第404話食い違いと宣戦布告
「それは確かに恐ろしい、ですね…… お姉さまが持つ強力なアイテムと、同レベルの技術のものを、真っ当な事に使わない輩がいるなんて」
「そうだなっ! そいつらの目的はよくわからないけど、魔物に装備させて、人々を襲わせるんだから普通じゃないよなっ!」
ラブナと私とのやり取りを、神妙な面持ちで、最後まで聞いていた姉妹が口を開く。
「うむ、確かにそうじゃな。こんなものがわしらの知らぬところでバラまかれているとはのぅ。それがどこぞの誰かの仕業かもしれぬとは……」
ナジメも私たちの話を聞き、その危険性に眉をひそめる。
「確かにみんなが感じた通り、腕輪の事もそうなんだけど、それを悪用して、何かをやろうとしている存在がいるって事が一番問題なんだよ。目的も、何者かもわからないって事がね」
「それが今回私たちに、このマジックアイテムを渡したのが理由なのですね? 私たちシスターズも、その正体不明の敵と戦えと、そういう意味なのですね?」
渡されたアイテムに、視線を移すナゴタ。
それを聞いて、他のみんなもアイテムに目を移す。
その表情は一様に無表情で、心中が読み取れない。
話を聞いて、巻き込まれたと迷惑に感じているのか?
こんなアイテム一つで、危険の中に身を晒したくないのか。
「それは違うよ、ナゴタ。私はみんなに戦って欲しい訳じゃないんだ。守って欲しいんだよ。自分自身や、周りの大切な人々や住む街を。だから矢面に立つのは私だけでいい。みんなは自分に降りかかった火の粉を払うのに、そのアイテムは使ってね。そういう意味であげたんだ」
こんな戦いに、大切なみんなを巻き込む事はしたくない。
私の手が届かないところなら尚更だ。
ただそうは言っても事態は水面下では動きだしていて、意志とは関係なく巻き込まれることもあるだろう。実際には私たちの住むコムケの街のスラムや、近くのビワの森まで侵略してきているのだから。
だが、そうなった時には戦いを選択しないで、身を守る事に専念して欲しい。
それを含めての、護身用って意味でアイテムを渡しただけ。
それにこの者たちとの戦いは、そもそも私の領分だろう。
他の異世界人とのいざこざを、私が鎮圧するのは。
「違うよ、スミカお姉ちゃん。そうじゃないよ?」
ユーアがクイクイと袖を引っ張る。
「ん? 違うって?」
「うんとね、みんなも守りたいって思ってるんだよ?」
クリッとした目で見上げてくる。
「うん、だから、自分や大切な誰かを守るためにね、――――」
「それがスミカお姉ちゃんなんだよ? みんなが守りたいのは」
「え?」
言った意味が分からずに、ポカンとユーアの顔を見てしまう。
すると、
「そうなのです。ユーアちゃんの言う通りです、お姉さま。お姉さまを守るだなんて、おこがましいとは思いますが、そう言った事ではないんです」
「お姉ぇっ! ワタシたちはお姉ぇを守ってあげたいんだっ! え~と、なんて言うのかな? お姉ぇが誰にも負けないって知ってても守りたいって事だっ!」
「ゴナ師匠…… 言ってる事が支離滅裂でわからないわ。 要するに、スミ姉はアタシたちを心配してる、その気持ちを守りたいって言いたいんでしょ? アタシたちも戦って、それは余計なお世話何だって」
ナゴタ、ゴナタ、ラブナの順で、ユーアの話を代弁するように話してくれた。
「そ、それは……」
みんなの想いを聞いても、尚、口ごもってしまう。
そして心の中で葛藤する。
みんなの想いを尊重して、このまま火中の中に飛び込ませていいものか。
それか私の想いそのままに、戦いからは一歩引いてもらうのか。
「ねぇね」
思い悩んでいる私の肩をポンと叩くナジメ。
「なに?」
