第215話最終戦の開始とスミカのお願い




『はぁ、なんでこんなことになってんだろ』


 私は溜息交じりに広場の向こうを眺める。

 そこには――――


「お~いスミカちゃんまたあれ見せてくれよぉっ!回りに魔法の槍みたいなの出すやつ!それと分身もお願いするなっ!!」


「ロ、ロアジムお主は…………」


「…………………」

「…………………」

「…………………」

「…………………」

「スミカ姉ちゃん魔法見せてくれよっ!」


 シスターズを押しのけて、最前線で私を応援するロアジムとその孫のゴマチ。

 冒険者好きの変態二人が奇しくも揃ってしまった。


 ユーアも含めシスターズのみんなはそれをどこか冷めた目で見ていた。

 そしてナジメは溜息をついていた。


 うん、その気持ち良く分かるよ。

 だって色々台無しだもん。


 私はみんなが抱きしめてくれて、気持ちも体も覚悟も出来たのに、こんな親父の声援だけじゃ全く燃えないしノレないよ。それに一応礼儀にも気をつけなきゃダメかもだし。うううっ、なんか色々と窮屈かも。


『しかも、私のスキルまで一部ばらしてるし……』


 まぁそれは正直どうでもいいんだけど、少々のスキルをバラされるぐらいなら全く影響ない。だって私には誰にも負けない絶対の自信があるし、この装備の全貌が全て分かるわけでもない。


 それに私は苦戦を望んでいる。


『だから私が不利になるなら全然かまわないよ。みんなにも説明したしね』


 私はシスターズのみんなに2つのお願いをしてきた。

 その内の1つが


 (私がもし危険な状況になっても心配しないで)だった。


 それは私がこの世界の[強さ]を知りたい事。


 単に強いだけの単純な話ではなくてこの世界に存在する数多の[強さ]。

 それには相手の引き出しを全部開けさせる。その力をひけらかせる。


『で、私はそれを知って、ついでに私も強くなるっと』


 守るための力を更に研鑽する為に。


 この世界に於ける強さの理を理解する為に。



※※※※



「ほう分身。か、お前も投影幻視使いか」


 私と対峙しているアマジがロアジムの声援を聞いて口を開く。


「とうえいげんし?」

 私は分身の後の聞きなれない単語にオウム返しする。 


「投影幻視だ」

「も、って事はアマジも使えるって事?仲間の話じゃなくて」

「ああ、あいつらと俺はここより東の国で習得してきた」


 東の国で修行してきたって事?

 それと名称が元の世界っぽい。

 もしかしたらメルウちゃんのいた国?


「ふ~んそうなんだ。でも私のは1体しか出せないよオリジナル魔法で出してるから。だからその投影幻視ってのとは違うと思うし」


 と適当な作り話で誤魔化す。

 これ以上この話が発展しないことを祈りながら。


「魔法でか?なるほど。なら数体出せるだろうよ。魔力の分の分身を」

「あ、え~と、私はまだ未熟な魔法使いなんだ。だから1体が限界なんだよ」

「……お前は元Aランクのナジメに勝ってるのだろう?それで未熟、か――」

「わ、私は魔法戦士なんだよっ。だから魔力は少ないんだよっ!」

「だったら武器はどこだ?お前は必要ないと言ってただろう」

「そ、それは――――」


 って何でこんなにしつこく聞いてくるのっ!

 アマジなりに私の情報を引き出そうとしている!?


 なりふり構わずに勝ちに来てるって事?

 でもまぁ―――


「そ、それはこれが理由だよっ」


 ――それも悪くない。

 寧ろ好都合。



 私は視覚化したスキルを両手に装備する。


「…………なんだ?それは」

「私は魔法で武器を作製出来るんだよ」


 私は腰を落として大型の刺又形態スキルを前面で構える。


 細長い円柱+短い円柱(半月湾曲)

 『 刺又(さすまた)形態』

(現代だと犯罪者などを捕獲する際に使う捕具)



「…………それは武器なのか?」

 訝し気な視線で私のスキル武器を見てそう口を開く。 


 そう言うアマジは右手に長剣。

 左手に両手斧なんてチグハグな組み合わせ。


「そうだけど?何で」

「……お前の態度に似て武器もふざけてると思っただけだ」

「ふーん、そう思ってるなら後悔するかもよ?」

「後悔だと?そんな殺傷力も殴殺力もない武器で何を言っている」

「ああ、だからアマジはその組み合わせなんだ」


 私は不思議な組み合わせのアマジの持つ武器を見てそう感想を漏らす。


 長剣で断ち切る

 両手斧で力任せにぶった切る

 

