第341話スミカの理由
「これで私が受けた依頼はわかったよね? 後はコムケの街に連れ帰って終了…… なんだけど、もう少しだけ宿にいてくれない? 確かめたい事があるから」
部屋を見渡し、軽く頭を下げる。
そんなみんなは私に注目して首を傾げる。
話の内容がわからないからだ。
ただラブナは何かを察してか、真剣な面持ちに変わる。
「え? これ以上何があるのよ? 私たちを送って依頼達成なのにさ」
「「「………………」」」
リズが一番に反応し怪訝そうに聞いてくる。
「ん~、この街の状況をこの『あしばり帰る亭』まで見てきたけど、お店や街の人たちも活気が無かったよ。リズが教えてくれたシクロ湿原の魔物のせいで、陸路での往路が出来ないんでしょ? だから確認に行きたいんだよ」
そしてその影響が続けば、北西からの流通も止まる事になる。
それとシクロ湿原からの恩恵も受けられなくなる。
「でも、それはスミカとラブナの仕事ではないよね?」
「うん、まぁ、そうなんだけど…… あれ? 名前教えたっけ?」
リズに呼ばれて気が付いたけど、私たちは自己紹介をしていない。
「何言ってるのさ。ロアジムさんからの手紙に色々書いてあったわよ」
「色々って?」
「わたくしたちへのものにも色々と注意事項が記載されていました」
「え? 注意事項?」
リズに続き、孤児院のお手伝い組の一人からそう告げられる。
名前は『エーイ』さん。
「一つ。『スミカちゃん及び、メンバーには余計な詮索はするな』って」
「え?」
手紙を取り出し、リズが最初に読み上げる。
「二つ。『何があってもスミカちゃんに関わることは口外無用』と」
「う、うん」
次はお手伝いのエーイさんも同じ様に読み上げる。
「三つ。『常識はずれな突飛な事をするが、出来れば協力して欲しい』とも」
「はぁ?」
一体ロアジムは何を約束させているんだろう。
ありがたいって言えばありがたい。
けど私はただの蝶の衣装を着た、お淑やかな女の子だよ?
色々と贔屓し過ぎじゃない?
「四つ目」
「最後ですね」
「ってか、まだあるの?」
「「『全般的にスミカちゃんたちの言動と行動には信を置く事。そこに間違いはない。それと上記の約定を破ると――――』」」
「破ると?」
「「『税が倍額になり、10年間鉱山労働』だそうよ(です)」」
最後は二人で読み合い、各々丁寧に手紙を懐にしまう。
さすがに証拠隠滅って訳にはいかないだろう。
「マジでそんなこと書いてるの?」
リブとお手伝いさんのリーダ―のエーイさんに聞き返す。
「本当よ。最初信じられなかったけど」
「ロアジムさんがここまで特定の人を優遇するなんて今までは無かったですし」
「へ~、そうなんだ。でもあの人冒険者オタクだよね? だからじゃない」
「おたく? 良く分からないけど、私たちも結構気に入られてるのよ? 今回の依頼だって直接ロアジムさんが推薦してくれたし。なのに――――」
「スミカさんの言う通り、贔屓目に見ている冒険者はいましたが、ここまで極端にする事もなかったですわ。一体スミカさんは――――」
「う、うん……」
何だろう?
