第224話蝶のように舞うスミカの新技!?




「ま、間に合えぇっ!」


 私は音速を超えるであろうナイフを防ぐためスキルを展開する。


 カキィンッ! ×2


 と、ナイフの攻撃はスキルで難なく防ぐことはできた。

 どんな強力な攻撃でも決して透明壁スキルを破ることはできない。


 でも私自身を守る鉄壁の透明壁スキルは今回は使うつもりはなかった。

 それが予想以上のアマジの実力に無理やり使わされてしまった。


「く、くそっ!油断したっ!まだ私は思い上がってた!まだアマジの動きを予測できなかったっ!狙いも分からなかったっ!」



 私はそう吐き捨てアマジの姿を探す。


 既にアマジの姿は正面にいなかったからだ。


「お前なら防ぐだろうと思っていたっ」

「って、後ろっ!?」


 アマジは装備を鉄甲と小剣に変えて私の背後に姿を現す。


「つっ!」


 私は鉄甲より放たれた拳打を頬擦れ擦れで躱す。

 次に突き出した小剣を体を捻りギリギリで避ける。


「まだ避けるかっ!」

「はっ!」


 私は体を捻った態勢でそのままバックブローを放つ。


「く、鋭いっ!」

 それを体を沈めて躱すアマジ。


「甘いっ!」

 直ぐさま態勢が低いアマジを見て膝蹴りを放つ。


「ぐがっ!!」


 これはアマジの下がった顎に直撃し、後方に態勢を崩すアマジ。


「んんまだっ!」


 私はアマジの顎を捉えた足をそのまま振り上げて、更にアマジの鳩尾につま先をねじり込み蹴り上げる。


「ぐふぅっ!」


 そのニ連撃を受けアマジの体は宙に浮く。


「よしっ」

 私は更に追撃を仕掛けようと跳躍するが、


「なっ!?」

 首筋に鋭い気配を感じ、そのまま追撃できずに着地する。


 そしてアマジも少し遅れて地面に足をつける。



「…………これが何とか幻視ってやつかぁ」


 私は顎と腹を抑え立っているアマジを見て小さく呟く。


「投影幻視だ」


 その呟きを聞き逃すこともなく端的に答えるアマジ。

 攻撃を受けたダメージは微かに残っている。

 まだ顎を抑えていることからも効いてはいるとわかる。


『……にしてもかなりタフだよね、魔力で防御してるんだろうけど。でも投影幻視ってやつ端から見るのと実際に受けるのとは全く違うね……』


 私は素直にそう心の中で思った。

 予想以上に強力な能力だと。


 そして私の実態分身より非常に有効的な能力だとも。


 条件反射的に体が反応してしまい、意識を持ってかれる。

 こんなのタネが分かっていても防ぎようがない。


 誰だって目の前で手を叩かれたら驚いて目を瞑ってしまう。

 それと似たようなもので、更にそこに殺気と気配が混ざる。


 これに釣られないなんて逆に人間として何か欠けてる気がする。

 いや生物である以上絶対に避けられない。とまで言える。


『それはさすがに苦戦するよね?こんなのやられたんじゃ……』


 と、シスターズの戦いを思い出しそう思う。


 でもこれって――――


「どうした。面食らいさすがのお前も声が出ないか?」


 なんて小馬鹿にした口調でアマジが私を見て口を開く。


 それに対し私は、


「ふーん、正直言って私の分身より効果的でちょっとだけ悔しいよ。でも破る方法はいくらでもあるけどね。それを今から見せてあげるよ」


 と腕を組みアマジを見ながらそう答える。

 口元を僅かに緩めて。


 だってこれって――――



 を習得するのに最適だよね?



「はん、言うに事欠いていくらでもある。だと?随分と虚言を吐いてくれる。だが、実際お前は何をするか分からない怖さがあるからな。だから俺は決して慢心せぬ。いくぞっ」


 そう腰を下ろし一瞬で私の間合いに入ってくる。

 武器は持ち替えず迫ってくるので近接戦闘だろう。


『よし、きたっ!』


 それでも距離を取っての、中、遠距離武器もあるので要注意だ。

 その事もしっかり念頭に入れておく。


「シッ!」


 濃密な気配が私の後方に現れる。

 そして前方からはアマジ本体からの攻撃。


 短い息吹と背後に現れた凶悪な殺気を前後、そして左右にも感じる。

 どうやら同時に3体を操れるようだった。


 シュッ

 サワ


『……』


 私は最初に届いた攻撃を右肩をずらして躱す。


『……』


 次に左頬に触れた攻撃を頭を傾け回避する。


「ちっ!」

 ザッ 


『……』

 