「ねぇねは何をそこまで悩んでおるのじゃ? みなにあそこまで言われて」
「それはもちろん、みんなの身の安全だよ」
「わしも含めて、それぞれが強者の枠組みにいてもかのぉ?」
「うん。強くてもそれは一緒」
躊躇うことなく答える。
誰だって身近で大切な者に、危険な目にあっては欲しくないだろう。
いくら強さを信用していても、それと感情の話は別だ。
「はぁ~、やはりねぇねは優しいのじゃ。わし自身は、今は活動していないが、他のみなは冒険者を生業としておる。危険など元々隣り合わせじゃろうに。それでも不安が拭えぬのかのぉ?」
「そうだね、みんなの事は知ってるし、信用もしてる。けど、それとこれとは――――」
「なら」
肩に置いたままのナジメの手に、少しだけ力が入る。
「ん?」
「明日は時間があるのじゃろ?」
「? そうだね、午後までは大丈夫だよ?」
突然の話の転換に、戸惑いながらも返答する。
「なら、午前中時間をくれんかのぉ?」
「うん、別にいいよ。みんなが好きにして過ごしても」
「いいや、みなではなく、ねぇねの事なんじゃが」
ナジメはここで置いていた手を放し、みんなの顔を見渡す。
「私? ああ、私も特に予定はないから何かして欲しいなら――――」
「なら戦ってくれなのじゃ」
「は?」
「わしも含めて、シスターズ全員と明日、模擬戦をして欲しいのじゃっ!」
「へ? うえええぇぇぇ――――っ!!」
唐突の模擬戦宣言に、素っ頓狂な声を上げて驚き、ナジメの顔をマジマジと見てしまう。
それはそうだろう。
たった今、強さに関しては信用していると伝えたはず。
なのに、またそれを混ぜ返す話になるなんて。
「なんでっ! だってみんなの事は認めてるんだよ? それなのにっ!?」
目的の意図が読めずに、上擦った声で答えてしまう。
「うむ、そうじゃっ! その方が手っ取り早いのじゃっ! みなもそれでいいじゃろっ!」
「ふんす」と鼻息荒く、他のみんなにも確認するナジメ。
「うんっ! ボクもそれがいいと思うんだっ!」
「ユ、ユーア?」
「そうですね、私もナジメの提案に賛成です」
「うん、その方が、早いしなっ!」
「ナゴタとゴナタもっ!?」
「そ、そうねっ! アタシもスミ姉の過保護っぷりには飽き飽きしてたわっ!」
「過保護なのっ!? それにラブナまで?」
『うう~』
ユーアに続き、全員一致した答えに驚く。
反対意見が出なかった事に慄く。
意味が分からない。
いや、何となくはみんなの言いたい事はわかる。
恐らく、模擬戦で実力を示して、私の考えを変えるつもりだろう。
不測の事態には、自分たちも前線で戦いたいと。
「あっ!」
ここで私はある事に気付く。
この提案に賛成していないメンバーが残っていた事に。
「ハ、ハラミはどうするの?」
おずおずとユーアの膝の上のハラミに問い掛ける。
ハラミが反対したら、ユーアももしかして……
なんて、一縷の望みを託しながら。
『きゃふっ!』
そんなハラミはユーアの胸にキュッと抱き付き、尻尾を振り始めた。
どうやら飼い主の味方をするようだ。
『そ、それはそうだよね…… ユーアはハラミの恩人だしね。裏切られたのはちょっとショックだけど。私だけ仲間外れだし…… でも、まぁ仕方ない。みんなが納得しないのであれば――――』
ガタ
私はゆっくりと椅子の上に立ち上がる。
そして、腰に手を当てシスターズ全員を見下ろす。
「わかった。なら明日は、私とみんなの実力の違いをわからせてやるっ! だから後悔しないように、全力でかかってきなよっ!」
キョトンとするみんなに、指を突きつけ高らかに宣言した。
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