第364話男の子二人の事情




「はぁ~」


「どうしたのですか? スミカ

「どうしたです? スミカ

「………………」


「………………っ」

「………………っ」


 何度目かの溜息を吐いたところで、心配そうな目を向けてくるマハチとサワラ。

 その二人の間では、ずっと無言のリブ。


 そして、マハチとサワラに反応して鋭い目つきになるナゴタとゴナタ。



「何で呼び方変わってんのさ、マハチとサワラ」


 ようやくリブが口を開く。

 ただかなり不機嫌そうな声だった。 


「え? そうですか? お会いした時からこうだと記憶してますが?」

「わたしも最初からそう呼んでたです」


「はぁ~」


 それに対し、あっけらかんと何でもないように答える二人。

 その間では私と同じように溜息を吐き、項垂れて落ち込むリブ。

 

『はぁ~』


 そんな訳ない。


 この二人は、リブたちを襲った黒の少女の正体が、私だと知ると、急に態度と呼称が変わったのだから。何でもない訳ではなく、確固たる理由があるのだ。



 そんなマハチとサワラに対して口を開く。


「あのさ、これ以上妹分増やしたくないんだけど…… じゃなくて、弟分になるのかな? こういう場合は」


 チラと二人の女性らしい膨らみを見つめる。


 真っ平なリブと比べて、さすがは嫁と言われてるだけの、大層な物を持っている。

 だがしかし、それが実はだなんて、誰が思うだろうか。



「はい、男なので弟で結構ですっ! でも安心してください。わたしとサワラはスミカお姉さんに迷惑は掛けませんっ!」


「そうですっ! ただ眺めたり、恰好を真似したり、私物が欲しかったり、同じものを好きになったりするだけですっ! 夫婦になりたいとか、恋人になりたいとか、そう言ったものではないんですっ!」


「う~ん」


 何か、ヤバいのが聞こえた気がするけど、害意はなさそうだ。

 単純にアイドルに憧れるファンみたいな感覚なんだろう。


 ただし、


(うう、お姉さまに手を出したら、いくら知り合いでも切り刻んで……)

(男なのは驚いたけど、余計にお姉ぇに近付くのは我慢できない……)


 私の隣では物騒な事を呟いている双子姉妹がいるけど。

 それに、


「もうっ! 私がずっと一緒にいるのに、なんで今度は黒スミカなのよっ! ようやく双子姉妹の呪縛から解放できそうだったのにさっ!」


 マハチとサワラの間にも、恨み言を平然と口に出すリブもいた。



『はぁ、まさか二人が男の娘だったなんてねぇ。それとリブが少年愛好家なんてさ…… あ、こういうのはショタコンって言うんだっけか?』


 異世界に来たはずがここにきて、特殊な趣味の性癖の人に遭遇するなんて思わなかった。現代では身近なようで、実際には会った事もなかったというのに。



 そんなロンドウィッチーズの3人を、奇異な目ではなく、どちらかと言うと、珍獣を見る目で見てしまう。それとリブを見て、思い出したこともあった。


 ユーアを見る目が、マハチとサワラのそれだった事に。


 自分をボクって言ってたのと、色々とストレートな体型と、平らな胸も相まって、そう見えてしまったのだろう。そうだと思いたい。


『あの時は、一応釘刺したけど、大丈夫だよね? 女の子には興味ないよね?』


 女装のマハチとサワラを嫁と言うリブを見て心配になった。

 話だと少年が好きなはずなのに。



 そんな一番の問題の二人が、ナゴタとゴナタに邂逅した話はこうだった。



――――


 二人が冒険者駆け出しの頃。

 (この頃はまだ普通の男の子)


