第280話ナジメの気遣い




「あれ? さっきユーアたちに渡したバッグ(ランドセル)は?」


 孤児院跡地を離れて、ナジメと商業ギルドを目指して歩いている。

 その際、ユーアたちとの別れ際に、渡したものについて聞いてみる。



「あれは孤児院で使う家具や寝具などが入っておるのじゃ」

「あ、そう言えばニスマジから受け取ってたんだっけ?」

「そうじゃよ。かなり安くしてくれたのじゃっ!」

「それにしても、よくあんな変なお店知ってたね?」


 行くたびに驚かされる、ニスマジの店を思い出す。

 コスプレ集団だったり、ガチムキ露出だったり、いきなり店名変わるし。


「ロアジムに聞いて知ったんじゃよ。あ奴も冒険者じゃし」

「ああ、なるほど。そう言えば冒険者だったね」


 元々はユーアのストーカーかと思ってたけど。


「それと、そもそもわしはルーギルとパーティーを組んだこともあるから、ニスマジの事は知っておったしのぅ」


「あ、そうか、前にも言ってたもんね」


 確かにナジメと戦った時に言っていた。

 かなり昔の冒険者時代の話だっけか?


「ニスマジの奴がユーアの衣装を着ていたが、あれは何だったんじゃ?」

「う…………」

「ねぇね?」

「あ、ああ、あれは売り込みの為らしいよ」


 呼びかけにふと我に返り答える。

 あれを思い出してはいけない筈なのに、脳裏から離れない。

 インパクトって言うか、一緒の恐怖体験みたいで。



「売り込みじゃと?」


「うん。英雄扱いの私のパーティーメンバーの格好をして、宣伝するみたい。要はシスターズの人気に便乗した感じだよね。正直嫌だけど」


「それじゃ、ねぇねや、ナゴタたちのもあるのか? わしのはないのに」

「え? そもそもお店に一度行ったんでしょ? 見てないの?」


 だったら、あの異常なお店をどうにかして欲しい。

 ユーアの教育にも悪いし。



「いや、わしではなく、子供たちを世話してる女中に行ってもらったんじゃ。その方が詳しいからのぅ。じゃからわしは、ニスマジの店には行った事ないのじゃ」


「なら、行かない方がいいよ。あれはトラウマになるからね」


 なるべく思い出さないよう、心を落ち着かせ返答する。


「ううむ。やはりわしのもニスマジの店で広めて欲しいのじゃが……。 なんなら一着貸してあげてもいいと考えておるのじゃが」


「絶対にやめてっ! もう諦めてっ!」


 それが現実になったら、お店がどうなるかわからないよっ!

 元孤児院と同じ末路かもしれないよっ!


「む、むぅ。そんな反対せずともよかろうに……」 

 

 トボトボと肩を落として歩くナジメ。


「う………………」


 そんないじらしいところ見せたって無理なものは無理。

 絶対にあってはならないものだ。


「あ、私初めてなんだけど、商業ギルドって何するところなの?」


 これ以上悲しむ幼女を見てると、肯定しそうなので話題を変える。


「う、うむ。大雑把に言えば、この街の流通や仕切り価格などを決めたり、商人たちを守る協会みたいなものじゃなっ!」


 「キリ」と声質を変えて、身振り手振りで説明が始まる。

 そうは言っても、目元口元が緩んでいるけど。

 

「へ~、それじゃ物販以外にも、それを扱う人も見てるんだ」

「そうじゃなっ! 商人と商業、両方を仕切っているんじゃっ!」


 姉妹もラブナもそうだけど、私が何か聞くと嬉しそうにするよね?

 無知な私に、色々教えるのが楽しいんだろうな。


 

 その他、聞いた話だと……


 ギルドに加入しなければ、出店することができない。

 加入すれば色々な恩恵がある。

 素材の買い取りをしてくれる。

 オークションに参加できる。

 土地や建屋の売買や賃貸。

 お金を預けることが出来る。

 

 更に冒険者と同じでランクがあるらしい。

 そのランクによって利用できることが制限されてるらしい。


 他にも細かい役割があるが、凡そはそんな感じだった。



『冒険者には、ユーアに合わせて登録したけど、こっちはあまり興味がないかも』


 なんせお店を出す予定もないし、買取は冒険者ギルドでも出来る。

 お金はアイテムボックスに保管してるし、建物は持ってるし。


『う~ん、オークションとか、土地は興味があるけど、土地は街中限定だし、オークションはこの街では開催しないらしいし。出展だけは出来るらしいけど……』


 取り急いで、今のところは加入する必要性がない気がする。

 私のアイテムは、現状では売るつもりもない。今のところは。



「ナジメも商業ギルドに入ってるの?」

「わしももちろん入っているのじゃっ!」


 そう言って、腰のポーチから薄いカードを出して見せてくれる。


「ん? 冒険者カードと一緒なんだ」

 

 色は違うけど、見た目は殆ど一緒だった。


「これ一枚で、加入しているギルドは全て大丈夫なのじゃ。それにしても、ねぇねはあまりにも知識がなさすぎるのぅ?」


 嬉々としてた顔から一転、訝し気な視線に変わる。


「ま、まぁねっ! 私は田舎から来たばっかりだからっ! あ、あんまり都会の事は知らないんだよっ! 山奥に住んでたからさぁっ! あははっ!」


 ナジメの視線を躱しながら、手を頭の後ろに回ながら言い訳をする。

 少し、いや、かなり挙動不審になってしまったけど大丈夫だろうか。


「う~む、それにしては、ねぇねの格好も持ち物も、特殊というか、国宝級に近いものをもっておるじゃろう? そんなギルドもない田舎などにあるものなのじゃろうか」


「う…………」


 腕を組み上目遣いに見てくるナジメ。

 更に視線が鋭くなってる気がする。


「そ、それは――――」


「じゃが、実際はねぇねが何処から来たのか、何者なのかはどうでもいい事なのじゃっ! 別にねぇねに秘密があったからって、わしらはねぇねを嫌わないし、ねぇねは、みんなの、ねぇねなのは、変わらない事実なのじゃからなっ!」


 言い淀んだ私に「ポンポン」と背中を叩き、そう言ってくれるナジメ。

 見た目幼女でも、中身は気遣いが出来る立派な大人なのだ。


「……ありがとう」


 私は一言だけ、そう告げる。

 

「うむ」


 ナジメも一言だけ返して、それ以降はまた孤児院の話に戻った。


 そうして、商店を抜け、商業地区内の目的のギルドに到着した。


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