第214話貴族って輩はやっぱり…
「あ、あのさ、ロアジム……さま?さん?ちょっといいでしょうか?」
私は後ろ髪を引かれる想いで話をやんわりと中断する。
私の知らないユーアの話をまだまだ聞いてはいたいし、もう少し話していたかった。でも、そもそもの目的を忘れちゃだめだよね。それよりも今はもっと優先させるべき事があったんだもん
「うん?どうしたスミカちゃん?」
ロアジムは話を止めて私が言い出すのを待っている。
「あの、私たちの事なんだけど――」
「あ、ワシの事はロアジムで呼んでくれていいんだよ?ナジメだってそう呼んでるし、それにワシはユーアちゃんやシスターズの大ファンじゃからなっ!それと話し方も気取らなくてもいいんだよっ!」
「は、はぁ……」
私が口を開いたと同時にロアジムはそう言ってシスターズと私を見渡す。
本当に冒険者を好き過ぎて逆にちょっと恐いというか、ちょっと引く。
『まぁ向こうがそう言うんだったら甘えさせてもらおうか。そもそも貴族に対する敬称とか礼儀とか詳しくないし、何ならロアジムがどれくらい偉いか知らないしね』
どうせ貴族の仕事の合間に冒険者なんてやってるんだから、大した立場でもないんだろうなぁ。なんて思いながらそれに甘えることにした。
実際はどうか分からないけどね。
「じゃあそうするよロアジム。私たちはあなたの息子のアマジとその仲間の人と模擬戦の最中なんだよ。だから話は後にしてくれないかな?」
「おお、そうだったか?」
「うん、そうなんだよ。だからまた今度ね」
「でもそれだけではなかろう。何かがあるだろう?」
そう言って目を細めアマジたちを訝し気に見渡す。
「…………なんで?」
私は急に雰囲気の変わったロアジムに問い掛ける。
「ああ、それはなスミカちゃん。アマジは冒険者さんとは――」
「もういい親父。それ以上余計な事は言わないでいただきたい。この蝶の英雄の模擬戦のことは本当だ。こちらの理由は娘が攫われたからだ」
「………………」
ロアジムの話に割って入ったアマジは不機嫌を前面に出してそう言い放つ。
『うーん、これってこのまま試合取り消しとかにならない?』
アマジのあまりにも愚直な言い分に私は若干焦りを覚える。
そして真正直に言ったアマジに疑惑を覚える。
アマジは冒険者と私に異常に粘着していたのだから。
それとも言っても問題ないと思ってた?
でもこの理由でそのまま納得などされると
一方的に私たちが悪者になってしまう。
『なら、ユーアの件から始まった事を話したほうがいいかも。それが原因で、ゴマチは大好きなおじいちゃんに怒られちゃうかもだけど、それは甘んじて受けてもらおう』
なので私はそう決断してロアジムを見る。
ただし全てを真正直に話すと無効になる恐れがある。
「あ、あのさ実はゴマチがユーアをさ――――」
なので私はある程度伏せてロアジムに説明した。
ナジメの覚悟も姉妹の頑張りも無かった事にならないように。
※※※※
「なるほどな。それでスミカちゃんも引っ込みが付かないわけか。大切なユーアちゃんが怖い目にあった事だし、その意趣返しもしたいとな」
「まぁそうだね。ゴマチの父親アマジにただ謝って貰うだけじゃこっちも気が済まない話なんだよね?私はユーアのお姉ちゃんだし、保護者だからね」
「ううむ。スミカちゃんの気持ちもわかるが……」
「で、私は冒険者だからその解決方法が一番納得するんだよ。金銭とか謝罪とかそういったのは正直いらないし」
私は更にロアジムにプッシュする。
「なぁロアジムよ。お主も孫が可愛いじゃろ?」
と、ここでナジメが話に割って入ってくる。
「うむ、ゴマチはワシの可愛い孫だな。後でキツイ仕置きが必要だけど」
とゴマチを見ながらそう答える。
それを聞いたゴマチは「うげぇ」と
またハラミの背中に顔を埋める。
これでゴマチのお仕置きは決定事項だ。
「ならそれと一緒じゃ……いやそれ以上じゃなねぇねは。ねぇねはユーアを心底大切にしておるし、わしもそれを体感したのじゃ。ねぇねはユーアの為なら国や軍隊相手取っても構わないほどの気概もあるようじゃし」
更に続けてナジメがそう言い聞かせるように話をしてくれる。
それを聞いてロアジムはというと、
「国を?それは聞き捨てならないことを聞いてしまったな。不敬罪に問われてもおかしくはない発言だな」
と、私を見て目を細め真顔になる。
不敬罪?ヤバいよね?
このままじゃ……
「ちょ、ナジメそれ言い過ぎ――――」
私はあわててナジメの発言を訂正しようと口を開くが
「いいや、それぐらい大事にしてるって言う例えじゃよ。じゃから心配するなねぇねも。それとロアジムは察しておるから大丈夫じゃ」
私とは正反対にあっけらかんとそう答える。
「わはは、それは分かっておるよっ!普通なら不敬罪あわやな発言だが、ワシはナジメもユーアちゃんから聞くスミカちゃんの事も知っておるから安心してくれ」
「そ、そうなんだ」
とロアジムは顔を崩して笑顔で答えていた。
『ふ~~驚いた。ユーアやナジメに感謝だよね。これは二人の日頃の行いの賜物だねっ。でもナジメは領主の仕事まともにしてないよね?』
私は感謝しながらも繁々とナジメの顔を盗み見る。
「うん?何じゃねぇね」
「な、何でもないよっ」
ま、まぁそんなこと言ったらまた涙目になるから言えないけどね。
それにきっと冒険者としてナジメは気に入られてるんだろうし。
「ううむ、そう聞けばワシがここで口を挟むのはお門違いだな。お互いに譲れないものがあるのだとしても死人の出ない模擬戦での決着という話だし、最終的にはゴマチも帰ってくるしな」
「うむ、まぁそう言う事じゃな」
ロアジムとナジメはお互いに頷いて納得している。
これで何とか再開できそうだ。
「だが、一つだけ条件がある」
「へ?条件」
「まだ何かあるというのか?ロアジムよ」
「あ、条件って言うか、ワシも見物させて欲しいだけだよ」
「うん?それだけでいいの?」
と、私はほっと胸をなでおろしながら聞いてみる。
今度こそ面倒事を言われるのかと思ったらそうでなく安心した。
「………………そ、それだけだと?」
「うん?違うの?」
今度は下を向き何故か肩を震わせるロアジムに尋ねる。
「そ、それだけだとぉ――っ!!」
「いいいっ!」
ガシッ
勢いよく顔を上げたと思ったらロアジムは絶叫する。
それも私の肩を掴み前後に揺さぶりながら。
「それだけなわけなかろうっ!ワシはまた英雄の戦いを見れるのだっ!またあの華麗な蝶のような戦いと、見たこともない不思議な魔法が拝めるのだっ!冒険者の戦いが見れるのだっ!断じてそれだけなどと軽んじた言葉で言わせないぞっ!!」
そんなロアジムの咆哮にも似た怒号にも似た絶叫が森の中に木霊する。
そしてその凶行にも似た行動にシスターズはポカンと口を開けて眺めていた。誰も何も反応できなかった。アマジたちもそれぞれに顔をしかめていた。
『ど、どれだけ冒険者好きなのっ!!ていうより――――』
なんて面倒臭いやつばっかりいるのこの家族はっ!!
それとも貴族がみんなそうなのっ!!
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