第342話リブの本音と覚悟と
私とラブナ、それとロンドウィッチーズのリーダーのリブと一緒に、街の門を守る門兵さんに挨拶をして街を出た。
その際に門兵さんに行き先を聞かれたので、そのまま答えた。
「…………そうか、シクロ湿原に行くのか、なら気を付けて行って来い。お前たちに期待しているが、必ず全員無事で帰ってこい。だから絶対に無理はするな。俺はこの街を守ってお前たちの帰りを待っているぞ」
目的も教えてないのに、一人一人背中を叩かれ門兵さんに送り出された。
確かに無理はするつもりはないが、場合によっては無茶はすると思う。
アイツらが、私たちのテリトリーに踏み込んでくるなら容赦はしない。
※※
「ここからだと北西に伸びる街道を歩いて2時間ぐらいだわ」
リブが先頭に立ち、街道の先を指さし方向を教えてくれる。
「なら、ラブナじゃなくそのままリズに案内してもらおうかな? それじゃちょっと急ぐから、この魔法壁の上に乗って」
私の隣に透明壁スキルを展開する。
色は今日の天気を模してスカイブルーにしてみた。
「え? これに乗るって事? これ魔法なの? 大丈夫?」
「不安ならアタシが先に乗るわよっ! ほら大丈夫でしょっ!」
怯えるリブに見かねて、ラブナが先に乗り後を促す。
「………… あ、本当だわっ! ってか、これ何の魔法なのっ!?」
乗ったはいいが、得体のしれない魔法に興味津々なリブ。
自身も魔法使いだから余計だろう。
ペタペタと真剣な表情で透明壁を触っている。
「えっ!? 何の魔法って…… オリジナル?」
「いや、私に訊かれても知らないわよっ!」
「………………」
いや、私も詳しくは知らないんだけど。
そもそも魔法じゃないし。
「リブさんっ! スミ姉の事は詮索したらルール違反だわっ!」
「へ? あっ! むぐぅっ!」
指を付きつけ、リブに警告するラブナ。
そして思い出したかのように自分の口を塞ぐリブ。
「まぁ、そんな訳だから、何も聞かないでくれると助かるかも。リブも鉱山で仕事するの嫌でしょう? 冒険者なんだから」
「う、うん、分かったわよ。そう言う事なのね……」
リブは何か言いたそうだったけど、勝手に納得してくれた。
そしてロアジムの手紙にも助かったと思った。
「それじゃ早速出発しようか」
シュタタタタ――――
私は駆けだすと同時に、スキルを追尾状態にする。
これなら操作しなくて楽ちんだ。
「ちょ、ちょっとっ! もの凄い速いんだけどっ! ってか、なんでスミカは走ってんのっ! そもそもこの魔法って乗り物なのっ!? このまま走っていくのっ!? ね、ねぇ、ラブナちゃんっ!」
走り出した瞬間、錯乱したように叫びだすリブ。
さっきのルール云々の話は、もう忘れてしまったようだ。
「もうっ! リブさんうるさいわよっ! アタシだってなんでこうするかなんて知らないんだからっ! もうこんなもんだって諦めた方が良いわよっ!」
混乱状態のリブに、それを適当に宥めるラブナ。
そんな二人を乗せて、目的地のシクロ湿原を目指して疾走する。
――――
「あそこ一体がシクロ湿原よ。それであの大きな塔から橋が中央で別れて、それぞれ目指す街へ行けるわ」
シクロ湿原を遠目に、近くの小高い丘の上から眺める。
「へぇ~、結構きれいじゃん。大きな森もなくて、花も咲いてるし」
「アタシは前に通ったけど、本当にいいところよねっ!」
ラブナと二人でそれぞれに感想を言う。
こうして見るまでは、薄暗くてジメジメした大きな沼を想像していた。
ただ実際に丘の上から見るシクロ湿原は、広大なのは変わらないけど、背の低い水草が多く茂っていて、色とりどりの花が水面に浮いていて、湿地帯っていうより広大な花畑にも見える。
遠目には数本の塔らしきものも建っていて、そこには窓や手すりらしきがものが見える事から、休憩所か展望台もあるようだった。
「まぁ、一応ここは観光名所にもなってるのよ。それと、ここで採れる魚や魔物が食材としても有名だからね。私たちが泊まっていた宿も、その食材を使った料理で人気なのよね」
一歩引いたところからリブがそう教えてくれた。
私たちより後ろにいるのは、きっと神出鬼没の魔物を恐れての事だろう。
一度の遭遇でリブのパーティーが全滅しかけたのだから。
それにしても――――
「あのさ、そのリザードマンもどきって、何体いたとかもわからない?」
視界を索敵モードにしながら尋ねる。
広大なのでさすがに全部は映らないけど。
「え? あ、ああ。私たちが確認できたのは5体だけよ」
シクロ湿原から視線を戻して答えるリブ。
「何で5体? 逃げるので精一杯って言ってなかった?」
「うん、一瞬だけ見えたのが5体だけだったのよ。もしかしたら他に消えてたのも含めると、もっとたくさんいたかもしれないけど……」
「ん~」
見える範囲内には索敵に何も映らない。
何か出現する場所とか条件があるのだろうか?
