第212話準備万端と思いきや&スミカの目指すもの



『こっちが準備出来次第声かけろってことだよね確か。でもあっちの治療とかはどうなってるの?』


 私は声をかけようとして、一旦アマジ陣営の様子を見てみる。


 そんなアマジは腕を組みながら不機嫌そうに周囲を見ていた。


 どうやら向こうはとっくに準備が終わっていたようで、ナジメと戦ったバサも、ナゴタとゴナタに倒されたアオとウオも、横になりながら何かを話していた。


 その様子を見る限り、双子は意識があるからもう大丈夫だろう。


 そもそも肉体的にはそこまでのダメージを受けてはいなかった訳だし、ナジメとハラミにも助けて貰ったことだしね。


 そしてチラチラと敵意の薄れた眼差しでナゴタとゴナタを見ている事から、何か思うところがあるんだとわかる。けれど今の状況で気軽に話しかけることは難しい。


 そもそも私たちは敵対しているし、そんな簡単に気を許すことはできない。

 体裁やら立場と言った事もそうだけど、心の整理にも時間がかかるだろうから。


『まぁ、それも全てに決着がつけばどうなるかは分からないけどね。お互いに強さに貪欲だから話し合えば何か得られるものもあるだろうし……それか双子同士で何か通じるものもあったりしてね、例えば男女を意識しちゃうとか。ね?……』


 私はそんなことを考えながら姉妹の二人を見てみる。


 何か思考が途中から親戚の叔母さんみたくなっちゃったけど

 何だかんだ二人も年頃な男女な訳で……



「そ、そうでしたか、やっぱりお姉さまの匂いは――」

「う、うん、髪の毛もいい匂いなんだよなっ!それに――」

「そうだね、スミカお姉ちゃんって不思議ないい匂いするよねっ!」


『………………』


「うむ、華奢な体じゃったが何か安心感というか――」

「そ、そうねっ!ユーア程じゃないけど中々ねっ!」

「うん、そうだよっ!ボクも寝る時一緒だけどぐっすり寝れるもんっ!」


『………………』


 何やら男女関係ない話で盛り上がっていた。

 どうやら私を抱きしめた感想を言い合っているようだった。


『………………』


 何で姉妹は私の体臭の話になってんの?

 女子としてあまり聞きたくない話だよっ!


 ナジメ、私の体の抱き具合が華奢で悪かったねっ!

 あなただって似たようなものでしょうにっ!いやもっとか?

 なんかお腹以外ちょっとごりごりしてたからねっ!


 あと、ラブナの何でもユーア基準って正直恐いんだけどっ!


 それとユーアは何で、あちこちの話に加わって得意げな顔してるの?

 ちょっとドヤ顔に見えるよ?それも可愛いからいいけどねっ!


 あ、それとあまり変なこと言わないでね?

 そんな事したらお姉ちゃん落ち込んじゃうよ?

 また引きこもるよ?




※※※※




「こっちは準備できたよ――っ!!」


 そんなわちゃわちゃしてるシスターズたちの輪に入らないように、私はアマジ陣営に向かって声をかける。


 シスターズのみんなに声掛けるとなんか巻き込まれそうだしね……


「ああ、わかった」

 と不機嫌を前面に出して答えるアマジ。



 よし、これで最後の戦いだ。



 冒険者チームの勝利は二戦目で決まっているけど私には私でやる事がある。


 先ずはこの世界における強さの認識の修正。

 それに数多の魔法や特殊能力の把握。


『この世界に来て私はもう一人じゃない。今はバタフライシスターズのリーダーだ。だから私の半端な知識でパーティーを危険にさらしたり、あわよくば全滅する恐れもある。だからただ勝つなんて楽な事はしない。全ての強さを糧にして吸収してやる――』


 個として強さなんてものは、私個人だけの物。

 元々はユーア一人を守れる力があればそれで良かった。


 でも今は守るべき者も背負うべき物も増えた。



 だから私が今欲しいのは[全]としての強さ。

 [全]てを見極め[全]てから守る力。



『……けど最終的には[個]が[全]を超える圧倒的な[個]の力が欲しい。ナジメもナゴタたちも、たった数日で強くなったように私も力を手に入れる。だからもっと強さに貪欲になってやる。みんなを守りながらでもねっ』 


 私は強く心にそう決めて戦場となる広場に目を向ける。


 アマジはもう武器を手にして待っている。



「それじゃみんな行ってくるね」

「スミカお姉ちゃん、ほ、本当にあのぉ……」 


 広場に向かう私にユーアが躊躇いがちに声をかけてくる。

 どうやら何だかんだ言っても不安なんだろう。


「うん、だから心配しないでいいよ。我儘なのは自覚してるしね」

 後ろを振り返りいつものようにユーアを撫でる。


「わ、分かりましたボクはスミカお姉ちゃんを信じて待ってますっ!」 

 ユーアは私を見上げてそう答えてくれた。


 そんなユーアに続けてみんなも、


「お姉さまっ!どうかお気を付けてっ!」


「お姉ぇっ!任せたぞっ!」


「スミ姉、アタシは別に心配してないわよっ!だって、そのぉ……」


「わはは、相変わらずラブナは面倒な性格しておるのぅ。じゃがわしもラブナと同じで心配してないのじゃ、きっとそれはねぇねだからじゃなっ!」


『わう~んっ!!』


「うん、みんなありがとうね、それじゃ行ってくるよっ!」


 そう言ってみんなは私を送り出してくれた。

 私は笑顔で手を振ってみんなに答えた。


『私はみんなを守るつもりだけど、でもそれは違ったね。だって私は――』


 守るつもりがこうやってみんなに守られていたんだもん。

 みんなは私の心を守ってくれていた。


 そんなみんなから守られる私はまだ弱い。

 だからみんなと一緒に強くなっていく。



 この世界で楽しく生きるために。




※※※




「ふん、どうやらくだらない話も終わったようだな」


 アマジが待つ広場に着いた早々、

 不機嫌さを隠しもしないで開口一番煽ってくる。


「まあ、ね。でもくだらなくはなかったよ。私にとってはね」

「俺には無駄な時間にしか感じなかったがな。冒険者どもの戯れなど」

「ふ~ん、別にいいじゃんそんな事。それにもう勝負はついている事だしね、私たち冒険者チームの勝ちって事で」

「…………チッ、相変わらず一々勘に障る奴めっ」


 アマジは私の挑発に舌打ちし鋭い視線を向ける。


『へ?』


 私はアマジが選んだ武器を見て目を見張る。


 右手に長剣。


 左手に――


『両手斧?』

 

 アマジは刃の部分が自身の横幅よりも大きい斧を持っていた。

 それも片手で軽々とだ。


 ゴナタの愛用のウォーハンマー程の重量はないけれど

 それでもかなりの重量はある。


『これは身体強化の魔法なの?それとも特殊スキル系……』


 私はその正体を見極める為にアマジの構えに注視する。


 が、ここで突然。



「なんだお前ら。ここで何をしているんだ?」



「えっ!?」

「っ!!」


 広場向こうの森の中から一人の長身体躯の中年男が現れたのだった。


 誰?なの。

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