第544話一番の妹の元に集結する妹たち+α




 バンッ!


 ダダダダダッ――――――



「な、なぜユーアさんがスミカさんの真似をっ?」

「そんなの決まってんだろッ! どうせアイツらに頭きたんだろッ!」

「かもしれぬっ! それにユーアの様子が一番変じゃったからのっ!」


 ギュウソの報告を聞いて、急ぎ、階段を駆け下りるルーギルとナジメとクレハン。

 2階にある来賓室から飛び出し、ギルド裏の訓練場に向かう。


 その際1階には、冒険者のみならず、ギルドの職員の姿さえも見当たらなかった。

 外の騒ぎを聞きつけて、みな訓練場に集まっているのだろう。 




「おい、お前らちょっと前を開けてくれっ! ルーギルさんたちを連れてきたぞっ!」


 案の定、訓練場の周りには人だかりが出来ていた。

 ギュウソを先頭に、人込みを搔き分け前に進む三人。


 その集まった観衆の多くは冒険者だったが、一般人も多数混ざっていた。

 恐らく周りの騒ぎに釣られて、何のことかも分からず集まったのだろう。



「ユーアっ! 大丈夫かっ!」


 小柄な体格を生かし、人混みを抜け、ナジメが一番にユーアの元に辿り着く。


 そんなユーアは蝶の格好をし、訓練場の中央で、蝶のマスクの男5人を相手に、険しい表情で何やら言葉を交わしていた。



「あ、ナジメちゃん、来てくれたんだっ!」


 ナジメの姿を確認し、いつもの笑顔に戻るユーア。 


「うむ、来るのは当たり前じゃろ? ねぇねが留守中は、わしが長女じゃからな。して、こ奴らが蝶の英雄を名乗っている者たちじゃな?」


 ユーアを守るように割って入り、鋭い視線を男たちに向けるナジメ。

 そんな男たちは色違いの、蝶の羽根をあつらえたアイマスクをしていた。



「うん、このおじちゃんたちがそうだよ。ボクと模擬戦するって」

「それで、どういった成り行きで、こ奴らと揉めておるのじゃ?」

「あのね、このおじちゃんたちが――――」


「ああんっ! また子供が出しゃばってくるのかよっ!」


 突如現れた、小柄なナジメを見て、仲間の一人ががなり立てるが、



「うるさいっ! 小童は邪魔じゃっ!」


 ダンッ!


「「「なっ!?」」」


 ナジメが男たちを一喝し、地面を強く踏みしだくと、ドーム状の壁が男たちを包み込んだ。


 それはナジメが得意とする土魔法の『土鉄壁』だった。

 その表面は黒い光沢を放ち、少しの凹凸さえ見当たらない、精巧で頑強なものだった。

 


「ふん。これで少しは大人しくなるじゃろ。して、ユーアはどうしてこうなったのじゃ? あとねぇねの衣装はいつの間に用意したんじゃ? ケガとかしてないのか?」


 男たちを閉じ込めた壁を一瞥し、次にユーアに優しく尋ねる。 


「うん、ボクは大丈夫だよ。それでこのおじちゃんたちはね、ニスマジさんのお店で泥棒してたんだよ。あ、このお洋服はニスマジさんが作ってくれたんだっ!」


「む? そうなのか? じゃが泥棒の件はニスマジの店の事じゃろ? ユーアが口を挟む必要はないのではないか?」


「うん、そうなんだけど、でもスミカお姉ちゃんがいたらボクと同じことすると思うんだ。ニスマジさんはボクが冒険者になった頃から優しくしてくれたし、スミカお姉ちゃんはいつもお買い物してるし」

       

「うむ、言われてみればそうじゃな。ねぇねはシスターズのわしらだけではなく、ねぇねに関わった者たちを大事にしておるしな、ふむ」


 ユーアの話を聞き、今までスミカが連れてきた者たちを思い出す。


 直近では、酪農が盛んなナルハ村から連れてきた、イナとラボの親子。  

 その前では、魔法使いパーティーのロンドウィッチーズやスラム街のみんな。


 そして今現在は、謎の少女マヤメと、クロの村に在住しているジーアを気に掛け、行動を共にしていると思われる。

 

 そんなスミカは、一見すると欲がなく、何事にも物怖じしない、冷静で淡白な性格に見えるが、それでもその心根はとても優しく、広くて暖かい。


 だから自身にはその気がなくとも、関りを持った者からは好かれるし、ここ一番では頼りにされ、仲間からは絶大の信頼と共に尊敬されている。


 それがこの街の『蝶の英雄』ことスミカだった。

  

 そもそも、英雄とされる条件や定義があるかは不明だが、それでもこの街の英雄は、誰よりも英雄らしく、誰からも英雄とみられ、誰にでも英雄とされている。


 シスターズの中でのスミカはそんな存在だった。


 だからこそユーアは―――― 



「それとね、あのおじちゃんたち、スミカお姉ちゃんの事を馬鹿にしたんだよ。ボクを助けてくれて、美味しいものも住むところも、綺麗なお洋服も用意してくれた、ボクの大好きなスミカお姉ちゃんを。だから…… 許せないんだ」