 再度頭を狙って放たれた一撃は、髪に触れた瞬間に拳で払いのける。

 踵落とし?だったかなと思う。


「な、お前っ!?ちぃっまだだっ!」


 更にアマジの怒涛の攻撃は続いていく。


 左太もも、右脇腹、背中、右側頭部、延髄、後頭部。

 そして最後に、


 鼻先に触れた固いものを「グルンッ」と首を捻りやり過ごす。


『……ふぅ』


「くっ、はぁはぁ、い、一体お前には何が見えてるんだっ!」



※※


 その頃、広場脇のシスターズと他の面々は……



「あ、あわわっ!お、お姉ぇの戦い心臓に悪いんだけどっ!」

「そ、そうねっ、最初に言われてなかったら、心配で死にそうなくらいね」


 こちらはナゴタとゴナタ姉妹。

 二人とも興奮気味に話してはいるがその目はしっかりと状況を見ている。


「ス、スミカお姉ちゃん、大丈夫なの?ボク見てて恐いよぉっ!」


 と、ユーアは両手を胸の前で組んで祈るように見ている。

 それに対し一緒にいるラブナは、


「あ、あれはもう人間の動きじゃないわっ!スミ姉は魔王よっ!そ、そうきっと魔物の王よっ!昔話によく出てきたっ!」


 と、アマジの攻撃を避け続ける澄香を見て人外宣言していた。


「ううむ……ねぇねが最初に心配するなと言っておったが、これはわしの目から見てもさすがに心配するのじゃ。一撃でもまともに喰らえばきっと大ダメージじゃ。それ程の攻撃をねぇねは……」


 そう分析しながら語るのは、このメンツで一番の実力者のナジメ。

 その目は驚愕に染まっていたが、誰よりも状況を把握し更に解析を続ける。


「それにしても、目を瞑りながらあの連撃を避け続けるとは、恐ろしい集中力と胆力じゃ。そう言った目に頼らない戦い方もあるにはあるが、これだけ殺気を撒き散らされては出来ぬのが普通じゃろう……。ねぇね、一体お主は何を求めてそこまで強くなるのじゃ?ユーア一人守るには大き過ぎる力をもうとっくに持っておるというのに……」



※※



「どう?見事に破って見せたでしょ?」

「はぁはぁ、一体何なんだお前は……」


 私は目を開いて、やっと疲労を見せたアマジに声を掛ける。

 それに対し、驚愕の表情を浮かべるアマジ。


「他にも破る方法があるけど、ひと先ずはこんな感じね」

「はぁはぁ、他?だと」

「うん、他にはアマジを私の魔法で閉じ込めたり、私自身を絶対障壁で囲ったり、巨大な武器を何個か作成して、ここら広場一帯を押しつぶしてみたり、それに足元全部に……」


 私は指折り数えてアマジに説明していく。


「……………」


「で、さっきやったのは、そんな訳分からない理不尽な力じゃなく、圧倒的が感じ易い能力(?)で躱し続けたんだよ」


 と、何故か無表情になっていくアマジにそう伝える。


「なんだその能力とは」


「直で能力って言われると何か違う気がするな?でも習得すれば同じ事なのかな?うーん、まぁいいや、それは『spinal reflex 改』てやつなんだよ」


「すぱいなるりふれ改?何だそれはっ」


「あ、後半の"改"は私が付け足したものね。要は脊髄反射ってやつ」


「せきずい?反射だと」


「うん、簡単に説明すると、例えば急に手に痛みとか熱いとか感じた時ビクって手を引っ込めるでしょ?自分の考えとは裏腹に」


「あ、ああ」


「それって脳が危ないって受け取るより早く、先に体が動いちゃう現象なんだよ。で、通常は、熱いって脳が感じて脊髄が命令を出し手を動かす。これが普通」


「…………」


「でも脊髄反射は突発的な状況に反応するから、脳に行く前に脊髄に命令がいくんだよ、それを無意識に動かしてる名前が脊髄反射ってやつ」


「…………」


「で、何となくでも分かった?」


 私は既に能面になっているアマジに声を掛ける。


 この世界の医学がどこまで進んでいるかわからない。

 それでも半分くらいはわかっていると思う。



「あ、ああ。何となくはな。でもそれとお前の動きは別物だろう?痛みも熱さも感じていないのだからっ」


 と、ジロリと表情を戻し、凄んでそう問いかけてくる。


 なんか疑われてるような……


「ああ、私はそれを更に昇華させたのをやってたんだよ、私のオリジナルの能力として覚えようとしてさ。うーん、そうだね、それを今から説明するよ。全部は言えないけど」


「あ、ああ。勝手にしろっ」


 と、何故か聞きモードに入っているアマジを見ながらそう話す。


 冒険者や私を憎むだのムカつくだの散々言ってても、この男も強さに貪欲だって事なのだろうか?そうはいっても正直理解しがたく思う。その考えは。


『それとも、その負の感情を上回る程の何かを感じたか?それか、勝つために必要だって思ってる。か、だね』


 私は、腕を組み鋭い視線を向けるままのアマジを見てそう思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る