 みたいに二つの特性に合わせて使い分けるつもりなのだろうと。

 と言っても模擬戦専用武器なので刃は潰してあるけれど。


 きっとその両極端の武器は、アマジに言わせれば理にかなった装備なのかもしれないが、普通の人間には長剣も両手斧も片手で振り回すほどの膂力がない。


『まぁ、私もそれを見てこの刺又さすまたが相性がいいって考えたんだけど。あと気になるのはロアジムのあの忠告?だけかな』


 ロアジムは私から離れる際に一言だけ言っていた。


  『大切なものの想いが強い程、アマジとは相性が悪いのだよ』と。


『……あまり気にしてても他が疎かになるからある程度だけ気に留めておこう。それよりも私にはやる事があるからね』


 私はさっきのロアジムの言葉を思い出してそう思った。



※※



「ではこちらから行くぞっ」


 武器を構えたアマジがその台詞と同時に地面を蹴って疾走してくる。


「どっからでもいいよ。返り討ちにしてあげるから」

「いつまでもほざいてろっ!」


 シュッ


 アマジは長剣による突きと短い跳躍で私との距離を一瞬で詰める。


「中々早いねっ!」

 私はそれを体を横に半歩ズラしてギリギリで躱す。


「まだだっ」

 するとアマジは両手斧で私の上半身を刈るように横薙ぎに振るう。


 ブフォンッ


「おっとっ!」

 私はそれを屈んで寸での所でやり過ごす。


 その際鋭い音の風圧が頭の上をギリギリと掠めていき、その威力に少し驚く。

 両手で扱う武器を片手で扱えるその力に。


 私は屈んだ態勢のまま刺又スキルを足を掬うように振り回す。


「んっ」

「ふんっ」


 それをアマジは躱すこともせずに足裏で受け止め、

 そのまま地面にガッと抑え付ける。


「ちっ」

「はっ!」


 そして今度は刺又の上を足場にしながら接近し長剣を突き出す。


 シュッ!

「くっ!間に合わない」


 私はスキルを一度手放し、後ろにのけ反りながら長剣の腹を蹴り上げる。


 ガギィンッ!

「っつ!!」


 アマジは威力を抑えきれずに長剣ごと体が後方に流れる。

 持ってる武器の影響か、バランスを崩してるようにも見える。


 私はそれを見てアマジの胴体に刺又で挟み込み体ごとグイと持ち上げる。


「その細腕で持ち上げるかっ!?」

 アマジは刺又から逃れるために両手斧を振り上げるが、


「んんっ!」

 私は持ち手をぐるりと回しアマジの体ごと回転させて、


「なっ!?」

「そりゃっ!!」


 ドゴォ――ンッ!! 


 そのまま脳天から地面に叩きつける。


「ん、手ごたえが、消えた?」


 叩きつけた衝撃で土煙の舞う中、スキルへの荷重が消えていた。


『あの武器を持った状態で頭から着地は出来ないはず?』


 ヒュン――

 パシィッ!


「っと!」

 私は土煙を切り裂き、突如飛来してきた物を片手で掴み取る。


「へ?弓の矢、何で」

 掴み取った物を見て唖然とする。


「ほう、それを簡単に受け止めるか。さっきの俺を持ち上げ叩きつけた力といい、矢を掴み取る反射神経といい、お前はいったい何者だ」 


 土煙の向こうから矢を射った本人が姿を現す。

 叩きつけたダメージの痕跡は見当たらない。


「……さっき言ったばかりでしょ。私は魔法戦士だって」

 私は矢をクルクルと指で遊びながら答える。


「それは聞いた。だが魔法よりも圧倒的に身体能力が勝っている。俺の初撃を簡単に避けてもいたしな」


 そう言いながら腰の袋から矢を取り出して狙いを私に定める。

 さっきまで持っていた長剣と両手斧は既に持っていなかった。

 そして今は両手で弓矢を装備している。


 ならきっとそう言う事なのだろう。


「ねぇ、その弓矢ってそのアイテムポーチから出したの?」

「その通り、だっ!」


 シュッ


 アマジは答えながら弓矢に番えた矢を至近距離で放す。


「っと」

 私はそれを指の間で挟んで受け止め、アマジの腰のポーチを見る。

 左右に同じ大きさのマジックポーチが見える。


「もしかして、模擬戦の武器全部それに入ってるとか?」

「ああ、俺はあらゆる武器を高レベルで扱えるからな」


 そう言い、今度はアオとウオと同じように双剣を出し構える。


「へぇ~、それは面白いね。私も武器の扱いにはそこそこ自信があるんだよ」

「ほぉ」


 私はスキル4機を使い刃渡りでいう100センチ程の双剣もどきを展開し両手に持つ。色は適当に黒色にしてみた。


「それじゃどっちが武器を使か勝負しようか」


 私はアマジを見ながら気分が高まっていくのを感じた。


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