「で、リブたちは湿原のどこで襲われたの?」
「向こう側の橋を半分ぐらい渡ってからの塔の分岐のところよ。気が付いたら囲まれてたわ」
「気が付いたら?」
「そうよ、物音や水音がしたと思ったらいきなり真正面に現れたの…… そしたらマハチとサワラが私を庇って傷を負いながら反撃したの。その後は二人を馬車に乗せてガムシャラに逃げてきたわ。そして昏睡状態のまま何とか街へたどり着いたって訳ね……」
説明しながらその時の光景を思い出したのか、自分の体を抱くリブ。
よく見ると両腕が微かに震えている。
「………………」
「スミ姉…………」
その怯える姿を見て、ラブナが私を見る。
「……ごめんね、詳しく聞きたくて、変な事思い出させちゃったね」
「いいのよ。って言うか、冒険者なんだから死と隣り合わせなのは覚悟しているのよ。そう言う職業だからさ、ただ――――」
「うん」
「――ただ、正体も何もわからないアイツらに、大事な者をいきなり奪われそうになったのが怖かった。一方的に攻撃され、蹂躙されたのが恐ろしかった…… こんなんじゃ私、冒険者失格よね? あはは……」
そう顔を上げたリブは、微笑んでいたが無理をしているのはわかる。
誰だって大事な者が訳も分からずに殺されるなんて許容できないだろう。
「でも、何でそこまでしてここまで来たの? 敵討ちって訳でもないし、一矢報いるとも違うよね? 話だけだったら宿でも聞けたし」
「それはね、私はあの娘らの保護者兼、リーダーだからよっ! だから負けっぱなしは許されないし、そんなんじゃこれからも冒険者としてもやっていけないわっ!」
私の問い掛けに、勢いよく顔を上げて答えるリブ。
更に続けて、
「それにこのまま逃げたらカッコ悪いじゃないのっ! あの娘たちには頼りがいのある私でいたいのよっ! これからも守れるって証明したいのよっ! だってあの娘たちは私の嫁なんだからっ!」
グッと拳を握り、湿原に向かって咆哮するリブ。
ここまでハッキリと言われると逆に清々しい。
「……まぁ、理由はどうあれリブの想いの強さはわかったよ。ならこれを貸してあげるから、カッコいいところ見せてよ。はい、ラブナにも」
リブに渡すついでにラブナにあるアイテムを渡す。
「え? なんでこんな時にチョーカーを付けるのよ? って、スミ姉の出すものだから、ただのお洒落って訳じゃないわよね?」
「これもスミカに訊いちゃうとダメな系?」
二人は興味深く渡した黒のチョーカーを眺めた後、そのまま首に着ける。
「うん、それはお洒落って訳じゃなくて、れっきとしたアイテムなんだよ。効果のほどは大したものじゃないけど、きっと二人にはピッタリなものだから」
「ふ~ん、なんだかわからないけど、ちょっとだけ楽しみだわっ!」
「う~ん、良く分からないけど一応借りるわね」
そうして私たち三人は、未知の魔物が出没するであろう、シクロ湿原に架かる大橋に一歩踏み入れたのだった。
目指すはリブが遭遇したとされる塔の麓の橋の分岐点だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます