムはアマジとの会話とは打って変わって、妙にほころんだ顔で私に向かって歩いてくる。
ユーアと話してた顔はもっとだらしな、じゃなくて緩んでいたけど。
「えーとそれでなんだけど――――」
「いや~スミカちゃんはナジメに勝つなんて凄いなっ!さすがユーアちゃんのお姉ちゃんだよっ!それとそこの姉妹も負けはしたが素晴らしかったぞっ!」
「は、はい、ありがとうございますっ」
「うん、うんっ!」
突然話を振られてきょどるナゴタとゴナタ。
珍しくナゴタも面食らっていた。
ゴナタはいつもと一緒で姉に頼るつもりだろう。
「それとそこの赤い少女も強いのだろう?ユーアちゃんが教えてくれたぞっ!しかも特殊な魔法使いだとなっ!」
「へ?ユーアがアタシの事を……あ、当り前じゃないっ!アタシはユーアのお姉ちゃんなんだからそれ相応の実力を持ってるわよっ!!」
次のラブナはユーアに称賛されてた事を知りいつものポーズに。
初対面の男に褒めれてるのにまんざらでもない様子だった。
『く、嬉々としてシスターズを褒め讃えるこの貴族男に口を挟めないっ!』
そ、それにしてもこの男はどこまで――
「ワシはもうバタフライシスターズの大ファンだよっ!今日一同揃ってここで会えたのは何かの縁。ワシにも冒険者の話を聞かせてくれなのだよ。特に魔法関係の話を所望するっ!」
『――冒険者の事が好きなのだろう……』
確かにナジメからも聞いてはいたがここまで冒険者、更に命を救われた魔法使いの冒険者が好きなんだろう。いや執着しすぎている。
「いや~っ!スミカちゃんも近くで見ると美人さんだなっ!ユーアちゃんが褒めちぎってたけど、顔だちも立ち姿も気品があって美人ちゃんだよなっ!その成人でもなだらかな胸だってユーアちゃんが憧れてたぞ?どうせ大人になるんだったらスミカお姉ちゃんみたいなのがいいってなっ!」
私の目の前まで来たロアジムは、満面の笑顔でそう言った。
ほぼ初対面の乙女に
な、なだらかだとぉっ!
「まあ、ねっ」
『な、なんだユーアもああ見えて自分の体の事を気にしてたの? でも私のスタイルに憧れるって事は私がいいお姉ちゃんだから真似したいって事だよねっ!!』
私は怒りを忘れて、内心ニヤニヤしながらロアジムの話を聞いていた。
そ、そうなんだユーアがねぇ?
「でな、わしとユーアちゃんはな――――」
「うん、それでそれで?」
「あそこでユーアちゃんに会えなかったら、わしは――――」
「ああ、そこはユーアらしいねっ」
私は何故かロアジムから聞くユーアの話に夢中になりつつあった。
…………あれ?
私ここに何しに来たんだっけ?
ロアジムとユーア談義を楽しむ為じゃないよね?
アマジたちと戦いに来たんだよね?
それで色々と解決しようと……
『な、なんて恐ろしい男だっ!いつの間にか私が目的を忘れるように誘導されるなんて……しかも私の可愛いユーアの話題で釣ろうなどと……』
笑顔でユーアの事を話すロアジムを見て背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
まぁ、装備のお陰で実際は快適なままだけどね……。
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