 幼馴染のマハチとサワラは討伐した魔物の事で、ある冒険者に因縁を付けられたそうだ。その獲物は俺たちが倒したものだと。


 その魔物には確かに、男が持っている剣での傷があった。

 そしてその他にも魔法での裂傷の後も。こっちはサワラの魔法だった。


 実際にはどちらの傷が致命傷になったかはわからないが、マハチの話だと、サワラの魔法を受けて、その先の茂みで倒れたそうだ。

 これだけ聞くと、サワラの魔法がトドめになってるはず。


 ただそれに対して冒険者たちが、駆け出しで、しかも魔法を使えるマハチとサワラを面白く思わなかったのだろう。二人を突き飛ばし、無理やりに獲物を奪って行ったそうだ。


 そんな中――――



「ちょっと待ちなさい。一般人から、しかもこんな子供から横取りするなんて、見過ごす事は出来ないわ。やっぱり冒険者はクズの集まりね」


「はぁ、こんな魔物ぐらいで子供たちを脅してかっさらうなんてさ、やっぱり冒険者は嫌な奴の集まりだなっ!」


 そんな二人に、颯爽と現れたのが、当時のナゴタとゴナタだった。



「ふ、双子姉妹で、しかもその凶悪な胸を持つのは、ぎゃぁっ!」

「う、薄青いドレスと、真っ赤な短パン、それと巨大な胸、あぎゃっ!」

「み、身の丈を超える武器と同じくらい、そのでっかい胸は、どはぁっ!」


 ナゴタとゴナタは、その冒険者たちを瞬く間に一掃して、驚き、呆ける二人には何も言わずに去って行ったそうだ。その強さを二人に植え付けたままで。


 それに、駆け出しの二人が憧れるほどの強烈な個性を見せつけていった。

 憧れを通り越して、自分たちもああなりたいと思う程に。


 

――――



「それで暫くは、自分たちを助けてくれたナゴタとゴナタに憧れて、胸の大きさ以外にも衣裳まで真似してたんだ。ってか、女装だよね?」


「はい、そうです。けど、ナゴタさんたちの衣装は直ぐに中止しました」

「二人が思ったよりも有名な方で、しかも悪名なので、みんなの目が怖かったです」


「で、その後は冒険者を続けるうちにリブと出会い、今度はリブ好みに矯正されてる最中って訳だ。ナゴタたちの事を忘れさせるために」


 緩みそうな頬を抑えながらリブの方を見る。



「矯正ってなにさっ! 私は二人を真っ当な男の子に戻そうと頑張っただけよっ! 私という頼りになるお姉さんに憧れる様にっ! それが今度は相手がスミカだなんて、あんまりだわっ! ううう……」


 私の冗談に、捲し立てる様に叫んだ後で泣きだすリブ。

 今にもハンカチを噛んで引きちぎりそうな勢いだ。


 そんな肩を落とし、泣きじゃくるリブに、


「わたしたちはリブ姉さんに感謝しています。本当はBランク相当の魔法使いなのに、わたしたちに合わせて進んでくれた事に、だからこれからも一緒にいたいです。ただし見た目は変わりますが」


「リブ姉。わたしも同じです。今後もわたしたちと一緒に冒険を続けてください。ただリブ姉好みと、わたしたちの姿は違いますが」


 落ち込むリブの背中に手を置き、優しく語りかけるマハチとサワラ。

 どうやら憧れよりも、リブと一緒にいた時間が勝っていたようだ。


 なんだけど、ちょっと気になる単語が……


「見た目が変わるとか、姿が違うとかってなに?」


 感動の場面のようで何かが違うと思い、二人に聞いてみる。


「はい、用意が出来ましたら、今度は黒スミカさまになろうと思います」

「黒スミカさまも、強くてカッコよかったのです」


 ニコと微笑みながら、二人はおもむろに胸からパットを取り出し笑顔になる。

 ナゴタとゴナタに憧れただけあって、かなりの肉厚のパットだった。


 ただしそうなると、必然的に男の子に戻るのは胸部のサイズだけ。

 衣装や髪型は女の子のままだ。



『………………イラッ』


 なに?

 その少年に戻った真っ平なのが私だって言いたいの?

 

 何か勘違いしてるけど、それは黒スミカの話であって、本体の私じゃないよ?

 それに見た事もないのに、それはおかしいでしょう? 私は気痩せ凄いのに。


 まぁ、別に見せるつもりもないけどね、相手は男だからさ。


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