第427話汚い花火と新しい能力
『こ、怖い、そしてデカイよ、あの魔物より、
山ぐらいの巨大な黒い魔物。
杭型の顔面と、4枚に分かれた両翼、そして胸に開いた大きな窪み。
異様を通り越して、もはや不気味な存在だ。
魔物としても、生物としても嫌悪感しか感じない。
ただそんな魔物でさえ今のアタイには、野兎ぐらいの緊迫感しか感じない。
規格外の大きさや、異形な姿なんて、ただの見掛け倒しだ。
だって今、アタイの目の前にいる、小さな体躯の少女の方が、
『…………ごくっ』
その100倍以上も大きく、そして恐れを抱いているのだから。
―
「あっ!」
「なっ!」
シュ― ン
瞬間、黒いスミカが消えた。
アタイとロアジムさんの目の前からいなくなった。
ボトボト、ボトトッ ――――
それと同時に、地面に何かが落ちてきた。
蝙蝠のような巨大な翼に、蜥蜴のような巨大な足が。
ボトンッ!
更に続いて、杭型の魔物の巨大な顔面が。
「ひ、ひぃっ!」
「なっ!?」
アタイは恐怖で短い悲鳴を上げる。
両足と両翼、そして顔を無くした、胴体だけの浮いている魔物を見て。
「――――爆ぜろ」
「え?」
「なっ!」
今度は黒いスミカが、アタシとロアジムさんのいる壁の中に現れた。
そして魔物を睨みながら、小さく呟いた途端に、
ドバ――――ンッ!!
残った魔物の胴体が弾け飛んだ。
内部から何かが飛び出したように、破裂して跡形もなく吹き飛んだ。
ビチャビチャ
と、大量の血飛沫や肉片が、アタシたちのいる壁を覆い尽くす。
視界一面が何かの塊と、真っ赤かな血の色に染まる。
「た、倒したのか…… 全く見えなかったけど……」
これでユーアちゃんとハラミを襲った、あの魔物は跡形もなくいなくなった。
一瞬で四肢を落とされ、爆発するように弾けて消えた。
『で、でも、アタシたちはこれで助かったのか…… 本当に?』
隣に立つスミカを覗き見る。
魔物からの脅威は去ったが、体の震えが止まらない。
それはこの黒い少女が、今まで以上の脅威に感じるからだった。
ただし、それは――――
「スミカお姉ちゃん~っ!」
『わうっ!』
タタタ――――
それは、
黒い棺桶の中から現れた、ユーアちゃんとハラミを見るまでだった。
「ごめんね、ユーア。私のせいで、怖い目に合わせちゃって……」
「ううん、ボクが望んだんだもん。それにハラミが守ってくれたから」
「そっか、ハラミもありがとうね。あんなになってまで守ってくれて」
『わうっ!』
ユーアちゃんはスミカに抱き付き、笑顔で話している。
スミカはそんなユーアちゃんを優しく抱きしめている。
『うう~、無事で良かったぁ…… ユーアちゃんもハラミも……』
アタシはそれを見て、思わず涙ぐんでしまう。
二人が無事だった事もそうだが、
そして更に、アタシを泣かせる出来事が起こった……
「お~いっ! イナ~っ!」
「え?」
それは山の方からアタイを呼ぶ、元気な親父の姿を発見したからだ。
「お、親父っ!」
ダダダ――
ガバッ!
アタイは号泣しながら走り出し、親父の首筋に抱きついた。
「親父っ!」
「イナも無事だったんだなっ!」
「うん、うんっ!」
正直、何がなんだか分からない。
あの黒いスミカが何だったのか、どうしてユーアちゃんたちが助かったのか。
けど、これで終わったんだと思った。
「イナもどこもケガしていないなっ! 本当に良かったっ!」
「うん、うん…… ぐす」
ちょっと汗臭い、いつもの親父の匂いを嗅ぎながらそう思った。
力強くアタイを抱く、その温もりで実感した。
―
『…………消え、た?』
辺り一面に散らばっていた、魔物の破片が無くなっている事に気付く。
イナが透明壁スキルを飛び出した時には、既に消えていた。
辺りを見渡すと、残っているのはユーアたちが倒した魔物の死骸だけ。
黒の狂気の、私が倒したジェムの魔物の死骸はどこにもなかった。
『なら、なんでこの腕輪は残っているの?』
アイテムボックスに収納した、ジェムの数が5の腕輪。
この腕輪だけは、あの残骸の中に残っており直ぐに回収を済ませた。
『……て、事は。私が一人に戻って、ユーアと話している時に腕輪だけ残して消えたって事だ。今までの魔物は消滅せずに残ってたって言うのに、なんでこの魔物だけ?』
色々と疑問が残る。
今までは消滅せずに死骸を回収できたのに、なぜ今回は?
