第366話種明かしと女ったらし




「あ、そう言えば、スミカさま。これ、ありがとございました」

「わたしもありがとうです」


 全員揃って腰を上げ、訓練場を後にしようとしたところで、マハチとサワラから白い球を見せられる。


「あれ? これって…… 『インスタント・Bフィールド』?」


 見覚えのあるマジックアイテム見て聞き返す。


 これはノトリの街のあしばり帰る亭で、シクロ湿原に向かう前に、宿に残るマハチたちの護身用として渡したマジックアイテムだ。光を放つ間は絶対障壁を張れて、ダメージの大小にもよるが、最低でも1時間は持続するアイテム。



「はい、そうです。スミカさまからいただいた魔法壁の魔道具です」

「あ、これを使ってナゴタとゴナタの攻撃を防いでたんだ」


 見せられたアイテムからそう判断する。

 さすがにリブたちでは、二人の猛攻を凌げる方法はなかっただろうから。


「はい、ただ効果は凄いですが、ナゴタさんたちには数分で壊されました」


 今度はサワラが答えてくれる。


「えっ!? 数分? 数十分ではなくて?」


 聞いた答えに驚き、思わず聞き返してしまう。


 マジか?

 ゲーム内でも数分で破壊するなんて、Aランク相当の武装じゃないと……



「本当みたいよ。魔道具使ってすぐに、そこの爆乳の姉の方から、私の魔法を止めてって言われたしね」

 

 リブがナゴタとゴナタを見ながら、ジト目でそう教えてくれる。

 

「ん~ …………」


 その際、爆乳はどっちもなんだけどってツッコミは控える。


 恐らくリブは姉妹を許してはいるが、マハチとサワラの女装の切っ掛けになった、その巨大なものは許してはいないだろう。

 自身には全くないものだから尚更だ。



「そうなんだ…… それには少し驚いたよ。比べるのもあれだけど、通常状態の私でもあれを無効にするのには骨が折れるからね」


「へぇ~、スミカでも苦労するんだ。さすがは二つ名を持つ冒険者って事か」


 感心したように、今度は真面目な顔で二人に視線を這わす。


 そんな話の渦中にいる、二人の姉妹は、


(ふう~、あれはお姉さまの魔道具だったのねっ!)

(だよなぁっ! やっぱりお姉ぇだなっ! あんなの持ってるのはっ!)


 コソコソと、背中を向けて内緒話をしていた。

 何やら私たちのやり取りを聞いて安心したらしい。



※※



「それじゃ、ナゴタとゴナタはまだ冒険者の訓練を続けるんだ」


 近寄ってきた冒険者たちに笑顔を向ける二人に確認する。

 何故か私の周りにはリブたちしかいないのは、あの実態分身のせいだろうか?



「はい、そうですね。まだ午前中なので」

「それにムツアカさんが午後から来る予定なんだっ!」


「ムツアカ? ああ、あのおじさま来るんだ。なんか面白そうだけど、私たちも午後は貴族街だから時間が無いんだよね。なら、みんなでこれを食べたら? もうすぐお昼だしね」


 アイテムボックスより、大型コンロと各種、肉と野菜を出していく。

 オークやトロール、虫の魔物も並べていく。


「え? こ、こんなにいいんですか、お姉さまっ!?」

「うわっ! トロールまであるよっ!」

 

 その量と種類を見て目を見張る姉妹。


「うん、二人もみんなも頑張ってるし、訓練場を占領しちゃったしね。その労いと迷惑料を込めてって感じ」


 冒険者へのご機嫌取りだという事を悟られないように答える。


「でも、訓練場の件は、お姉さまが気に病む事ではなく、元々私たちが……」

「うん、うん……」


「でも、少なくとも私も関わってるし、それにナゴタとゴナタを守るってのも、それに含まれるんだよね。これは私のわがままかもだけど」


 申し訳なさそうに、もじもじとお互いを見やる二人にその訳を話す。


「お、お姉さまっ! そこまで私たち姉妹の事をっ!」

「お姉ぇっ!」 


「な、なにっ!? わわっ!」


 いきなり両脇から二人に腕を抱かれて驚く。

 私の腕がムギュと、その柔らか物体に埋没し、その感触に硬直する。


「私たちは強くなって、もっとお姉さまのお役に立てるように頑張りますっ!」

「だからずっと一緒にいてくれよなっ! お姉ぇっ!」


 私を挟み込んで、懸命な表情で話す姉妹。

 何か、不安を感じる事があったのだろうか?


「ま、まぁ、私も二人が強い方が嬉しいけど、そこまで気合入れなくても大丈夫だよ。それに一緒にいるのは当たり前でしょう? 二人は私のパーティーメンバーなんだからね」


「はい、お姉さまっ!」

「うん、うんっ!」


 理由は良く分からないけど、二人を励ますような感じで話をした。

 それに対して、笑顔で快活に答える姉妹。



 そのやり取りを、ここまで見ていた赤髪の魔法使いは……


「はぁ~、スミカって何気に女ったらしよね? そうやってこの乳姉妹だけではなく、ユーアちゃんやラブナちゃんもナジメさまも堕としたのね? それにマハチとサワラも……」


 ブツブツと恨み言なのか愚痴なのか、聞こえるようにそんな事を呟いていた。


 って、言うか、女たらしって何? 聞き捨てならないんだけど。

 私もれっきとした乙女だし、リブと違って真っ平じゃないからね。



「さぁ、そろそろ孤児院に戻ろうか? ナゴタたちも引き続き頑張ってね。それとムツアカにもよろしく言っといて」


「はい、ありがとうございます。お姉さまっ!」

「うん、お姉ぇの事たくさん伝えておくなっ!」


 こうして、ひと悶着はあったけど、リブたちはナゴタたちと和解して、私たちは冒険者ギルドを後にした。


 そんな二組は傍から見ても、かなりの距離感を感じるけど、数日顔を合わせればきっと距離は近づくと思う。


 だって、ナゴタとゴナタはもちろん、リブたちも私の大のお気に入りなのだから。



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