第279話涙目ナジメの懇願
「レストエリアを売って欲しいって、どういうことなのナジメ? 今のお屋敷だって十分広いし、お庭も奇麗だし、場所だって静かでいいところでしょ?」
懇願するような、しかも上目遣いの眼差しのナジメに聞き返す。
まぁ、上目遣いは身長的に仕方ないんだけど。
それでも、その態度からは本気なんだって気付いた。
「う、うむ。これから数日で孤児院の建築に取り掛かるのは知っておるじゃろ?」
「そうだね。1ヵ月くらい先だって聞いてるよ。完成は」
うん? ナジメのお屋敷の話は?
などと話を合わせながら、ナジメの話に耳を傾ける。
「わしは、良い孤児院を作ろうと考えておる。罪滅ぼしも含めてな」
「うん」
「じゃから、工事にも出来る限り立ち会うつもりなのじゃ」
「そう、そこまで考えてくれてたんだ……」
真摯な眼差しのナジメを見て、自然に頭に手が伸びる。
そこまで思っていてくれた事を褒めてあげたいと思って。
「よし、よし、ナジメも頑張ってるん――――」
だったんだけど……
「じゃが……」
「うん?」
次の言葉を聞いて手を引っ込めた。
「じゃが、ねぇねの『快適お家』に一度でも子供たちが住んだら、もうそこから抜け出せないのじゃっ! わしが作った孤児院では満足しないのじゃっ~!」
両手を上げ、背伸びしながら叫んだナジメ。
その勢いとは裏腹に、目尻には薄っすらと涙が浮かんでいた。
「………………うん」
これって、要するに。
「もしそうなったら、立場も含めて心中複雑って事? ナジメが建てた孤児院よりも、私の孤児院(レンタル)の方が人気だったりしたら」
ウル目のナジメに聞いてみる。
「う、うむ。そうとも言うのじゃ……」
「いや、いや、この流れだったらそれしかないでしょ?」
なんで今更強がるの?
「はい、その通りです」
「え?」
な、なんでいきなり標準語に?
「なので、どうか、スミ神さまお願いしますっ!」
「いいいっ!」
ガバァッ
て、今度は私に抱きつき懇願してきたっ!
「スミ神さまっ! お願いなのじゃ~っ!!」
「わ、わかったよっ! 但し条件っていうか、工事もしてもらうかんねっ!」
腰に纏わりつくナジメを引きはがしながら、そう答えた。
私もその事を想定してなかった訳じゃないしね。
※
「スミカお姉ちゃんっ!」
ナジメと工事の打ち合わせをしてると、ユーアたちが中から出てきた。
その後ろには、シーラを先頭に子供たちの姿も見える。
そして最後尾にはラブナの姿があった。
「それで中は大丈夫だった?」
2階建ての箱型のレストエリア。
そしてユーアを含め、子供たちを見渡して聞いてみる。
「うん、みんなもあれでいいって言ってましたっ!」
「いいも何も、子供たちは魂が抜けた顔してたけどねっ! だから決めたのはユーアとアタシとシーラで決めたわっ!」
答えたユーアの補足として、ラブナが駆け寄り教えてくれる。
「シーラは?」
子供たちはレストエリアに夢中だったので聞いてみる。
シーラだけは私とユーアとのやり取りを見ていたから。
ただし、その目がキラキラしているように見える……
両手も胸の前で「ギュッ」と握ってるし。
「や、やはりスミカお姉さまは、神さ――――」
「違うから」
言い切る前に上から被せる。
「それでシーラも大丈夫だった? 一応考えては配置したんだけど」
「は、はいっ! 後は必要な家具を置いてみないとわかりませんが、あれで大丈夫だと思いますっ! いえ、そもそも神さまに意見なんて畏れ多いですっ! あれで完璧ですっ!」
早口で捲し立てる様に言い直すシーラ。
「……ま、まぁ、シーラがそういうならいいけど。でも何かあったら言ってね? 実際使って見ないと不便なところとかわからないから」
もう面倒臭くなって、シーラの言う事を受け入れる。
事あるたびに訂正するのも、正直おっくうだし。
「ナジメ、孤児院にくる臨時のお手伝いさんたちは、いつ来るの?」
子供たちだけでは心配だと気付き、聞いてみる。
「夕刻の時間には来るのじゃ、ねぇね」
「院長みたいな人の代わりは? それと臨時じゃない人たちも」
「ロアジムが1週間ほどかかると言っておったのじゃ」
「なら、その間はナジメのとこのメイドさんと、ロアジムの知り合いの人たちが交互に来てくれるんだっけ?」
シーラも含めて、いきさつを説明しながら聞いてみる。
「そうじゃ。それと院長も、他の従事する者もロアジムが用意してくれるそうじゃ」
「そう、それなら色々と安心だね」
ロアジムに任せておけば、変な人員は送っては来ないだろう。
それとナジメもしっかりと管理するだろうし。
「ねぇね、わしはこれから商業ギルドに行ってくるのじゃ」
「商業ギルド。 なんで、何か買うの?」
「何を言っておる。土地はわしが何とかすると言ったじゃろ? だからじゃ」
「ふ~ん、そうなんだ。商業ギルドねぇ?」
商業ギルドって、ニスマジが所属しているところだよね?
さっき会ったばかりのオカマを思い出す。
どんなところなんだろ?
冒険者ギルドとは全く違うのはわかるけど。
それと土地もあるんだ。
見てみたい気もするけど……
「スミカお姉ちゃん、こっちはボクとラブナちゃんがいるから大丈夫だよ」
少し悩んでいるとユーアが声を掛けてくる。
興味があるのが態度に出てしまったのだろう。
「ありがとうユーア。少しだけ気になるから、ナジメと見てくるね。夕方までには帰れると思うけど、もし遅くなった時は先にご飯食べてていいからね。我慢しないでいいからね? それとお金も少し置いていくから、何か必要なものはそこから使ってね。後あまり――――」
「もう行くのじゃ、ねぇねっ! 子供たちがびっくりしてるのじゃっ!」
「あ、あとハラミもキチンと見張っててね? ラブナも――――」
「もういい加減過保護過ぎっ! さっさと行きなさいよっ! スミ姉っ!」
「シーラ、ユーアはあまり冷たいもの得意じゃないから、飲ませ過ぎには――」
「わ、わかりましたスミ神さまっ! うふふっ」
「あ、そうだっ! それとユーアに――――」
「「「……………………はぁ」」」
ナジメには催促され、ラブナには呆れられ、シーラには笑われながら、ナジメと二人で商業ギルドに向かう。
そんな中、ユーアはちょっとだけ頬っぺたが膨らんでいた。
あまり子ども扱いしちゃダメだよね?
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