第363話双子姉妹の事情




 リブをお姫様抱っこ。その後ろには、ナゴタとゴナタ、そしてマハチとサワラを透明壁スキルに乗せて運ぶ。


「あ、みんなを広場脇に運ぶから、ちょっとどけ、て? ――――」


 見物人の冒険者たちに、そう声を掛けようとしたら、既に視界の先には誰もいなかった。

 きっと気を利かせてスペースを開けてくれたんだろう。


「「「………………」」」


 ただ、全員が全員、私から視線を逸らしてるのは些か気になるけど。



「よっと、それじゃここに座って楽にして、回復薬も出すから」


 アイテムボックスよりソファーを出して、ゆっくりリブを座らせる。


「………………はぁ」

「なに?」

「何でこんなもの持ち歩いて…… ってのはもういいわ。それよりもマハチとサワラ、それと双子姉妹を先に治してあげて?」

「え? マハチとサワラはわかるけど、なんでナゴタたちも?」


 リブたちとナゴタとゴナタは、ついさっきまで戦っていた。

 訳は詳しくは知らないが、お互いの主張を通すために、模擬戦を利用していたはず。


 それなのに、リブがナゴタたちを気に掛ける理由がわからない。



「何でって、だってその二人はスミカの仲間なんでしょ? それとその姉妹はマハチとサワラを助けようと……」


「う、う~ん、いつつ、あ、お、お姉さま?」

「いてて、一体誰がお尻を…… って、お姉ぇ?」


「ううう、あの黒い女の人は一体…… リブ姉さん?」  

「うう、真っ黒のにやられたです…… リブ姉とスミカさん?」


 治療をする前に、4人がそれぞれに目を覚ます。

 ナゴタとゴナタは痛みに顔をしかめながら、マハチとサワラは襲われた相手の事を呟きながら。


 ガバッ


「マハチ、サワラ、大丈夫? どこか痛くないっ!」


 身を起こした二人にリブがすぐさま抱きつく。


「あ、リブ、回復するからそのままで」


 リブたち3人と、ナゴタとゴナタにもRポーションを使用する。

 これで痛みも魔力も完全回復だ。


「「………………」」

「「「………………」」」



『ふぅ~、後は、戦った理由を聞いて、この場を収めようか』


 治った途端、私を間において、チラチラと視線が行き来している5人を見てそう思った。





「う~ん、それじゃマハチとサワラは、昔にナゴタとゴナタに狩られた訳じゃなかったんだ。むしろ憧れに近いものを感じてたんだ」


「はい、そうです」

「はいです」

「………………」


「で、ナゴタとゴナタは私が叩かれたのを遠目に見て勘違いしたんだ。しかも急いで戻って行った私をリブたちが笑ったのを見て、小馬鹿にしてるんだろうと」


「はい、そうです。お姉さま」

「うん、そうだぞお姉ぇっ!」


「なるほど…………」


 私が間に入って、お互いに争った理由を聞いてみた。



 その理由を聞くと、ナゴタとゴナタは単純に頭に来ただけ。

 リブたちに飲み物を差し出し、尚且つ叩かれて、私をせせら笑ってた3人に対して。



「あのさ、私の事をそこまで尊敬?敬愛してくれるのは嬉しいんだけど、それで二人がまた昔に戻るのはやめてね。せっかく冒険者のみんなが認めてくれて、二人も頑張ってるんだから」


 そんな二人は、何故か、祈るような姿勢で私を見上げている。

 ムギュってるその塊を、なるべく視線に入れないように釘を刺す。


「は、はい、お姉さまっ! どうか私たちをこのまま置いてくださいっ!」

「お姉ぇっ! もうしないから、見捨てたりしないでくれよっ!」


「え?」


 軽いお説教を、三下り半と勘違いしたのか、縋るような目で訴える二人。

 三下り半の下りはちょっとした例えだけど。


 そんな姉妹は、さらに続けて、


「今後はお姉さまの身の回りの世話もいたしますからっ!」

「お姉ぇの体も、毎日お風呂でピカピカにするからさっ!」


「えっ!? い、いや、それはいいよっ!」


「そ、そうですか、わかりました……」

「う、うん、お姉ぇがそういうなら……」


『………………ふぅ』


 私は断れたことに、そっと胸を撫で下ろす。


 そんなの毎日されたら落ち着かないし、ユーアと一緒に入れない。

 そもそも誰得でもないし、むしろ色んな意味で私が損をするだけだ。



「って、言うか、私はナゴタとゴナタが新しい生き方を見付けるまでは、手伝ったり、二人を守るって前に約束したよね? なのに置いてくとか、見捨てたりはしないよ」


 ウル目の上目遣いで座り込む二人の頭を優しく撫でる。

 元々は、私を想っての行動が行き過ぎただけだから。


 もしも、同じ状況だったら、ユーアを守るために同じことしたかもしれないし。



「は、はいっ! これからもお姉さまの為に生きていきますっ!」

「うんっ! もっとお姉ぇの為に頑張るからなっ!」


「う、うん、まぁ、ほどほどにね」

 

 なんか二人の生き方が、この場で明白になった気がするけど、頷かないし、認めない。

 正直重いし、私に生き方を預けるには勿体ない二人だ。


 器量も性格も強さも、そして凶悪な胸部、もね。



「ふぅ」


 これでナゴタとゴナタの方の誤解は解けた。

 あの時のリブたちとのやり取りを説明して。



『に、しても、聡明なナゴタもいるのに、他の冒険者に絡むって…… 暫くは一緒に住んで様子見した方がいいのかな? 幸い土地はナジメのだから自由に使えそうだし』


 私とユーアは何だかんだで、最近は孤児院に住み着いている。

 ラブナもナゴタたちの家には帰らずに、未だにお世話を続けている。


『まぁ、ラブナの場合はユーアと一緒にいたいだけが大半の理由の気がするけど……』



 けれどそんな孤児院も、あと数十人は増える予定だ。


 住むかどうかは別として、ビエ婆さんたちや、スラムの子供たち。

 昨日連れてきた、エーイさんたち4人。


 大まかに数えれば、30人以上増える事になる。


 そんな中に私たちがいれば、もっと手狭になるだろうし、食事の用意も大変だろう。

 そう考えると、いつまでもお世話になる訳にはいかない。 



『ユーアやナジメとも相談して、私たちも引っ越しを考えようか。早くても数日中にはスラムの子供たちも来るだろうしね、うん。そうしよう』



 ここまでをさっと脳内で決めて、今度は意識をマハチとサワラに戻す。

 って、いうか、本当はこのまま思考の海に沈んでいたかったけど。



「で、次に、リブは置いておいて、マハチとサワラが○○○って本当なの?」


 リブを挟んで、ソファーにちょこんと座っている二人に確認する。


「は、はいそうですっ!」

「はいですっ!」


 そんな二人は、ナゴタたちと私をさっきからしきりに見ていた。

 微妙に、熱がこもった潤んだ瞳で。



「そうなんだ。別に証拠とか見せなくてもいいからね、ここでそんな事をしたら勘違いされるから。 はぁ~~」


 ラブナにも引けを取らない女性らしい膨らみを見て、私はため息を漏らした。



「「「………………」」」


 そんな私たちを他の冒険者たちは、遠目で何ともいえない目で見ていた。

 きっと内心では、私絡みでまた問題を起こしてるんだろうと、嘆息をついているんだと思う。


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