第168話街の拡大案とクロの村




「わ、わしもお主たちのパーティーに入れてくれなのじゃ、お願いなのじゃ…」


 ナジメは皆を見渡した後、最後に私を見て平身低頭する。


「別にいいよ。最初からそのつもりだったし」

「種目にチーム戦があるんじゃが、その大会だけでもわしをパーティーに入れてくれ……自分勝手な事も都合のいい事を言っているとも自覚しておるのじゃ。それに――――」


「だから別にいいって」

「――それに見合う謝礼も用意するつもりじゃ。それとその他の賞品の全てを、うん?ねぇね何か言ったかのぅ?」


 ナジメは下げていた頭を上げて、私の顔をキョトンとした顔で見上げてくる。


「だーかーらー、ナジメを仲間にするって言ってるの。元々そのつもりだったし、できれば一時的じゃなくずっといて欲しいんだよ。でもナジメは領主も必要な事なんだよね?」


「んなぁっ、ねぇねっ!そんな簡単に決めていいのか? わしは嬉しいが皆の意見も聞いた方が良いと思うのじゃがっ!」


「まぁ、本来はその通りなんだけど、ユーアは嬉しいって事だし、他のメンバーもナジメを助けたいって言ってたでしょ?だったらナジメはもう仲間なんだよ。別に確認する必要もないし、ナジメも別に改まる必要もないんだよ。もうナジメもバタフライシスターズの一員なんだから」


 私は驚きのあまり立ち上がっているナジメを諭すようにそう告げる。

 意見も何も、皆もナジメを受け入れるつもりみたいだったし。


「そうだよナジメちゃん。ラブナちゃんもナゴタさんもゴナタさんもハラミも、皆んな反対何てしないんだよ?だからこれからよろしくね、ナジメちゃんっ!!」


「はぁ、アタシはメンバーになったばかりだけど、ユーアやナゴ師匠たちがスミ姉を慕ってる理由がさらにわかっちゃったわよ。もちろんナジメをアタシも歓迎するわっ!だってあんた危なっかしいしねっ!」


「危なかっしいって、ラブナ。ナジメは一応領主さまなのよ?私もそんな訳でナジメを歓迎します。 お姉さま率いる素晴らしいパーティーにようこそ、ナジメ」


「ナジメ良かったなっ!リーダーのお姉ぇが手を貸してくれるんだったら、もうナジメの願いの一つは叶ったも同然だっ!」


『わうっ!!』


 私の言葉に続きユーアたちもそれぞれナジメに声を掛ける。

皆一様に笑顔でナジメを受け入れてくれた。


「ね、ねぇね? そ、それとお主たちも――――あ、ありがとうなのじゃ。わ、わしは嬉しいのじゃ、ううう……これでやっと希望が見えてきたのじゃ。本当にありがとうなのじゃ。グスッ」


 ナジメは再度座り込み今度はすすり泣く。

ただしその顔は涙と鼻水で濡れてはいたが、子供らしい無邪気な笑顔だった。




※※※※※※



「なるほどね。そういった理由が合ったんだね」



 落ち着いたナジメが全てを話し終えた後、私はそう納得する。



 ナジメは長きにわたり冒険者として活動したのは、村を興す資金とナジメたちのような混血などの問題で迫害されている人たちを探し回っていたとの事。できれば保護するために。


 それは別れたナジメの姉のクロの願いだった、同じような境遇の者が安心して暮らせる居場所を造る事から起因している。


 そして少しづつ集めた者たちを住まわせる場所を用意出来たのが、ここ数年の領主になってから。


 その同じ境遇の者たちの住む土地は、冒険者時代で稼いだ資金で国から借り受けている物で、ナジメはそこの領主にもなってるらしい。


『うん、だから模擬戦の時に『わしの村』がどうとか言ってたんだね。てことはこのコムケの街と、そのナジメが囲っている異端者?たちの村の2か所の領主だってことだよね』



 だがそのナジメの姉の名前から取った『クロの村』と名付けられた村は非常に小さく、何の特産品もないどころか、住んでいるものは子供が非常に多く、近くに大きな街もない。


 そのせいで流通も少なく森や山といった資源がとれる場所はあるが、弱いながらも魔物が多く子供が多い村の住人だけでは対処できない。そういった理由で国に治めるべく税金を捻出するのにも非常に苦労してるらしい。



