第281話誰の妹?
「こんにちはナジメ様。本日はどういったご用件ですか? 」
「マスメア。今日は貴族街の先にある、孤児院の土地について聞きたいのじゃ」
後から出てきた「マスメア」と呼ばれた職員とナジメが話をしている。
見た目妙齢に近いけど、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の女の人だった。
ブロンドの髪を後ろで結っていて、眼鏡と相まって知的差が増して見える。
その雰囲気から、恐らく20代後半だと思われる。
「でしたら、別室をご用意してますので、こちらにどうぞ」
「うむ。世話になるのじゃ」
そう話す女性は、他の職員と制服の色が違っていた。
もしかして、ここのお偉いさんなのだろうか?
私も二人の後に続いて、カウンター脇の個室に入って行った。
※
商業ギルド。
この場所は、冒険者ギルドと同じ区画にあった。
そこから歩いて5分ほどの。
建屋は冒険者ギルドよりは小さく、その代わりもう一つ裏に建屋が見える。
何か別の用途がある建物だろうか。
中に入ると、通常のカウンターの他にも、一つ一つ間仕切りされた席がいくつかあった。こっちは個人での商談用だと思う。
他にテーブルセットも多くあるが、こちらは冒険者ギルドのような休憩所ではなく、そのどれもが高そうなソファーや椅子だったりする。なのでこっちもお仕事用だろう。
受付の職員は、男性が多く、見える女性はひとりだけだった。
その女性とナジメが話をしている。
女性が多かった冒険者ギルドとは正反対だった。
『まぁ、荒くれ物の多い冒険者相手には、べっぴんの若い女性の方が、揉め事がおきずらいんだろうな?』
何て勝手な自己解釈をして、ナジメの後に付いて部屋に入った。
※
「うぬ? やはり裏の雑木林は別の土地じゃったのか?」
「そうですね、ですが今は所有なされてる方はいらっしゃらないです」
別室に案内された、ナジメとマスメアが地図を広げて話をしている。
その際、チラチラと視線が気になるけど黙って見ている。
そしてナジメと一緒のソファーに座りながら、周りを見渡す。
「ふ~ん」
足元には、柔らかいカーペットが敷かれ、部屋に置いてある書棚もソファーも机も、非常に高価そうだ。美しい風景の絵画や、小洒落た置時計などの調度品もなんだか高そうに見える。
『もしかして、VIP専用の部屋だったりするのかな? まぁ、ナジメは一応領主だし、そういう待遇でもおかしくはないのかな?』
「キョロキョロ」と部屋の中を見渡して、心の中で感想を言う。
その間の二人の話はと言うと……
「なぜじゃ? 結構広い土地じゃろうに」
「恐らく土地として使うには地形もそうですが、多くの木々の伐採も必要になるからでしょうか。あと、街の外れに近いのも原因だと思います」
かけている眼鏡を「クイ」と上げて答えるマスメア。
更に続けて、
「それと、林の外れの方は、スラムと被っているというのも要因ですね」
「なるほどじゃな、う~む」
それに対し顎を引き考え込むナジメ。
「あれ? よく考えれば孤児院の跡地には、今の設置した家のまま使うんだから、土地はいらないんじゃないの?」
話が中断した隙を見つけて、口を挟む。
「うむ、確かにねぇねの言う通りなのじゃが、わしはもっと孤児院の敷地を広げたいのと、ナゴタたちを、いつまでも所在不明な土地に住まわせているのも気がかりじゃからな」
「え、設置? ねぇね? それって一体……」
何やらマスメアが反応している。
「え? もっと広くするって事?」
「そうじゃ。それと、もっと頑丈な柵を作って、子供たちには安心して伸び伸びと遊んで欲しいのじゃ。ハラミも広い方が良いじゃろうし」
「子供たち? ハラミ? は、お肉?」
「確かにナジメの言う通りだね。ナゴタたちもはっきりした方が良いだろうし。いつまでも知らないところじゃ落ち着かないだろうしね」
「え? ナジメさまを呼び捨て? ナゴタってあの?」
「うむ。じゃから、あの土地を購入するか悩んでおるのじゃ」
腕を組みながら、また悩み始めるナジメ。
「あ、あのぉ~、ちょっといいですか?」
そんな私たちに、おずおずと手を上げて声を掛けてくるマスメア。
「何じゃ? マスメア」
「あ、さっきは話を遮ってごめんね、それで何?」
そう言えば、チラチラと私を見てたし、話にも何やら反応してたね。
「もしかして、そこのねぇねさんは、スミカちゃんでいらっしゃいますか?」
「う、うん、そうだけど」
ねぇねも、ちゃんも、いらない気もするけど。
「しょ、少々お待ちください」
カチ
スクっと立ち上がり、小走りで扉に鍵をかけるマスメア。
「え? なんで、鍵?」
「はぁ~、またかお主……」
隣のナジメはそれを見て、ため息をついている。
「失礼しますっ!」
「わっ!」
「………………」
鍵を掛けて戻ってきたマスメアは、私とナジメの間に座る。
「……………??」
「~~~~~ふふ」
「…………お主は」
座るって言うか、お尻を入れて隙間に入り込んできた。
満員電車の座席に、無理やり入ってくるおばさんみたいに。
「もうここには誰も入っては来れませんっ! それであなたは『蝶々の妖精スミカちゃん』でよろしいんですよねっ!?」
「は、はぁっ!?」
私に向き合い、身を乗り出し、眩しい眼差しでおかしな事を言う。
蝶々の妖精って、蝶の英雄じゃなかったの?
いや、それよりも……
『ち、近い近いっ! 近いからっ! 何だってそんなキラキラして目で見てくるのっ! そして近過ぎだからぁっ!』
知的に見えていた、眼鏡美人の突飛の行動に驚く。
息も当たりそうな距離で、顔も近いし、胸なんか腕に当たってるし。
『E、Eランクっ!? い、いや、それよりも一体何だっていうのっ!』
私はマスメアの両肩を押して、距離を離す。
しかし、思った以上の力で「グググ」と返される。
「って、力、つよぉっ! ナジメっ!」
「♪♪」
私は後ろのナジメに助けを呼ぶ。
「ねぇねよ」
「何っ!」
「諦めてくれなのじゃっ」
「何をっ!!」
「しばらく、マスメアはそのモードなのじゃ」
「は、はぁっ!? モードって何よっ!」
迫りくるマスメアを止めながら後ろを振り向く。
一体どこからそんな力が出てるのっ!
胸以外はそんなに太くないよねっ!
「マスメアは可愛いものに目がないのじゃ。昔わしもやられたのじゃ」
どこか遠い目をしながら答えるナジメ。
「や、やられたってっ?」
「しばらくはハグさせてやってくれなのじゃ。わしの友人の妹じゃからな」
「ハグぅっ!? い、妹? それって誰のっ!」
「そういう事ですっ! ナジメちゃんの許可も取れたので少しの間だけ目を瞑っててくださいっ! なに、天井のシミを数えてる間に終わりますのでっ!」
「いや、私の許可取ってないでしょっ! それと表現が特殊過ぎっ!」
ナジメと私の会話に割って入り、更に力を入れてくる。
腕にどんどん柔らか物体が押し付けられる。 クッ!
こんな変態女の妹って、兄は誰なのぉっ!
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