『なら、こっちは?』
『追尾』で後を付いてきている、もう一体の魔物の透明化を解く。
この魔物は洞窟内に出現し、実態分身の私を攻撃した小型の方だ。
止めを刺す時にラボに声を掛けられ、透明壁に閉じ込めたまま連れてきたもの。
体長は凡そ1センチほど。
極小のサイズと素早さで、実体分身の私を何度も貫いた杭型の魔物だ。
その魔物が、
『…………いない。 こっちも消えてる』
5センチのキューブ状にした透明壁の中に、その姿が確認できなかった。
あるのは、魔物と同じ大きさまで縮小した、ジェム5の腕輪だけ。
『……やられた、っていうか、多分、死骸から情報が漏洩する事を懸念して、こういう仕様に変更したんだ。それだけジェム5以上は特異な魔物かもしれない』
今回現れた魔物は、雑魚も含めて非常に厄介な魔物だった。
この世界に来たばかりの私だったら、容易く敗北したとさえ言える。
戦闘経験がどうとか関係なく、単純に戦いずらかった。
智略や小細工なんて、意味のないぐらいに相性が悪かった。
それがジェム5以上の魔物かもしれない。
今までとは強さの方向が違うかもしれない。
『それでも私たちの前に出てくるなら潰すだけ。ユーアを守るために、際限なく強くなるだけ。だからイタチごっこにはならない。絶えず私が上にいるからね。それに……』
メニュー画面を開き、新しく覚えた能力を見て笑みがこぼれる。
・~・~・~
『GGホッパー』
透明壁スキルがジャンプ台になる。
張力は調整可能、衝撃吸収もできる。
※スキルの重量・距離を超える物体は×
・~・~・~
これはジェムの魔物を討伐した時に増えた能力だ。
『なにこれ? もの凄く面白そうなんだけど。要は自在に操れるトランポリンみたいなものだよね? これなら空も自在に跳ねれるし、何なら味方や敵や、物体にも使えそう。くふふっ』
思わず変な笑いが出てしまう。
色々と使い勝手が良さそうな能力だと想像して。
『うん、これならトラップとしても使えるよね? どれ試しに――――』
試運転とばかりに足元1メートル前に設置する。
見た目は透明なままなので、普通の草原に見える。
「むふふ、それじゃ張力を最大にして乗ってみよう。どれだけって、ん?」
なんて、一歩前に出るとイナとラボがこっちに駆けてくる。
「スミカ姉っ! 親父を助けてくれて――――」
「スミカさ~んっ! 娘のイナを魔物から守ってくれて――――」
お互いに無事を確かめあって、どうやらお礼を言いに来たらしいが、
「あ、足元にホッパーが―――」
なんて危険な事を伝え終わる前に、
ビュンッ! ×2
「へ? うわ――――――っ!!」
「え? うおぉぉ――――っ!!」
地面より垂直に、夜空に向けて飛んでいってしまった。
「おおっ! もの凄い速さだっ! 軽々と飛んでいったよっ!」
目の前から消えたように、飛んでいった二人を見て感動する。
(うわ――っ! 本当になんなんだよっ! 外の世界の住人はっ!)
(イナっ! 俺に捕まるんだっ!)
ただしその上空では大騒ぎになっているのはご愛敬だ。
それに落ちてきても威力を吸収できるから大丈夫だしね。
なんて他人事みたく、飛んでいった二人を見ていたら、
「「じぃ~~~~」」
「うっ」
ユーアたちに白い目で見られたのもご愛敬だ。
これで後の仕事は、洞窟に残っている人々の救出だけだ。
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