気のせいか二人の視線が恐いんだけど。
いや、二人って言うかラブナを除いたみんなの視線が私に……
「「「その幼さで一体何を、貴族でも爵位が―― はっ!?」」」
「?」
「なに?」
声を揃えて慟哭にも似た絶叫を上げるみんな。
ただ途中で口を塞ぎ、その後は言葉がでなかった。
きっとロアジムとの約定に抵触する何かなのだろう。
――――
「そんな訳で、依頼ではないけど、私とラブナはシクロ湿原に確認に行ってくるよ。その間の護衛はリズたちに任せるから。まぁ、街中なら安心だろうけど。それじゃラブナ案内お願いね」
「うん、分かったわよっ! スミ姉」
「ちょっと待って、私も行くわっ!」
ラブナを連れて部屋を出た所でリブが付いてきた。
「え? リブには念のため残って欲しいんだけど」
「お願いっ! このままではロアジムさんにも合わせる顔がないのよっ! せめてあいつらの正体だけでも知らせたくてっ!」
「それは私がやるからいいよ。それにマハチとサワラだってまだ完全ではないでしょう? 大事な仲間なんだから看てあげてた方がいいんじゃないの?」
チラと扉に目を向けリブに戻す。
正体不明の衰弱と体力は治ったけど、それでも衰えた分の体調はまだだ。
ガチャ
「スミカさん。どうかリブ姉さんもお願いします」
「リブ姉がいなくても、わたしたちは問題ないです」
扉が開かれ、話の渦中のマハチとサワラが顔を出す。
「はぁ? なんでそこまでするのよ。スミ姉がいれば全部解決しちゃうわよ? 宿でゆっくり待ってればいいんじゃないの?」
ラブナが私の代わりに答えてくれる。
言い方はあれだが、それでも心配しているんだと思う。
「……………… が、のよ」
「なに?」
俯き小声で話すリブに聞き返す。
「あそこまでロアジムさんが支持するスミカたちを見たいのよっ! それにやられっぱなしだなんて悔しいじゃないっ! 嫁たちが危険な目にあったのにっ!」
顔を上げ、マハチとサワラを見やり声高に話すリブ。
それを優しい表情で見守る二人。
最後の一言は余計だったと思うけど。
「あ、あとは、私はまだお礼を言って…………」
「わかったよ。それなら一緒に行こうか。そのリブの鬱憤を私が晴らせる手伝いが出来るかもだから。ラブナもそれでいいでしょう?」
「スミ姉がいいって言えば、だれも反対なんてしないわよっ!」
どうやらラブナも問題ないようだ。
いくらリーダーでも私の独断だけでは決めたくないしね。
「なら残るマハチたちには、これを渡しておくよ。ポケットにでも入れといて」
私はエーイさんも含めて、人数分のアイテムを渡す。
見た目は感触が柔らかい卓球ボールのようだ。
「何ですかこれ?」
「プニプニして柔らかいです」
「ああ、それはね――――」
同じものを取り出し、二人に説明する。
【インスタント・Bフィールド】
一人分を覆う、簡易的な絶対障壁が張れる。
球体を押している間だけ発光し、効果が続く。
持続時間は1時間で、攻撃を受けるたびに光が弱まり時間が減る。
使い捨て。
「はぁ? こ、これマジックアイテムなんですかっ!?」
「み、見た事ないですっ!」
「一応逃げる時には役に立つと思うから、何かあった時には気にしないで使ってよ。それと強力な攻撃だと、一気に持続時間が減るから気を付けて」
説明を聞いてわなわなとアイテムを見つめる二人。
そんな強力なアイテムではないけど、逃走には十分使えるものだ。
「ス、スミカ、こんなアイテム普通に配るなんてあり得ないわよっ! ロアジムさんが色々と気を使ってるのがわかる気がするわっ! そんなもの知られたら、それこそ襲われても仕方ないものっ!」
受け取るマハチとサワラを見て、恐々と自分を抱くリブ。
かなりの心配性に見える。
「なんなら、リブにもあげるけど」
「うっ? 欲しいけどいらないわっ! なんか恐いからっ!」
受け取ろうと手が伸びてきたけど、すぐさま片手で引き寄せる。
「あ、そう」
まぁ、私が一緒にいるんだから、必要ないと言えばそうなんだけどね。
「ほら、いつまでも話してると遅くなるわよっ!」
さっきまでやり取りを見ていたラブナが、気付けば先に歩き出していた。
きっといい加減飽きたんだろう。
「それじゃ、マハチとサワラはエーイさんたちをお願いね。私たちは行くから」
「はい、お任せください。スミカさん」
「リブ姉をよろしくです、スミカさん」
そうして居残り組にも別れを告げて、私をラブナとリブで街の外に出た。
目的地はもちろんシクロ湿原。
それと目的は――――
『―――― 恐らくだけど、またアイツらが関わってきているはず。腕輪の魔物をあちこちに配置している、あのプレイヤーたちが。だから今度こそ尻尾を掴んでやる。いつまでもウロウロされたら目障りだしね』
リブが戦ったという、リザードマン風な魔物を思い浮かべてそう思った。
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