第498話双子姉妹の思惑




「きゃっ! って、ルーギル一体何をっ! 何かするなら先に知らせてくださいっ!」

「うわっ! お、おい、ルーギルっ! ワタシたちまで危なかったぞっ!」


 ルーギルが起こしたであろう、爆発の余波が姉妹まで届き、食って掛かる二人だったが、



「あんッ? 何って、スミカ嬢に貰った『ハンドグレネード【リモート式】』って奴をまとめて使ったんだよッ。要は任意で起動できる爆弾みてぇなものだッ!」


 姉妹とは対照的に、ケロッとした顔で、手に持っていたリモコンを見せる。



「爆弾っ! お姉さまからっ!?」

「ルーギルも何か貰ってたのかっ!」


「ああ、使うタイミングを計ってたが、ここら一帯を凍らせちまったから、逆に都合よかったんだよなッ。アイツにも気付かれずに、尚且つ――――」

 

 パキ、パキパキパキパキ――――



「こうやって、アドの魔法から脱出できたからなッ!」


 バキンッ!


「「………………」」


 足元の氷を砕きながら、得意げな顔でグッと親指を立てる。

 ナゴタたちもルーギルを横目に見ながら、残った氷を払い落とす。

  


「ならそんな便利なもの、持ってることを初めに――――」


 ドスッ!


「ぐふッ!」


「お前がお姉ぇのもの持ってるなんてズルいぞっ!」


 ボフッ!


「がはッ!」


 ドヤ顔のルーギルに苛ついた姉妹は、それぞれ腹パンを入れる。

 もちろん手加減はしているが。



「ぐ、お、お前ら、俺の機転で脱出できたのに、なんで俺がッ!」


「まあ、でも――――」

「そうだけど――――」


「あんッ? まだなんかあんのかッ!?」


 痛みが残る脇腹を押さえながら、恨めしい目で睨む。



「ここに来て初めて役に立ちましたね。本当はお姉さまに、ここで魔物に襲われて死んだって、後ほど報告する予定でしたから。私たちはあなたがいなくなっても困りませんし」


「ワタシはルーギルがとろくて攻撃に巻き込まれて死んだって言うつもりだったなっ! いてもいなくてもお姉ぇには関係ないしっ!」


「なんでだよッ! おまえらはスミカ嬢に俺を守れって言われてんだろッ! 必要な人材がどうとかってよッ!」


「「あ」」


 辛辣過ぎる二人の話に、唾を飛ばしながら反論するルーギル。   

 それを聞いた姉妹は思い出したように、お互いの顔を見合わせる。



「そ、そうでした。お姉さまの頼み事は絶対でした。だから今回は素直に認めてあげますよ。あのままだと一方的に負けていたでしょうから」


「お姉ぇのアイテムのお陰だとは思うけど、それでもルーギルのせいで脱出できたから、助かったって一応言っておくなっ!」


 自身の氷を払いながら、軽く頭を下げるナゴタとゴナタ。



「ち、本当にお前らは昔から俺を雑に扱うよなッ。そんなところは嬢ちゃんと一緒だぜッ。俺はこれでもギルドの長なんだぜッ」


「もういい加減、その口を閉じてください」


「ッたく! 本当にナゴタお前は――――」


「うるさいから今はあっち行ってろっ!」


 ガシッ


「ッて、ゴナタは俺を担いで何すんだッ!? うおォォォォ――――ッ!」


 ブンッ


 ルーギルは悲鳴を上げながら、森の中に消えていった。

 ゴナタが背後から腰を掴み、そのまま投げ飛ばしたのだった。



「ゴナちゃんっ! ルーギルもいなくなったから、ここからは――――」

「うん、わかってるっ! ここからは出し惜しみなしだっ!」


 互いに目配せをし、武器を構え、能力を発動する。

 

 ナゴタは全身から青色のオーラを。

 ゴナタは赤色のオーラを纏い、目の前の相手を睨みつける。



「がう、ルーギルは何処に行ったんだ?」


 周囲を見渡しながら、アドが姿を現す。

 爆発の中心にいたはずだが、ダメージを負った様子はなかった。



「あなたに振られたから帰ったみたいです」


「がう、そうなのか? それじゃ続きをやるぞっ! どうやって俺の氷を壊したかわからないけど、約束は約束だからなっ!」


 武器を構えるナゴタたちを見て、ニヤリと笑みを浮かべる。 

 そしておもむろに片足を上げ、ダンと地面を強く踏みしめる。



「ゴナちゃんっ! また来るわよっ!」

「わかってるっ! ナゴ姉ちゃんっ!」


 互いを見やり、二人同時に跳躍する。

 すぐさま二人がいた足元を、さっきのように氷が覆う。



「甘いぞっ! がうっ!」


 ヒュンッ!