『て、言うか、多分ナジメが個人的に何とかしてそうだけど。そんな感じだと』

 

 なんて思うが、そこまで突っ込むことは出来ない。


 詳しく知ったところで私個人が何とか出来るとも思えないしね。



 そして大会の優勝賞品の中にナジメの望む物『土地と所有権』があるらしい。



 ナジメは過去の大会で領主の地位を手に入れた。

 その後に住まわせる土地を入手したく数度大会に挑んだ。


 だが、


「――――数年前から何度も優勝を持っていかれたのじゃ。良く分からぬ集団によって根こそぎな。わしは毎年参加したがそれでも敵わなかったのじゃ……」


 ナジメは吐き捨てるように目を細め言い放つ。


「ナジメちゃんでも、何度も負けちゃうんですか……」


「「「………………」」」


 余程悔しい思いをしたのだろうとわかる。

 何度も挑戦して幾度も負け続けたのだから。

 ナジメの願いは幾年も叶えられなかったのだから。


 そこに絶好のチャンスがあったのに――――


 

『これがナゴタたちが言っていた、冒険者ではない見た事もない装備をした奴ら。って事だよね。確か上位入賞は冒険者が占めていたけど、各部門の優勝はそいつらが持って行ったって』



 私はふと気になり確認の為にナジメに問いかける。


「ねえ、ナジメ。今回もダメだったらどうするの? まだ領主を続けながらクロの村を守って行くの?」


「もちろんそのつもりなのじゃ。それは姉のクロの願いじゃったが、もうわし自身の願いに変わったのじゃ。それに村の人たちはわしの家族みたいなものじゃし、出来る限りは守ってくつもりじゃ」


「……そっかぁ。それじゃ逆に手に入れたらどうするの?」


「そう、じゃな…………村をこのコムケの街の近くに移して、わしはその村に住もうと思う。そうすれば領主も続ける意味もないしのう。また冒険者に戻って村を守るだけになると思う。その方が自由がききそうだし、わしに合っていると思う。と考えておるのじゃが」


「なるほどね、土地を手に入れても、また冒険者に戻って村を守って行くって事なんだ。だったらこのコムケの街と、その村をくっ付けちゃいなよ?ナジメが領主のままだったら可能なんでしょう?」


 とナジメに問いかける。


 若干、いやかなり、私の将来を見据える希望も入ってはいるが。


「そ、それはどう、じゃろう…………うむ、じゃが街を広げる意味合いならば可能かもしれぬ。それだとこの街に、わしみたいな者が多く住むことになるのじゃぞ? わしはあまり混血じゃと気付く者が少ないが、村の者の多くの容姿や風貌は……」


「それは今は気にしないでいいよ。とにかく可能だということがわかればいいんだ。それにそれが国の法に触れるわけではないんでしょ?」


「う、うむ、今の国王さまはわしの時代みたいに、そこまで異人を毛嫌いはしておらぬから、そこは大丈夫じゃろう。一応この街の知り合いの貴族にも聞いては見るが、じゃがしかしそんな簡単にこの街の者が……それに村の者たちも……うむむ~」


 私の提案にナジメは頭を抱えて唸り声を上げる。


「ねえ、皆もそれでいいよね?ナジメもここを拠点に出来るし、この街ももっと賑やかになりそうだし」


 そんなナジメは放っておいて私はシスターズに声を掛ける。


「スミカお姉ちゃんっ!ボクもその方が良いと思いますっ!」


 シュタッと一番に手を挙げるユーア。


「アタシは別にどちらでもいいわよ?ただスミ姉やユーアがそうしたいなら力を貸してあげるわっ!」


「私も賛成です。それに混血の方は特殊な能力を持っている方も多いとされているので、もしかしたらこの街の発展の要になる可能性もありますしね」


「うん、ワタシも賛成だなっ!もしかしたら面白い能力や特技を持ってそうだもんなっ。ならワタシも会ってみたいな。色々と為になるかもだしなっ!」


『わう~~んっ!』


 どうやら私の提案は誰の反対意見も出ずに満場一致で決まったようだ。


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