 だからこそユーアは怒りを露にし、小さな拳を握る。

 英雄云々の話ではなく、自分を助けてくれた恩人として、大切な姉として。



「そうじゃな。なら思う存分やるといいのじゃ。じゃが頭に来てるのは、何もユーアだけじゃないぞ? わしも勿論じゃが、それよりも――――」


 男たちを閉じ込めた、土壁のドームに視線を向けるナジメ。

 ユーアも気付いたようで、にっこりと笑みを浮かべる。


 そこには、



「もう、ユーアったら、アタシたちを抜いて勝手に始めないでよねっ! アタシだってアイツらをボコボコにしないと気が済まないのよっ!」


「ふふ、そうですね、ラブナ。私も同意見だわ。お姉さまの名誉に泥を塗る輩を、これ以上野放しに出来ないわ。あなたもそうでしょ? ゴナちゃん」


「うん、ワタシもナゴ姉ちゃんとラブナと同じ気持ちだっ! だからお姉ぇをコケにする奴らなんて許せないっ! ワタシが思いっきりぶっ飛ばしてやるっ!」


『ガウッ!』 


 そこには、Bシスターズのリーダーを抜いた全員が集結していた。

 

 ラブナはいつもの仁王立ちで、ナゴタは胸の前で腕を組み、ゴナタは頭の後ろに両手を回し、皆それぞれに、ユーアの顔を見て深く頷く。

 そして最後のハラミは『フレキシブルSバンド』で、2倍ほど巨大化していた。


 しかもその全員が全員、蝶のアイマスクをしての登場だった。



「ふむ、これでどうやら役者が揃ったようじゃの。して、ニスマジとロアジムは何しに来たんじゃ?」


 シスターズの裏にチラチラと、見え隠れしていた二人。

 いや、隠れているかというよりかは、見付けて欲しそうに顔を出していた。



「何しにって、忘れたのかナジメよっ! ワシはBシスターズを専属の冒険者にしているのじゃぞっ! だから来るのは当たり前じゃっ! まぁこの様子じゃとワシの出番はなさそうだから、冒険者として見守るつもりだがなっ! ユーアちゃんやシスターズの活躍を観たいしなっ!」


「あら、お久し振りね、ナジメさま。わたしはルーギルに用事があってきたのよぉ。あとそれと、ユーアちゃんの様子を見にね? それじゃわたしはこれで」


 ロアジムはナジメの傍に、ニスマジはユーアを一目見た後で、人混みの中に消えて行った。ルーギルを探すためにここを離れたのだろう。



「そう言えばロアジムはどうやってこの事を知ったのじゃ? 随分と屋敷に籠っていた様子じゃったが。先日わしが訪ねた時も、忙しい忙しいと嘆いておったのに」


 一人残ったロアジムにナジメが問いかける。

 

「ああ、それはゴマチじゃよ」


「ゴマチじゃと? ああ、時折息抜きに街に行ってると言っておったの」


「そうなのじゃよ。ゴマチは度々屋敷を抜け出しては、街かユーアちゃんのとこに行っておるのじゃ。どうやら勉強もそうじゃが、屋敷にじっとしておるのが苦手らしい」


 そう溜息交じりに話すロアジムの口調には、さほど真剣さを感じない。

 何だかんだ言いながら、内心では容認しているって事だろう。



「まぁゴマチは幼いころからお転婆じゃったからの。いきなり押さえつけられては窮屈じゃろ。それでそのゴマチを教育しておる、父親のアマジはどうしたんじゃ? ゴマチと一緒に屋敷におるのか?」


「うむ、それがな、朝から姿が見えないんじゃよ。何やら早朝にゴマチと出かけたと、ワシのとこの女中が言っておったのじゃが……」 

 

「ふむ、そうか。ならこのまま続きを始めるとするのじゃ。そもそもあの親子は冒険者ではないしの。巻き込むのも筋違いじゃろうて」


 ロアジムに軽く頷き、男たちの魔法を解除しようと、ナジメが手をかざした瞬間、



 ボゴオォォォォ――――――ンッ!! 



「な、なんじゃあっ!?」


 男たちを閉じ込めた、ドーム状の魔法が粉々に砕け崩れ落ちた。 

 そしてその後ろから、ナジメの魔法を破壊した何者かが姿を現した。



「ふん、さすがは大陸一と言われる土魔法ではあったな。全力でようやくって感じだったぞ」

「いやいや、さすがは親父だってっ! みんなもびっくりしてるってっ!」

「親父?」

「あ、違うっ! お父さま、みんなも驚き仰天してますわっ!」

「まぁいいだろう。良くできたなゴマチ」

「うん、じゃなく、はいですわっ!」


 その正体は、片手にメイスを握り、一人娘のゴマチを肩車しているアマジだった。

 そんな親子も揃って、蝶のアイマスクをしていた。



「な、なぜお主がここに来たのじゃっ!?」  

「ふむ。やはり来おったなっ!」

 

 思いがけない人物の登場に、真逆の反応をする二人。 

 ロアジムはどこか察していたようだが、ナジメは予想外の登場で驚いていた。



「何故とはどういうことだナジメよ。俺はスミカにもその妹にも恩を感じている。だから我慢できずに出てきた。ゴマチも同じ気持ちだ」

  

「じゃが、お主は冒険者ではないのじゃ。わしだって気持ちは同じじゃ」


「冒険者? ならこれがその証拠だ」


「証拠じゃと? うぬ? こ、これは――――」


 アマジが差し出したものを見て言葉を失うナジメ。

 それは紛れもなく、自身が冒険者だと証明する、冒険者証だった。



「はーん、じゃからアマジは早朝から出掛けたのじゃなっ! これはワシも一本取られたなっ! わっははははは――――っ!」


 そしてその後ろでは、そんな息子の姿を見て、高笑いを上げるロアジムがいた。



 こうして、蝶の英雄が何者かも知らずに、その名を語り、私腹を肥やそうとする愚かな5人組と、蝶の英雄を知ってるからこそ、それを許さない冒険者たちとの戦いが始まるのだった。



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