第497話アドの暴露話




「ゴナちゃん動けるっ!?」

「ダ、ダメだナゴ姉ちゃんっ! 地面と一緒にハンマーも凍ってるよっ!」

「く、しかも徐々に足元から凍って来てねぇかッ!?」


 アドの凍結魔法によって、身動きが取れない三人。

 ナゴタたちどころか、廃屋や周囲にある木々まで、広範囲に渡って凍結していた。



 トコトコ


「がう」


 そして悠然とその三人に歩を進めるアド。

 その表情は、今までのような無邪気なものではなく、どこか妖艶な笑みに変わっていた。



「おいッ! ゴナタッ! お前の馬鹿力で脱出できねえのかッ! アイツがこっち来んぞッ!」


「やってるんだけど、どんどん凍ってくるから力が入らないんだっ! それよりもどさくさに紛れて馬鹿って言うなっ!」


「か、硬いわっ! 私もさっきから両剣で打ち付けているのに、削れもしないですっ! 並みの魔力量じゃ、こんなに硬質化するわけないですっ!」


 アドの変化に気付いてるからこそ、三人は焦り、各々に脱出を試みるが、膨大な魔力で放った凍結魔法は、そんな三人の理解を超え、強力なものだった。



 トコトコ


「がう」


 脱出策がないまま、タイムリミットのように、アドが近づいてくる。


 そして、


「がう。お前らに先に謝る。ゴメンな」


 5メートル程離れたところで立ち止まり、ヒョコと頭を下げる。


「は?」

「へ?」

「なッ!?」


 その姿に呆気にとられて、マジマジと下げた頭頂部を眺める三人。



「それは一体どういう意味ですか?」


 最初に我に返ったナゴタが質問する。


「がう、あのな、お前らが思ったよりずっと強かったから――――」

 

「あ、あなたのその瞳は一体――――」


「がう? 目?」


「お、お前の目って、まるで――――」

「…………ッ!?」


 顔を上げ、質問に答えるアドに、違和感を感じたナゴタ。

 他の二人もその異様さを目の当たりにし、一様に言葉を失う。



「目がどうかしたのか? がう?」


 自身ではわからないようで、軽く首を傾げる。

 その態度から、自分の意志とは無関係に変化したものだとわかる。



 ナゴタたちが言葉に詰まり、一様に凝視するアドの瞳とは――――



「は、はい、あなたの髪色と一緒で、群青色の瞳は初めて見ました……」

「し、しかも、真ん中は黒いけど、形がなんか――――」

「丸じゃなくて、縦に長いだとッ!?」


 それは、人族と呼ばれる種族には殆ど見られない、異なる色と形をしていた。

 何が切っ掛けで変化したかは不明だが、その意味する事は一つだけだった。



「やはりあなたは人間ではないのですね」


「が、がう?」   


「やっぱりそうだよなぁ。あんなちっこいのにメチャクチャ強いもんな」


「がう? お、俺は――――」


「アド、もういいだろう? お前が竜族で、今は人間に化けてるってバラしてもよォッ」


「がうっ! ルーギルお前っ!」


 最後のルーギルの説明に、初めて動揺を見せるアド。

 歯を剥き出しにし、群青色の瞳で鋭く睨みつける。



「竜? ですか…………」

「そうかぁ、だからあんなに強いんだ…………」


 アドの態度とルーギルの説明で納得し、姉妹の空気が変わる。



「そうだぜッ。フーナの家族は本人を抜いて全員が竜族なんだッ。だから強ぇのは当たり前だッ。冒険者で言えば『SSランク』かもよッ」


「SSランクっ!? Sではなくて?」

「そんなの聞いたことないぞ?」


 唐突に出た初耳の内容に、横目でルーギルに聞き返す姉妹。


「そりゃそうだッ。現段階ではまだ公にしてねえからなッ。近いうちに発表があるだろうから言っとくが、SSランクって言うのは、フーナとその家族のせいで増えたものだッ。この意味はわかるだろうッ?」  


「はい、何となくは………………」

「えっ? ワ、ワタシもだ?」


 ナゴタはすぐさま察したようだが、ゴナタは目が泳いでいた。


「そういうこったッ。フーナの強さが現段階のランクの枠組みに収まり切れねぇから、アイツを基準としてランクの上限を増やしたんだッ。こんな事は前代未聞の事だぜッ? アイツ一人の為にこの国の国王さままでもが動いてるからなッ」


「えっ!? 国王さままでもがっ!」

「はあっ? なんでっ!?」


「アイツは…… いや、アイツらはか。前国王さまと今の国王さまに懇意にされてるんだよッ。過去の大戦の立役者ってぇのもあるが、個人的にも直接会ってるみてぇだし、色々と恩義もあるってな噂だッ」


