第278話レンタル孤児院と理想の女神




 孤児院の跡地だった土地に、レンタルのレストエリアの設置した。

 この大きさは小隊規模なので、凡そ50人くらいは収容可能だ。


 私やナゴタたちの住んでいる大きさの10倍くらいはある。

 ただ2層になってるので、言うほど大きさは感じられない。



「うん、一先ずはここでいいよね? 見た目は違和感(この世界では)あるけど、1ヵ月だから我慢してもらって、それか最悪透明壁スキルで―― うん? どうしたの」


 そこまで見渡して、なんの反応もしない子供たちに声を掛ける。

 あまりお好みじゃなかったのかな? なんて思いながら。


「……………… え?」

「「「……………………」」」


「どうしたの? 見かけが嫌だったとか? でもどうしようもないんだよね。珍しい形だけど、これしか私も持ってないから。形までは変えられないんだよ」


 無表情のシーラと子供たちにそう説明する。

 

「あ、中の間取りとかは変更できるから心配しないでいいよ。さすがに子供でも男女一緒てのもマズいだろうしね。特に年長組とかは色々気にするお年頃なわけだし、うしし」


 続いて無反応の子供たちに、更に説明する。

 ちょっとだけ、おばさんぽかったなんて思いながら。


『………………』


「………………」

「「「………………」」」


「な、ならお風呂も男女わけないとねっ! あ、トイレも別がいいかなっ?」


 なぜか言い訳がましく、捲し立てるように追加で説明する。

 さすがに無反応過ぎて怖かったから。


「ほ、他にはっ! そ、そうだね――――」


 更に追加アピールしようと悩んでいると、


「ス、スミ神さまぁっ!」

「「「スミ神さまぁっ!」」」


 突然、シーラを含む子供たちが叫喚する。


「え? ええっ! また神さまっ!?」


 またもや私の呼称が神さまに戻っている。


「ス、スミ神さまっ! ユーアお姉さま方に聞いてはいたのですが、まさか本当に家を出してしまうとはっ! それでも神さまではないと言うのですかっ!?」


「い、いや、だからっ! 違うってっ!」


 ブンブンと手を振って全力で否定する。


「で、ですが、こんな事が出来る存在は、神さましかいませんっ!」

「そ、存在って何よ? 私はれっきとした人間だよっ!」


 正確には違うと思うけど。


 何てことは口が滑ってもこの場では言えない。

 余計にややこしくなるから。



「で、ですがっ! この力はきっとっ!」

「わ、私は魔法使いなんだよっ! これは魔法で出したんだよっ!」


 それでも引き下がらないシーラ。  

 グイグイと体を寄せて迫ってくる。


『な、何なのこの子っ? 神さまに憧れる子なの? 神さま推しなの?』


 そう言えば呼び方を直してってお願いした時も

 シーラは微妙に納得してなかった事を思い出した。

 最後に不本意って言ってたし。



 私は助け舟を期待して、二人のお姉さまに視線を移す。


「ちょっ、ユーアっ! ――――」

「♪♪」


 は、ニコニコとやり取りを見ている。

 この笑顔は恐らく納得している顔だ。


「それなら、ラブナっ! ――――」

「何よ?」 

「……何でもない」


 には、絶対に頼まない方が良いだろう。

 恐らく余計に事が大きくなるから。



『だ、だったら仕方ない。言いたくないけど、これで認めてもらおう。人間だって』



 私は最後の手段に出る。

 神さまを信じているなら、これで説得できるだろうと。



「シ、シーラ。女性の神さまって聞いて、何を思い浮かべる?」

「それは女神さまですねっ!」


 当たり前のように即答するシーラ。

 どもりも無くなってるし。


 

「なら、女神って、どういう姿をしていると思う?」

「母性に溢れた、とても聡明で慈愛に満ちた神さまだと思いますっ!」


 キラキラした目で答える。


「そう、なら見た目はどんなだと思う? スタイルとかさ」

「きっと女性なら憧れる大人のスタイルですっ! 色々膨らみが羨ましい程のっ!」

「そ、そうだよね、なら神さまって呼ぶ、わ、私はどうかな?」


 そう言って、両手を頭の上で組みクルリと回る。


「………………」


「ど、どう?」


 突如、薄目無言になったシーラに声を掛ける。


 プライドも恥を忍んでここまで誘導したんだ。

 これで納得してもらわないと、私は泣くぞ。



「…………や、やはり違いますね」

「ね? そうでしょうっ!」


 私はホッと胸をなでおろす。


 だが、それは次の一言を聞くまでだったけど。



「や、やはり地上では、そのお姿なのですねっ!」

「………… え?」

「そ、それでも地上に顕現されるお姿も素晴らしいですっ!」

「は、はぁ?」

「わ、わざわざ下界の女児たちに合わせて下さるなんて、さすがですっ!」

「じょ、女児ぃっ!?」


 な、なんなの、この子本当にっ!

 どんどん悪化していくよっ!

 自分を犠牲にした、説得が意味なかったよっ!


 しかも女児ってどこ見ていってるんだよっ!



「はぁ、もういいや」

 

 フルフルと頭を振って諦める。

 これ以上自分を虐めたくないし。



「まぁ、もう女神でもなんでもいいから、呼び方だけは直してね? 特に、街や他の人たちの前では、普通にお姉さんって呼んでね?」


「は、はいっ! わかりましたスミ神さまぁっ!」

「「「わかりましたっ! スミ神さまっ!」」」


「はぁ………………」


 私は俯きながら、なだらな部分を見てため息をついた。





「それじゃ、入る前に間取りとかの要望ある? 2階を1階にするとかは出来ないけど、中の配置はある程度自由に変えられるから」



 ユーアや、シーラたちを見渡し希望を聞いてみる。

 勝手に変えてもいいんだけど、住む当人に聞いた方が良いだろう。


 そう思い、聞いてはみたけど


 「「「スミ神さまのお望みのままにっ!」」」


 て、一蹴された。


 だから仕方なく、私だけレストエリアに入って配置を変えている。




「う~ん、大部屋とか、キッチンとかお風呂は1階だよね」


 メニュー画面の中でレイアウトを変えていく。



「2階は5人部屋を人数分作って、トイレは男女別。収納スペースは……」


 一人呟きながら、テキパキと配置換えを終える。


「うん。後は住んでもらって、どうなるかだね。それと寝具と家具関係は置いてみないとわからないから、意見を後で聞いてみよう」


 満足してレストエリアを出る。

 


「一応できたけど、中を見て確認してくれる?」

「は、はいっ! スミ神さまっ!」


 ユーアと話をしているシーラに声を掛ける。


「ユーアもラブナも一緒に行って、何かおかしいとことか、光熱機械の使い方とか教えてきてくれる? シーラだけじゃきっと判断できないから。それと危ないものもあるし」


「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」

「アタシが教えてあげるわよっ!」


 そう元気に返事をして、ユーアたちを先頭にレストエリアに入っていった。

 笑顔の子供たちも一緒に。



「ねぇね。話があるのじゃが……」


 子供たちを見送った後で、ナジメが声を掛けてくる。

 その様子は顔を伏せ、少し神妙な感じだった。


「何?」


「ね、ねぇねの『快適お家』をわしに売ってくれなのじゃっ!」


声高に話し、「ペコリ」と頭を下げ懇願するナジメ。


「へ? えええっ! な、なんでっ!?」


 一体どういう事?


 もしかして、ナジメも欲しくなっちゃった?

 あんな立派なお屋敷があるのにっ!?

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