 宙に退避した二人を見て、アドは口から氷柱を放つ。

 どうやら地面を凍らせ、宙に誘導したのは罠だったようだ。



「甘いのはあなたですっ!」

「そうだっ! ワタシたちを甘く見るなっ!」


 以前ならば、逃げ場のない空に誘導された時点でピンチだったが、今は違う。

 スミカに出会った今の姉妹は、決してアドの思惑通りにはならない。



 ボンッ!


「がうっ! 避けられたぞっ! なんだ? 空を蹴ってるのかっ!?」 


 アドが驚き、見上げる空では、二人は空中を蹴って氷柱を躱していた。



 それは、スミカに貰った『デトネイトHブーツ』を宙で起爆させ、その爆風を利用して、空中を跳ねる様に移動できるからだった。


 本来であれば、対象物に当てる事で起爆し、相手に爆発のダメージを負わせる物。

 しかしそれは元の世界での効果であって、そもそも使用者もプレイヤーだった。


 だがこの世界の住人たち―――― とくに冒険者と呼ばれる者たちは、単純なステータスではプレイヤーを超える。スミカでさえ一般人の1~2倍程度だ。


 仮に素の状態で戦ったならば、十中八九、勝つのは冒険者だろう。

 プレイヤーの戦闘力は、アイテムや装備品に依存しているからだ。

 

 世界の相違、そして、魔力を持った住人とデジタルの住人とでは、そういった理由が重なって、及ぼす効果が異なるのだろう。


 それは回復アイテムにしても然り、戦闘用のアイテムにしても同様だ。



「がうっ! 俺だって空ぐらい飛べるぞっ! お前らこそ甘く見るなっ!」


 ヒュン――――


 二人を追跡せんと、空を見上げ、魔法で追いかけるアドだったが、



「な、なんだっ!? 全然追い付けないぞっ!」


 直線に対し、直角で移動するナゴタたちを捕まえられずにいた。

 追い付いたと思っても、爆風で遮られ、簡単に距離を取られる。



「ナゴ姉ちゃんっ! これ以上使うと魔力が持たないぞっ!」

「わかってるわ。なら一気に畳みかけるわよっ!」


 ボン、ボボボボン――――


 爆風を幾度も蹴り、最初にナゴタがアドに仕掛ける。



「がう、お前らの方が速いけど、爆発で居場所はわかるぞっ!」 


 真正面から仕掛けてきたナゴタに、アドは氷柱を放つ。


 ボンッ!


 それをナゴタは読み切って、寸前で真上に避ける。


 ボボボボボンッ!


 そしてそのまま上下左右に移動をしながら前進する。

 どうやらアドに狙いを定めさせない作戦のようだ。



「もう本当にうるさいなっ! これなら逃げられないだろっ! がうっ!」


 バッと左手を掲げた瞬間に、アドの周囲に無数の氷柱が出現する。

 その数は3桁を優に超え、更に増え続けていた。


 広範囲に魔法を放ち、ナゴタたちの動きを制限するつもりだろう。



「さすがは竜族ですね。それ程の規模の魔法はお目に掛かったことがありません。けど、何か忘れていませんか? 私は独りで戦っているわけではないんですよ」


「そこだ――――――っ!!」 


 ブフォンッ!


 ナゴタの起こす爆煙を切り裂き、ゴナタが猛スピードで突っ切ってくる。

 両手でハンマーを構え、無防備なアドの脇腹目掛けて、全力で振りきる。



「そんなのわかってるぞっ! 今度は臭いでわかるからなっ! がうっ!」


 目視ができないと踏んで、アドは嗅覚でゴナタの位置を把握していた。

 一旦魔法を中断し、接近するゴナタに合わせて、拳を振るうが、



「がう? なんだ? 腕が重いぞっ!?」


 自身の右腕に違和感を感じ、すぐさま残りの拳で迎え撃とうとするが、その隙が命取りとなった。



 ボゴォォォォ――――――ンッ!!



「うがぁ――――――っ!」


 、右脇腹にゴナタの一撃を受けたアドは、宙を割き、森の木々を数本薙ぎ倒しながら、その姿が見えなくなった。


 今までにない程のダメージと、今まで聞いたことない、悲痛な叫びを上げながら。  



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