「な、なんでそんな事にっ!?」

「うんっ! うんっ!」


 突飛な内容の連続に、さすがのナゴタも声を荒げる。

 ゴナタは呆気にとられ、いつものように水飲み鳥になっていた。



「さぁなッ、そこまで詳しく知らねぇが、昔に何かあったんだろッ? それと王城に一瞬で移動できる、国宝級のアイテムを渡したって噂も聞いた事があるッ。まぁどっちの話も間に大勢が入ってっから、どこまで信憑性があるかは不明だがなッ。それとよォ――――」


「がう、ルーギル。もういいか?」


 話を遮るように、ルーギルの説明に割って入るアド。

 その声のトーンは僅かに下がっていた。



「あ、ああ、こっちの話は大体終わりだッ。それでお前はどうすんだッ? さっきから凄ぇ殺気を放ってるがッ…………」


「がう、もちろんそんなのは決まってるぞ。俺はメド姉ちゃんに色々と頼まれて来たんだ。だからやる事は変わらないぞ?」


「メド姉ちゃん? ああ、最初にフーナの仲間になった白い子供かッ…… んで、頼まれたって何をだッ?」


 アドの動きに注意を向けながらも、横目で姉妹に合図を送る。  

 纏う殺気もそうだが、獲物を狙うような鋭い目が、更に危機感をあおる。



「がう、そんなの言う訳がないだろ? 人間の王に強いやつを探せとか、その後で俺たちが故郷に戻った後の人間の国の事なんて。それに俺はあまり教えられて――――」


「あんッ?」

「はい?」

「え?」


「がう? お前らどうかしたのか?」


 唖然とした顔で自分を見ている三人に気が付き、話を中断する。

 そんなルーギルたちの態度に、アドは心底訳がわからないようだった。



「あ、あのよォ。今回の件以外でも、国や王さまが関わってんのかッ? あちこちで冒険者にちょっかいだしてんのも、もしかして――――」


「がうっ!? なんでそんな事知ってるんだっ!」


「いや、話の流れ的にわかんだろッ!」


「が、がう? 本当かっ!」


 さっきまでの濃密な殺気が引っ込み、途端にオロオロとしだす。

 群青色だった瞳も、黒目がちのクリッとした、いつもの瞳に戻る。


 その様子を見たナゴタが声をかける。


「いいえ、私たちは何も聞いていません。だからルーギルの戯言など聞き流してください。この人は単に、あなたの興味を引きたかっただけですから」


「はあッ!? ナゴタいきなり何をッ!?」


「がう? 興味ってなんだ?」


「それはあなたのことが好きらしいです」


「な、なんで俺がこんな子供をッ! ってか、俺には嫁が――――」


「がう? そうなのか? でも俺は弱いやつに興味がないから、つがいにはなれないぞ? せめてナゴタやゴナタぐらいなら考えてやるけどな。だから諦めろルーギルっ!」


 腕を胸の前で組み、キッパリと言い切ったアド。

 そんなルーギルは、勝手に想いを捏造され、一方的に振られただけだった。


 しかも性別がアドと同性のナゴタたちにも惨敗だった。



「くッ! まぁいいッ! それでどうすんだッ? 俺たちを凍らせたままでよッ!」


 ナゴタとアドに何かを言いたそうなルーギルだったが、二人を睨むだけで留まり、話の先を促す。



「がう、そうだなぁ。なんかやる気が無くなっちゃったんだよな。さっきまでお前らに俺の凄さをみせようと思ってたんだけどな」


 ニカと微笑み、胸の前で組んでいた腕を解く。

 そこにはさっきまでの敵意は残っていなかった。


 その態度を見る限り、戦う意志が霧散したように思えた。

 アドなりに満足し、これ以上は意味がないと、自分勝手に判断したのだろう。



 だが、それに対し、異を唱える者がいた。


「はぁ、何の権限で勝手に矛を収めるのですか?」


 いや、一人ではなく――――


「そうだぞっ! ワタシはこのままでは納得できないなっ!」

「だなッ! 目的が何であれ、お前はこの街の冒険者に喧嘩を売ったんだからなッ!」


 アドと対峙するだった。



「がう? ならまだやるか? お前らがそこから出れたら続きしてやるぞっ! 人間に出れたらって話だけどなっ!」


 腰まで凍り付いたナゴタたちを、鼻を鳴らしながら眺める。

 明らかに小馬鹿にしているようで、口元が緩んでいる。



「そうかッ! 随分と余裕のようだが、あまり人間を舐めない方がいいぜッ! お前の主もそうだが、竜族よりも強い奴を俺も知ってるからなッ!」


 カチッ


 啖呵を切りながら、何かの突起物を押すルーギル。

 それは今まで気取られずに、ずっと隠し持っていたものだった。


 すると途端に、



「がう、なんだっ?」



 ドガァァァァ――――――ンッ!!



 アドが立っていた地面が盛り上がり、噴火したように大爆発を起こした。


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