第519話予想外!?
「あ、スミカさんはコムケの街が拠点なんですねっ!」
「うん、そうだよ。そこで初めて冒険者になったんだ」
目をキラキラさせながら、冒険者証と私を交互に眺めるジーア。
ついさっきまでキョドっていたのに、今は見た目通りの快活な少女に見える。
ただ緊張なのか、舌足らずなのか、興奮するとたまに発音が悪いけど。
「偶然でしゅねっ! わたしの尊敬する人が、そこの領主さまなんですよっ!」
「え? コムケの街の? って事は…………」
やっぱりそうだ。
どこかで聞いた事ある話だったし、この少女の魔法も誰かに似ていた。
私を攻撃してきた、鉄球のような土魔法や、岩でできた大蛇。
これは、とある人物の土魔法、『土合戦』と『土龍(ベティ)』と似たようなもの。
規模と威力はかなり見劣りするが、それでもかなり酷似していた。
それと、その領主と、ジーアの関連性を決定づける、要素がもう一つ。
それは――――
「もしかしてスミカさんは、領主さまとお会いしたことがあるんですか?」
「まあね。コムケの街に視察に来た時に、偶然ね? でさ、話は変わるけど、その服ってどうしたの?」
「あ、これはですね、領主さまにいただいたんですよっ! わたしの宝物でしゅっ!」
パッと花が咲いたような笑顔になり、自分の着ている衣装を見下ろす。
胸のリボンや襟を正し、とても嬉しそうに答える。
ジーアとコムケの領主を繋げる、もう一つの要素。
それは、この岩蛇の少女が着ている『制服』だった。
この世界では絶対に存在しない、洗練された、斬新なデザイン。
そもそも夏服の『セーラー服』なんて、違和感があり過ぎる。
ジーアは見た目、C学生くらいの少女で、体型はスレンダー。
黒髪のポニーテールと大きな瞳が印象的で、とても制服が似合っていた。
結論から言うと、ここはナジメが治める、もう一つの領地の『クロの村』
ナジメのような、過去に迫害された者たちが集まる、異種族たちの園。
やたら田畑が広いのも、石の建造物が多いのも、それで説明がつく。
あの幼女は、大陸一の土魔法使いで、二つ名が『鉄壁の開墾幼女』だからね。
『まさか、こんなところにあるとは知らなかったよ。そもそもナジメにも聞いたことないしね。なら帰ったら村の様子を教えてあげるかな? きっと最近来てないだろうし』
あのスク水幼女の笑顔を思い浮かべ、帰る楽しみが増えたと嬉しくなる。
いい土産話が出来たなと、自然と頬が緩むのを感じる。
だけど、そんな空気を一変させる、ある真実が知られることとなった。
「ん、澄香、まだここにいた」
「あ、マヤメ?」
治療を任せたはずのマヤメが、数名の村人と一緒に戻ってきた。
その姿を見ると、どうやら無事にみんなを回復できたようだ。
「ん、マヤはここが何処か分かった」
「ああ、私もさっき気が付いたよ。ここは『クロの村』でしょ?」
ここにいる村人たちと、ジーア、そして村の中を見渡しながら答える。
そんなマヤメはきっと、回復した村人から情報収集したのだろう。
「ん、そう。ここはナジメが澄香に負けるずっと前に、ナジメが造った村」
「えっ!? クロ様が負けっ!?」
「「「はっ!?」」」
「ちょっと、なんでそんな言い方するの、マヤメっ!」
「ん? だってナジメも凄いけど、澄香も凄いから。それに事実」
「え、あ、まあ、確かにそうだけど……」
小声で答えながら、チラと村人たちを盗み見る。
マヤメに悪気はないとしても、一気に剣呑な空気に変わったから。
そんな村人たちの中でも、特に、ナジメ信者であろうジーアが、ね。
「あ、あにょっ! もう一人の蝶のお姉さんっ!」
「ん? マヤの事」
「今の話は本当ですかっ! ク、クロ様が、負けたって……」
「ん? クロ様? ナジメじゃない?」
知らない情報に困惑するマヤメ。
ジーアの顔を無表情で見つめる。
「いいえ、それで合ってましゅっ! ナジメ様はここでは『クロ』と名乗ってましゅっ! 行方不明のナジメ様のお姉さん、クロ様の意思を継いだので、クロと名乗ってるんですっ!」
「ん、知らなかった。それは初耳」
コクンと頷き返答する。
「そ、それでマヤさん、さっきの話は……」
「ん? マヤ違う。私はマヤメ」
「マ、マヤメさんっ! さっきの、クロ様が負けたって本当ですかっ?」
血相を変え、早足でマヤメの元に駆け寄るジーア。
「ん、本当。澄香にお尻叩かれて、ナジメは泣きながら降参した」
「ク、クロ様が、しょんな……」
「ん、しかも澄香は無傷だった」
「うえっ!? しかも無傷でしゅかっ!」
「ん、ナジメの小さな守護者の能力も通じず、ボコボコにされた」
「えっ!? あ、あのクロ様の代名詞の鉄壁を破ったんですかっ! はわわ~」
「ん、それで最後は壁に挟まれて、お尻叩かれて負け宣言した。ふふ」
「う、う、う~、あ、あの、クロ様が、そんな一方的に……」
「んふふ」
『…………う~ん』
マヤメの話を聞きにつれ、わかりやすいほど落ち込んでいくジーア。
最後は地面を見つめて、何やらブツブツと呟いている。
それとは対照的に、薄っすらと笑みを浮かべるのはマヤメ。
腕を組み胸を逸らし、何処か誇らしげに見える。
てか、なんでそんなにマヤメは得意気なの?
私としては、伝える必要のない情報を暴露されて、気が気じゃないんだけど。
ガバッ!
「あ、あのぉっ!」
突如、意を決したように、勢いよく顔を上げるジーア。
その瞳は何かを決意したように、強い光を放っていた。
『ほら、この流れって、絶対勝負とか言われる流れだよ。尊敬するナジメが情けない負け方したら、その仇を討ちたいって、普通は思うはずだもん…… はぁ』
この展開は誰もが予想できた。
その証拠に、村人たちもジーアに熱い視線を送っている。
恐らくここにいる全員が同じ想いなのだろう。
自分らを救済してくれた、ナジメの為にも一矢報いたいと。
なんて、予想してたんだけど、
「わ、わたしと勝負しましょうっ!」
「………………」
「ん? 勝負?」
ただ次の一言で全てを覆された。
ってか、そんなの誰も予想できないって。
なにせその視線は、事の元凶の私ではなく、
「マ、マヤメしゃんっ!」
「はっ! な、なんでっ!?」
「ん? マヤ?」
なんとジーアは私ではなく、隣のマヤメを指名してきたからだ。
予想外どころの話ではなかった。
あまりにも斜め上過ぎて、こっちが逆に困惑する。
だが、そんなジーアの奇行を、何故か無言で見守っている村人たち。
その様子を見ると、奇行ではなく、英断に見えてくるから不思議だ。
『はぁ、結局面倒ごとになるのは当たってるんだけど、それにしても……』
この村を収める領主も変わり者だが、そこに住む人々も負けず劣らずだった。
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