第167話ナジメのお願いと仮メンバー?




このお話はナジメの幼少の頃のお話です。

時間軸では本編の100年近く前のお話です。


※残酷な表現や人権に関わるお話があります。

 苦手な方はご遠慮ください。


※過去の話と、現在とが交互に進んでいきます。

 予めご了承ください。






 ナジメは喉を潤し、私たちも釣られるように各々の飲み物を口に含む。


「それで、わしを守ってくれたねぇねがどうしたかの話と、わしの『小さな守護者』の能力が発動した話の続きじゃったな……」


 ナジメは皆を見渡し呟くように話を再開する。


 最愛の姉の行方と当時は忌むべき能力だった話を。


「…………ねぇねは、わしが目覚めたらいなくなっておったのじゃ」



※※※※



「ね、ねぇねっ、も、もう逃げてくれっ!じゃないとねぇねがっ!」


 わちは脱力したように体を預ける、目を閉じたままのねぇねに叫ぶ。


「ねぇねっ、お、起きて逃げてくれなのじゃっ!」


 覆い被さるねぇねをゆさゆさと揺すりながら。


 だが目を瞑り覆い被さったままのクロは呻き声ひとつ発せず、

 代わりに聞こえてきたのは、わち達を襲った男の下卑た声だった。


「うん? 良く見りゃこの姉の方は中々見栄えいいじゃねえかっ…………もしかしたら物好きな奴がいるかもしんねぇな――――」


 そしてねぇねの温もりと重みがなくなり、わちと男の目が合う。


「やっぱり、こっちはいらねぇな。いくら何でもガキ過ぎらァ」


 そんな言葉と同時に、男の持つ武器が振り上げられる。


「も、もうやめてくれなのじゃっ!ね、ねぇねっ、ねぇねっ――!」


 わちは男に懇願しながらも姉を探し名前を呼ぶ。

 わちが守りたかった、そして守ってくれた姉の名を。


「ちっ、うるせえっ!」


 ブフォンッ


 そして振り下ろされる凶器。

 初めて恐怖した我を忘れる程の激痛が、


 それがまたもわちに向かって――――


「う、うわぁぁぁぁっっっ!!!!」


 ガゴォ―ンッ!


「ハァッ!? 何だってんだッ!?急に固くッ!!」



※※※※


  

「―――――そうして、わしは再度振り下ろされる男の攻撃に初めて能力が発動したのじゃ。姉のクロを守る為にではなく―――――」


「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」


「―――――結局は、自分自身を守る為だけに発動してしまったのじゃ」


 顔を伏せ俯きながら、小さな拳をぎゅっと握って話を続ける。


「その後、わしは気を失ってしまったのじゃ。それが痛みへの恐怖だったのか、能力を急激に発動させた影響かどうかはわからぬが、目を覚ますと独り暗い森の中に取り残されており、わしは直ぐにねぇねを探したが見付けられなかった……」



 ナジメはそう言い終わり視線を上げた後そっと目を閉じる。

 強く握られた拳も小さな体もわずかながら震えている。

 

 それでもナジメの話は続いていく。



「わしは、ねぇねの想いと願いを叶える為、強くなろうと努力を重ねた。強くあろうと夢中になった。姉の願いはわしみたいな存在を守る事。住みやすい街を造りたかった事。そんな世界に変えたかった事。その為にわしは必要な力が欲しかったのじゃ……」


 ナジメはそう言い終わり、私たちを見渡し最後に私と目が合う。

 それを見て私も口を開く。



「……それが、冒険者としての純粋な強さと、領主としての権力だったって事なんだね。そして、私の実力を試したのもそうだよね? ナジメの持っているものでも中々手に入らないものが現われたから」


 私はナジメの手を軽く握りながら問いかける。


 模擬戦の時、ナジメはユーアを演技とはいえ攻撃した。


 それはルーギルから聞いていた私の大事な者にちょっかいを出したらどうなるかを知っていたからだ。


 そうやってナジメは試したんだろう。私の実力がどれ程のものか。

 

 その結果如何によって手を貸して欲しく相談するか、否かの。


『……なんか利用されてる感じで嫌な気もするけど、ユーアたちもナジメを助けたいと思ってるし、なら私はそれを叶える為に動くだけ。まぁ、私も正直打算的な考えもあるけど、実際は何とかしてやりたいとは思ってるし……』


 私は強く握られたままのナジメの手をゆっくりと解すように開いていく。

 そして開かれた小さな手をキュッと握る。


「ナジメ言ってごらんよ」


 と一言だけ告げてナジメを見る。


「わ、わしと、2カ月余り先にアストオリア大陸で行われる大会に出場して欲しいのじゃ。それがわしと姉のクロの願いに、一歩繋がる事になるのじゃ……」


 私の手を握り返し若干躊躇いがちに言った内容は、思いもよらなかったナジメからの大会への参加の願いだった。



「へっ?大会って何? ナジメちゃん?」

「た、大会って何か面白そうじゃないっ!?」


 とユーアとラブナはさすがに知らなかったようだが、


「もしかして、ナジメが出て領主になった大会ですか?」

「ううっ!あの大会だったらワタシ出たいぞっ!」


 冒険者として各地を周ってきたナゴナタ姉妹の二人は見当をつけていた。



『……大会って、やっぱあれだよね? それとナジメの目的って――』


 私はナゴタとゴナタにトロール討伐に向かう最中に聞いた競技大会の事を思い出し、何となく納得する。それの賞品のどれかがナジメの目的なんだと。


 それと――――



 ナジメが勝てない程の何者かの存在を示唆しているって事も。



『そう。だからナジメは私を試したって事なんだよね?』


 ナジメが私の強さを頼る理由って言ったらきっとそれだろう。


 元とは言えナジメはAランク冒険者。

その強さを全て見たわけではないが、十分強者と言われる部類に入るだろう。


『……そんなナジメが敵わない相手がいる可能性があるって事かぁ……。もしかして未知の腕輪に関わっている奴らかもしれない。 ってそれよりも――――』


 私はチラッとナジメに視線を移す。


「じゃあさぁ、チーム戦もあるらしいからナジメも私たちのパーティーに入らな――――」


「じゃ、じゃから、わしもお主たちねぇね率いるバタフライシスターズとやらに入れて欲しいのじゃが、いいだろうか? わしなんかでも……」


「あっ」

『な、ナジメに先に言われたぁっ!』


 とナジメはみんなを見渡し真剣な表情でそう告げた。

 そして最後は私の目を見て深々と頭を下げる。


「ん?どうしたのスミカお姉ちゃん。先に何か言いましたか?」


「えっ? ううん何でもないよっ。そ、それよりもナジメが仲間になってくれるんだねっ!嬉しいねユーア」

「うんっ!!」


 私はユーアを撫でながら心からそう思った。

 

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